33話 閑話 デートとワタルの石選び
ついにこの日が来た。僕は今、クリス号の教会で美食神様を待っている。キャッスル号を開放して王侯貴族、豪商にまでお披露目したんだ。絶対に美食神様の膝枕をゲットできるはずだ。これでも娯楽神様に否定されたら乗船拒否する心構えだ。
ひゅんっと創造神様と光の神様が現れた。
「航君久しぶり。今日は新しい船だよね。楽しみだ。じゃあね」
返事を聞かずに走り去っていった。……相変わらずだな。創造神様に聞きたい事もあったんだけど、まあ良いか。
「航さん、お久しぶりです。創造神様が申し訳ありません」
「いえいえ、楽しみにして下さっていたみたいで、僕も嬉しいです」
光の神様とお話しできるだけで創造神様の事等忘れてしまいます。
「そういって頂けて助かります。それで航さん、新しい船ですが、自由に行動しても良いですか?」
ちょっと困った光の神様の微笑、好きです。
「はい、自由に行動して頂いて問題ありません」
「ありがとうございます。それと、今回も女神達をスパ等にスタッフ任命して頂きたいのですが、構いませんか?」
「はい、大丈夫です。前回と同じ流れで良いですよね」
「はい」
光の神様との会話をしている間にも、神様達が現れては教会を出て行く。戦神様も軽く手を上げて酒だ! っと意味不明だが目的は分かる言葉を残して去って行った。絡まれないように注意しないとな。
「異世界人、ちょっと良いか?」
「はい、何でしょうか?」
いつもは軽く手を上げて去って行く魔神様が珍しく話しかけて来た。
「うむ……キャッスル号で読みかけの本があるのだが……」
言いたい事は分かる。魔神様もどうしようもない事が分かっているのだろう、言葉を続けない。そんなに気になるのか? 何の本を読んでいたのか気になる所だな。
「この船にも図書室はあるので、有名な本ならこちらにも置いてあるかもしれません。無かった場合ですが、当分先になってしまいますが、この船とキャッスル号を交換する事もあると思いますので、それまでお待ち頂けますか?」
「そうか、読める可能性があるのなら問題無い。すまなかったな。ではこの船の書物を楽しませてもらうぞ」
そう言って歩いて去って行く魔神様。心なしか速足で図書室に向かう魔神様。楽しんで貰えると良いな。
「あのー、光の神様。神界には本が少ないんですか?」
「いえ、沢山ありますよ。ですが神ですから長い時間で読みつくしてしまうんですよね。異世界の本は魔神の好奇心を満たしてくれるらしく、とても喜んでいますよ」
「そういう事なんですね。楽しんで貰えるのなら良かったです」
「ふふ、ええ、とても楽しんでいるので心配しないでください」
男性神様達が教会を出て行くと美食神様と森の女神様、娯楽神様が現れた。
「航さん久しぶり。新しい船の料理が楽しみね」
「航さんお久しぶりです」
「異世界人君、久しぶりだね」
「美食神様、森の女神様、娯楽神様、お久しぶりです」
これで僕の中の3大女神様が揃った。素晴らしい光景だ。娯楽神様とはあまり目を合わさないようにしよう。
「それで、あのー、美食神様、今回は結果を出したと思うんですが。どうでしょうか?」
「うふふ、大丈夫よ。キャッスル号が開放されたのはしっかり確認してるわ。私も約束は守るから安心してね」
恐る恐る娯楽神様を見る。少しつまらなそうだが文句は無いようだ。
「ふふ、娯楽神の事は心配しないで大丈夫よ。ちゃんと納得しているから問題無いわ」
「ぶぅ、もう少し粘れるのに。今ご褒美をあげたら、キャッスル号はまかせっきりになっちゃうって言ったのに」
「もう十分でしょ。任せっきりでもこれからどんどん広がって行くわ。それなら神としてちゃんと約束を守らないとね。航さん楽しみにしていてね」
恐ろしいな。娯楽神様はゴールしたのに、そこからニンジンを取り上げようとしてたのか。本気で乗船拒否したいな。
「はい、楽しみです」
「航さん、全員揃いましたから移動して良いですか?」
美食神様と話している間に女神様が全員揃っていたらしい。素早く済ませてさっそくデートだ。森の女神様と美食神様とのデートってどっちが先なんだろうか? どっちでも嬉しいが、先にスタッフ任命をしてから話し合いだな。
スパに入り、女神様方をスタッフに任命する。新しいスパに女神様方も興奮気味なのか騒がしい。次は各種ショップだな。クリス号に来るまでに働く店を決めてあったのかスムーズに任命が終わる。
「これで最後ですね。あとは、どうしましょうか?」
「私は新しい船の中を見て回ります」
光の神様は船内見学か。
「後は……私と森の女神ね。いつもなら森の女神が初日にデートしていたわよね。今回から私も加わるんだけど、どうしようかしら?」
「私はどちらでも良いですけど、初めての美食神からの方が良いかもしれませんね。約束も早めに履行した方が良いでしょ?」
「うーん、それもそうね。航さんもそれで良い?」
「はい、よろしくお願いします」
良かった、どっちが先が良い? っとか聞かれたら1日悩む自信があったからな。決めて貰えて助かった。
「それなら、私も船内を見て回って来ますね」
森の女神様も散歩に行ってしまった。いつか光の神様、美食神様、森の女神様の3人とハーレムデートしたいな。
「じゃあ、デートね。航さんがエスコートしてくれるの?」
……美食神様の太ももと耳かきしか考えてなかったな。ラグジュアリークラスだけあって、上品な雰囲気でカジュアルクラスと違って派手に遊ぶ娯楽が少ないんだよな。デートならキャッスル号の方が向いているかも。
「そうですね。僕もこの船であまり生活していないので、午前中は船を見て回ってから昼食を取ってプール、耳かきって流れはどうでしょう?」
「あら、デートの流れを先に言っちゃうの? 駄目よ、秘密にしないとドキドキが減るでしょ?」
そんな事を言われても。何の仕込みもしてないんだよな。図書室にクリス号のお勧めデートガイドとか無いのか?
「あはは、美食神様、どうにも僕には洗練されたデートは無理みたいです。一緒に楽しむ方向でお願いします」
「そう? じゃあ一緒に楽しみましょうか。元々航さんの頑張りに対する報酬なのに、意地悪言ってごめんね」
「いえいえ、ご一緒出来るだけで光栄なんですから、何の問題もありません」
本気で、神様とデートなんてどんな幸運があれば出来るのか、宝くじより倍率狭そうだよね。
「じゃあ、見て回りましょうか」
「ええ、行きましょう」
いきなり腕を組まれてビクつく僕。
「あら、違った? 映画だとデートは腕を組むのよね?」
「いえ、そうなんですけど、慣れてないので驚きました。行きましょうか」
映画……何の映画か分からないけど、ありがとう。たぶん素晴らしい映画だと思う。腕を組みながら歩く。スタイル抜群の巨乳美女と腕組デート……夢じゃないよね。偶に当たるフヨンとした感触。あててんのか?
「神界で見ていたけど、キャッスル号とは随分雰囲気が違うわね。落ち着いててこういう雰囲気も好きよ」
「そうですね。皆でワイワイと楽しむというより、落ち着いて優雅な時間を過ごすのを目的とした船らしいです。この船は料理に力を入れているので、美食神様にも楽しんで頂けると思いますよ」
「ふふ、航さんがキャッスル号でばかり過ごすから、この船の料理はあまり見れてないのよね。和食、航さんの故郷の料理だったかしら? あの料理もとても興味深かったわね」
「キャッスル号は当分使えなくなるので、あちらを楽しみつくそうとしていたんですよね。今度からはこの船が生活の主体になりますね。和食は美食神様に是非とも覚えて頂きたいので、頑張ってくださいね。手料理を期待しています」
「料理なら自信があるわ。任せてちょうだい」
頼もしい。そして胸を張っていうから豊かなお胸様がプルンって……プルンって美味しそうです。
「お願いします」
話しながら船内の店を見て回る。美食神様が喜んでくれるので、ついつい料理店を見て回ってしまう。カフェでお茶を飲み、メインダイニング、日本食、イタリアン、中庭でも気軽にランチが楽しめるみたいだ。
ショッピングアーケードを見て回る。服飾に興味の無い僕でも知っているブランドが入っているんだよな。なんか豪華客船って凄い。
「美食神様、ふと思ったのですが、もし僕がここにあるジュエリーを買って、美食神様にプレゼントしたいって言ったら不敬になったりしますか?」
「プレゼント? ふふ、そうねプレゼントよね。あはは」
「何かおかしな事を言っちゃいましたか?」
「いいえ、航さんは何も悪くないの。ただ、今までは捧げ物として形だけの奉納だったのだけど、ここなら普通にプレゼントされるんだと思うと、なんだかおかしくなっちゃったの」
あー、なるほど。普通は神様に会えないし、プレゼントと言うより、神殿に奉納って形になるよね。
「そうでしたか。ではプレゼントは不味いですか?」
「いいえ、航さんが良ければ、是非とも頂きたいわ。プレゼントを貰えるなんて素敵な事だもの。あっ、でも森の女神にもプレゼントはしてね。不味いですかって聞くぐらいだから贈っていないんでしょ? 私にだけ贈るなんて、同じデートをしているのに差をつけるのは駄目よ」
うん、他の女性にもちゃんとプレゼントしろって言われた。切ないぐらいに望みが無いな。まあ、一緒に歩けて耳かきまでして貰えるのなら十分か。相手は女神様だもんな。
「分かりました。しっかり森の女神様にも贈りますね」
どうせなら光の神様にも贈りたいんだけど、流石にいきなり渡すのもどうかと思う。デートって理由があれば、まだ何とかなるんだけど難しいよね。
「ありがとう。どんな物を選んでくれるのかしら?」
僕が選ぶのか……当然だけど、きゃー、これ可愛い。ふふ、それが欲しいのかい? 僕が買ってあげるよ……的な事にはならないらしい。
「真剣に選びますね。ちなみにネックレスと指輪ならどっちが良いですか?」
「あら、航さんが選んでくれたものなら何でもいいわよ?」
「お願いです、ヒントをください。この数ある中で方向性が見つからないと、出口まで到達できません」
伊達に南の大陸で宝石選びにトラウマを抱えたりしていない。ヒントが無いと詰む。何となく一緒に選んで、じゃあこれにしましょうかって、簡単なやり取りを想像していたから想定外にも程があるな。
「そんなに、泣きそうな顔をしないでよ。うーん、分かったわ。料理をするから、どちらかと言うと指輪よりネックレスが欲しいわね」
「分かりました。申し訳ありませんが、外でお茶をしててもらえますか?」
「ふふ、分かったわ」
店を出て行く美食神様を見送り、気合を入れてネックレスを選ぶ。……高級品だけあってどのアクセサリーも良く見える。こうなると美食神様に似合うという方向性で選ぶしか無いな。
抜群のスタイル、白い肌、妖艶な雰囲気……ダイヤモンドかルビーかな。朝に任命した店員さんにアドバイスを求めたいけど、話を聞いていたみたいで、頑張ってって顔で見て来る。聞けないな。
いっそのこと自分にスタッフ任命をしようかとも思うが、なんかそれはそれで駄目な気がする。僕のセンスで選びなさいって事なんだろうな。
真剣に悩んだ結果、ルビーよりダイヤモンドかな。ダイヤモンドは失礼な言い方かもしれないが、無難で安心できる気がする。ダイヤモンドと言ってもいろんな形の石があるんだな。
流石に十字架の形は駄目だよね。地球の宗教のシンボルなんだし、ハートの形も違う気がする。悩みに悩んだ末、大粒のダイヤモンド単品のネックレスで勝負に出る事にした。
余計な飾りは要らない。大粒のダイヤモンドにプラチナの鎖で行こう。デザインに特徴があると、似合う似合わないがハッキリ出て危険だ。
店員の女神様に手渡し反応を窺う。……無反応だ。確実に表情を消している。不安が急上昇だ。プレゼントをしたいとか言い出すんじゃなかった。
店を出てドキドキしながら、カフェでお茶をしている美食神様の所に向かう。どんなに変な物だとしても、美食神様は笑顔で受け取ってくれるとは思うが、どうせなら喜んで欲しいよね。
「あのっ、美食「あー、航君だ」神様」
なんでこのタイミングで創造神様が現れるんだ? 僕が何か悪いことした?
「ねえ、航君、この船のカジノでも負けちゃったよ。ねえ、どうして? おかしいよね。僕創造神なんだよ。絶対におかしいよね」
……どうしよう。久しぶりに創造神様が本気でウザい。
この閑話でデートは終わらせる予定だったのですが、収まりきらず、分ける事になりました。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスを頂ければ大変助かります。
読んで頂いてありがとうございます。




