22話 準備完了
思わぬ盲点と言うか買う前に気が付けよってミスで、ホワイトドルフィン号では戦いが厳しいという欠点が判明した。乗船拒否の効果でなんとか戦う方法は考えだしたが、なかなか面倒な戦い方なので、コッソリと進むことになりそうだ。海中の公爵城のスニーキングミッション。なんだか怪盗気分だな。
うーん、明日も練習できるんだし、ホワイトドルフィン号の訓練はこれくらいにして、サブの潜水艇の練習をしようかな。
このサブの潜水艇は悩んだんだよね。なんか潜水艇に詳しくない自分でも知っている、しん〇い6500とか売っていて、目移りが激しかった。
しん〇い6500は色々な機能が付いていて、岩石の採取とかもできるって説明があったんだけど、残念なことにサイズがお城探索には向かなかった。もう少し小型じゃないとね。
他の小型の潜水艇は、日本メーカーで昔の漫画で出てくる反重力未来カーみたいなフォルムの潜水艇や、アストンマー〇ィンのカッコいい潜水艇もあって目移りしてしまう。
ただ、日本メーカーの潜水艇もアストンマー〇ィンの潜水艇も、2シーターだったりアームが付いていなかったりと、微妙に目的に叶わない。
最終的に、ト〇イトンの3シーターの潜水艇を選んだ。丸くてほぼ全面が透明の潜水艇。アームが1本なのが少なく感じるのと、色が黄色なのが目立ちすぎる気がしたが、色の方は船偽装でなんとでもなるから大丈夫だろう。
「では、サブの潜水艇の練習を始めます。これは3人乗りですから、操縦士と攻撃2人で乗り分けます。僕の場合は運転が僕で、リムがメインの攻撃、イネスとフェリシアがサブの攻撃になりますね。それと、この潜水艇は小さいので、武器での攻撃がある程度やりやすいと思いますので、それを踏まえて別れてください」
アレシアさん達がキャイキャイと相談を始めた。操縦もやってみたいし、攻撃も面白そうだと、結構紛糾している。
「あっ、小さい潜水艇なので、槍や盾なんかは持ち込めないので注意してください」
うわっ、カーラさんがウルウルした瞳で僕を見ている。そういえばカーラさんって大きな盾を装備しているから、持ち込めないのがショックなんだな。
……しょうがないことなんだけど、カーラさんを悲しませると、とても心が痛くなる。イネスの実家で、イネスから同じ目で見られた時は自業自得だって思ったから、人徳がだいじなことが分かる。
あっ、地味にドロテアさんもショックを受けている。あの人も槍だから持ち込めないのか。
一応、この潜水艇も海水を乗船拒否できるだろうから、ハッチを開けっぱなしにすれば、槍を潜水艇外に突き出したまま持って行くことはできる。でも、長い時間、海水の抵抗を受ける槍を持ち続けるのも現実的じゃないよね。
「ご主人様。私だとお役に立てそうにないのですが……」
おっと、こっちにもションボリしたフェリシアがいた。ああ、弓だし雷属性の魔法は拡散するから、短剣くらいでしか戦えないのか。分かっていたことだけど、海中って僕達にかなり不利だよね。
「フェリシアは一緒に居てくれるだけで、僕が幸せだから役に立っているよ」
「……ありがとうございます?」
確実にスベった。奴隷とはいえ、僕を恩人として慕ってくれているフェリシアのこの戸惑った表情。結構ヤバ目のスベりかただ。
…………
「ワタルさん、決まったわよ」
心が折れて、ひたすら沈黙してリムをムニュムニュしていると、天の助けがやってきた。もう少し早く決めてほしかったが、贅沢は言わないでおこう。どんなチーム分けになったのかな?
ワタルチーム
操縦 ワタル 攻撃 フェリシア イネス リム
アレシアチーム
操縦 アレシア 攻撃 イルマ カーラ ふうちゃん
ドロテアチーム
操縦 ドロテア 攻撃 マリーナ クラレッタ べにちゃん
うーん、なんとなくバランスがとれている……のか? まあ、攻撃の主力になるリムとクラレッタさんは別れているし、幻惑魔法が使えるイルマさんと近接攻撃力が高いカーラさんの組み合わせも有りっぽいかな。
「でもワタルさん。船を見ないと、どう戦えばいいのかがちょっと分かり辛かったわ」
「……すみません。アレシアさんの言う通りですね」
潜水艇を見せた後にチーム分けした方が確実だった。まあ、組み換えは自由なんだから、練習のあとにでも調整してもらおう。
「えーっと、とりあえず召喚してみます」
ルト号の後部デッキから小型潜水艇を召喚する。
……小さいのは分かっていたんだけど、黄色のボディに透明な丸い球体がポコッとハマっている船体は、おもちゃのように見える。これが2億か……なんか騙されている気がする。
「へー、可愛らしい船ね。それに、透明な部分がほとんどだから、海に潜ったら楽しそうね」
アレシアさん達が上機嫌に召喚した潜水艇をのぞき込んでいる。僕はちょっと不安になったけど、女性陣には意外と好評なようだ。
「ワタルさん、この船はなんて名前にするの?」
あー、そうだった。名前か。買ったメーカーの名前をもじるとトライ号か? なんか真ん丸の船体に似合わない気がする。
単純だけど、丸いからボール……これはなんか、大人気のロボットアニメで出てきた気がするから止めておこう。
うーん、形はちょっと違うけど卵でいいか。中に人が入ると生命を内包している的な感じで、なんだか深い気がする。
「この潜水艇はエッグ1号にします。残りの2艇はエッグ2号、エッグ3号ですね」
女性陣の反応は、ふーん、そうなんだーって感じだ。ちょっといい感じで名前を付けられたと思っていたので、地味にショックだ。
「えーっと、じゃあまずは、操縦の仕方を見せるので、操縦者だけで乗ってみましょうか」
スタッフ任命でなんとでもなると思うけど、先にある程度操縦を見せておいた方がいいだろう。ついでにイネスの分も含めてチケットを作り直しておくか。
「じゃあ、私とドロテアね」
「そうですね。じゃあ乗りましょうか」
ハッチを開けてエッグ1号に乗り込む……僕と頭の上に乗っていたリムは分かる。ドロテアさんに抱えられていた、べにちゃんも問題ない。でも、マリーナさんの頭の上に乗っていたはずのふうちゃんが、しれっとアレシアさんの頭の上に乗っているのはどうなんだろう?
思わず透明なアクリル越しからマリーナさんを見ると、そこはかとなく悲しそうな表情でふうちゃんを見つめている。ふうちゃんって、意外と小悪魔系なのかもしれない。
「……じゃあ、出発しますね」
「ええ、楽しみだわ」
「お願いします」
ジョイスティックみたいな操縦桿を握り、ゆっくり潜水を開始する。
「ワタルさん、景色はとっても綺麗なんだけど、遅いわね」
アレシアさんの言いたいことはよく分かる。
「ワタルさん。これだと、魔物から逃げられないと思うのですが」
ドロテアさんの言いたいこともよく分かる。
『……ゆっくり?』
リム、全速力なんだよ。
「この潜水艇はお城の中を探索するために買ったので、速度は出ないやつなんです」
時速5キロ程度らしいから、スピードが出ないのは分かっていたんだけど、歩く速度よりも遅いのは予想外だ。僕の中では小走り程度の速度かなって思っていたけど、人間って意外と早く歩いているんだな。
「ああ、建物の中で速度が出ると危ないものね」
「たしかに建物の中を移動すると考えると、このくらいのスピードがちょうどいいのかもしれませんね」
意外と簡単に納得してくれた。それと、この潜水艇は外海で乗るのに向いていない気がする。周囲に海水しかなくて、景色が変わらないから更に遅く感じるよ。
まあ、操縦も簡単だし、エッグ1、2、3号で戦い方の練習をするか。3艇だからフォーメーションとかも考えられるな。明日も練習の予定だけど、そんなにやることあるかな?
***
「やっと戻ってこられたわ!」
2日間の潜水艇の練習が終わり部屋でのんびりしていると、イネスが戻ってきてベッドに倒れ込んでダルそうに叫んだ。戻ってきたって言ってもらえるのは嬉しいんだけど、イネスがさっきまでいたのは実家だよね。
それと、おしとやかなイネスはどうなったの? ベッドで足をバタバタさせるのは下品だよ。
「えーっと……ベラさんに色々と教えてもらったんだよね?」
「そうなのよ。家事とか掃除とかを押し付けてくるから大変だったわ。でも、ご主人様のお土産と、豪華客船への招待のおかげで、完璧に煙に巻けたわ」
イネスが物凄いドヤ顔をしている。
「どういうこと?」
「ふふ。母さんがご主人様の船に興味津々だったから、情報を対価に家事と掃除の免除させたのよ」
……しまった。お土産や船への招待は、イネスの教育が終わってからにするべきだったのか。
「そうなんだ。えーっと、楽しみにしてくれているみたいで良かったよ」
「ええ、家族もフローラも待ちきれない様子だったわ。買い物を楽しむために十分に資金を用意するように言っておいたから、準備は万端ね。フローラなんか、お給料を前借りするって言っていたわ」
へー、この世界でも前借りとかできるのか。って違う。
「そんなことをして大丈夫なの? 招待の後でも生活しないと駄目なんだよ?」
僕のせいで生活が厳しくなったりしたら、気まずいんですけど。
「あっ、そのことでお願いがあるんだけど、煽り過ぎちゃったから購入制限をお願いね。まあ、フローラは実家暮らしだし、うちも父さんもダリオも働いているから大丈夫よ」
自分が楽をするために、豪華客船を使って煽り倒したらしい。したたかと言えばいいのか、図太いと言えばいいのか分からないが、僕とベラさんはイネスに負けたんだな。まあ、購入制限くらいは簡単だからいいか。
「それよりもご主人様。久しぶりにビールを飲みたいわ。それと、私が居なかった時に何をしていたのか聞かせてね」
ベッドから起き上がったイネスが、ギュッと抱き着きながらおねだりしてきた。うーん、ちょっと離れていただけなのに、なんだかドキドキする。でも、明日は朝早くから冒険なんだよね。お酒を飲ませない方がいいんだけど……。
「……明日は早朝から冒険だから、少しだけだよ」
僕は弱いな。
「そういえば、冒険するのよね。詳しく聞いていなかったけど、どこに行くの?」
「海に沈んでいる、公爵様のお城探索」
「ホント!」
おふ、僕を抱きしめていたイネスの腕に力が入り、中身が飛び出しそうになる。イネスの地元で有名な場所らしいし、好奇心が強いイネスなら、まあ、喜ぶよね。でも、次から抱きしめられている時に、イネスが喜ぶ話はやめておこう。
イネスも戻ってきたし準備も終わった、いよいよ明日から海の中の公爵城の探索か。大冒険の始まりみたいで、ちょっと興奮してきた。
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