28話 孤児院の内装と生活準備
ルッカの街で購入した奴隷を連れて、フォートレス号でカリャリの街の港から少し離れた場所に到着する。
「アレシアさん。僕が何度かに分けて奴隷を港にルト号で連れて行きますから、孤児院まで連れて行ってもらえますか?」
「うーん、皆一緒に行った方が良いと思うわよ。主でない私が人の奴隷を何人も街の中に入れるのもおかしいわ」
「そうですか? それなら港に奴隷が集まっていると、何があるか分かりませんから彼らの護衛をお願いします」
街には人が少ないけど、港には物資を届ける船が沢山来てるからな。そう言えば資材も沢山運んだし、海軍本部もそろそろ完成してもおかしくないよな。あとで商業ギルドのおっさんに話を聞いてみよう。
6回に分けて奴隷を港に運ぶ。まだキャッスル号は開放しないから、取り敢えず準備が整うまでキャッスル号で働く予定の料理人と事務員もキャッスル号の開放まで孤児院で生活してもらう。
研修みたいな事も必要だろうから、孤児院のめどがついたら早めにキャッスル号に行かせるか。
総勢57人とリム達でゾロゾロと門に向かう。一応何度も出入りしているし、魔導士様の関係者って事は知られているので、何時もより時間が掛かったが中に入る事は出来た。
孤児院に到着して重い鉄の扉を開き中に入る。内装は整えたはずだけど、外観は武骨なままだから孤児院には見えないな。奴隷達も小さな声で、孤児院じゃなかったのか? とか騙された。とか聞こえて来る。
騙してない。ちょっと外観が要塞っぽいだけだ。言い訳しても無駄なので、孤児院の中に入る。
「思った以上に明るい雰囲気になってますね」
「ふふ、みんなで考えたのよ。でも思った以上に形になってるわね」
薄暗く武骨な雰囲気だった内部が、カラフルな色に塗られた家具と、石の壁に掛けられた淡いクリーム色の布で少し明るい雰囲気になっている。布って高いんだけど、まあ予算もあるんだし怖がられるより良いか。
光があまり入らないので薄暗いが、幼稚園みたいな配色で子供達が怖がりそうな雰囲気が薄れている。
「少し暗いですが、いい感じですね」
「うふふ、まだ考えがあるのよ。あの壁と布の間に光の玉を浮かべると……ほら、結構素敵でしょ」
アレシアさんが自慢気な表情で僕を見て来る。……間接照明だと……いや、そもそも魔法の光を照明って言って良いのか? いや、そんな事はどうでも良い。クリーム色の布が全体的に優しい光を発している。オシャレだ。
「素敵なんですが、淡い光で明るさが足りないと思うんですが」
「そうね、孤児院としてはちょっと暗いかしら? 普通に光の魔法で照らしましょう」
天井にいくつか光の玉を浮かべると、明るさが増して子供達の生活空間として十分な雰囲気になった。布が多いので火事が心配だが、光は魔法だし、火を使うのはキッチンぐらいだから大丈夫だよな。
「これなら大丈夫ですね。でも毎回魔法の光では大変じゃないですか?」
「子供でも使える魔法だもの、問題は無いわよ。大きな部屋には同じような内装にして貰っているわ。子供達の部屋は、明るい色の家具とルッカで買った小物とクラレッタのぬいぐるみを飾る予定よ」
「まあ、いい雰囲気ですし全部飾って足りない物があったら足していきましょう」
奴隷の皆とは秘密厳守の契約をしているので、隠す事無く倉庫船を召喚して小物を配置してもらう。次は職員寮だな。
子供を直接面倒を見る10人は孤児院で生活して、料理人、教員、事務員は職員寮で生活する事にした。
職員寮にも買って来た小物を配置して、生活できる空間を作り上げる。南方都市で仕入れて来た衣服を渡して準備完了だ。
「ワタルさん、これでだいたい終わりかしら?」
「あとは、最後に腐らない荷物を倉庫に収めて終了ですね」
「そう、分かったわ。さっさと済ませちゃいましょう」
倉庫に行って2階に職員や子供達用の衣服、家具をしまう。
奴隷を集めて、孤児院の院長は良い人が見つかるまで僕が形だけ就任すること。奴隷のまとめ役は一応潰れた商店の主だったエルモさんにお願いした。この人は教師と兼任だ。潰れたってところが不安だけど、真面目で店を潰したタイプだから孤児院には向いてそうだ。悪い事は契約で出来ないしね。
3食しっかり食べられる事と、毎月3銀貨のお小遣いを渡す事。運営資金は十分にあるから、一般的な生活が送れることを約束すると、奴隷達の顔が明るくなった。
待遇としては一般的な奴隷に比べるとまあまあ好待遇らしい。もう少し待遇を良くしても良いと言ったが、奴隷と孤児が裕福過ぎる生活をしていると、碌な事にならないとマウロさんに言われた。難しい。
「そう言えばワタルさん、護衛の武具はどうするの?」
……すっかり忘れてたな。
「すみませんがアレシアさん、商業ギルドで門番と護衛の7人の為の武具を購入してきてもらえますか? 取り敢えず5金貨を渡しておきますので、ある程度の物を揃えてください」
「分かったわ。任せて」
アレシアさんとマリーナさん、カーラさんが7人の奴隷を連れて出て行った。僕達は奴隷を集めて、子供達が来るまでに、外観を何とかする為に花壇と畑を作るようにお願いする。
大人の奴隷達でも中に入ると、孤児院に見えなくて騙されたとか言ってたからな。少しでもマシにしておかないと子供達が怯える。
花壇と畑の位置を決めて、農作業をしていた人達をリーダーにして、買って来た道具を渡してお願いする。
今出来る作業を進めているとアレシアさん達が戻って来た。怖そうな雰囲気も装備を整えると頼もしく思えるから不思議だ。
それぞれの担当を決めて、キッチンに食料を補充してルト号に戻るか。運営資金も渡したから当面の心配は無いだろう。最近頑張ってたから3日位はキャッスル号で休もう。キャッスル号で働く予定の人達も連れて行くか?
……連れて行ったら、カミーユさん達が教育を始めるだろうから、休みにならないな。商人組はフルで働いていたから休んで貰わないとな。倒れられたら困る。
そう言えば、孤児達を引き受けるのは何時からにしようかな。花壇を作って花が咲いてから……流石に遅すぎるか。娯楽神様に文句を言われそうだ。
花の苗って売ってるのかな? それなら花が咲いてなくても少しは雰囲気が明るくなるだろう。帰りに商業ギルドに寄って帰るか。
「おっ、お前も来たのか。どうしたんだ?」
ああ、さっきアレシアさん達だけ商業ギルドに行ってもらったからな。
「ええ、孤児院の武骨な雰囲気を何とかしようと思いまして、花壇を作るんですが、花の苗とか売ってますか?」
「ん? 花の苗か。この街にも売っている店はあったんだが、今は無いな。ルッカに注文すれば手には入るぞ、どんな花が良いんだ?」
……花とか知らない。ジラソーレに目線を送ると目を逸らされた。薬草とかは詳しいんだけど花は専門外なのか? カミーユさんとドナテッラさんを見ると、コクリと頷いて話を代わってくれた。
単一の花を選ぶのではなく、もう少ししたら咲く花の苗を何種類か注文する。値段交渉まで済ませてくれて、頼りになるな。
「そう言えば、孤児ってどうやって集めるか知ってますか? 教会に行けば良いですか?」
「そんな事も知らずに、何で孤児院を作ろうと思ったんだ?」
慈善事業って言われて、孤児院ぐらいしか思いつかなかったからだよ。……病院とかも慈善事業になるか。人材を集めるのが大変そうだな。
あっ、キャッスル号の医務室にスタッフ任命すれば、この世界で最高の医者が生まれるかも。……魔法があるから、医者ってどうなんだ?
「僕は魔導士様の代理で建てるだけですから、詳しくはありません」
「ああ、そうだったな。今は孤児が多いから、引き取ると言えば歓迎されるだろう。商業ギルドに依頼を出せば、孤児達を引き取って来る事も可能だぞ」
お金を払って孤児を連れて来て貰うか、自分で迎えに行くかか。ダークエルフも探さないといけないし、依頼を出した方が無難だな。
「クラレッタさん、今の状況だと何人ぐらいの孤児を受け入れられますか?」
「そうですね。孤児院のノウハウもありませんから、10人ぐらいで様子見をするべきです。徐々に職員の数と孤児の数を増やして行けば、何とかなると思います。あとはあまりに幼いと、対応が難しいので、7歳ぐらいからの子供の面倒から始めた方が良いですね」
一番孤児院を知ってるのがクラレッタさんだもんな。アドバイスに従っておこう。
「そういう訳です。ある程度職員が孤児院に慣れてから始めたいので、10日以降で連れて来て貰う事は可能ですか?」
「そうだな、ルッカの孤児院なら直ぐに連れて来られる。10日以降で10人は大丈夫だろう。しかし子供を預かるってのは大変だぞ。本当に大丈夫なのか?」
「農村で子供達の面倒を見ていた人がいますし、教育が出来る人員にも来てもらいました。上手くやってくれると思います」
「そうか、大丈夫と言えば大丈夫そうだが……子供達が来たら視察に行っても良いか?」
おっさんは子煩悩なタイプのおっさんなのかな?
「ええ、アドバイスが頂ければ助かります。あっ、花の苗が届いたら孤児院にお願いしますね」
依頼をしてルト号に戻る。これで孤児院も動き出したし、順調だよね。
………………
キャッスル号でゆったりとした時間を僕は過ごしたが、商人組はなんやかんやと話し合いながら仕事をしていた。仕事中毒だな。協力してもらう身としては頼もしい。
何度か孤児院にも様子を見に行ったが、みんな成人した大人で食べる物もある。特に問題も無く、周囲の環境を整え頼んでいた花壇と畑を作っていてくれた。
畑の方は元が民家なので土が全然出来ていないから時間が掛かるそうだ。さすがに豪華客船に肥料は売ってないよな。あっ、公園があるんだから肥料や栄養剤ぐらい見つかるかも。問題は自分の船とは言え公園の土をパクって怒られないか、だな。
次の機会に神様に聞いてみるか。状態の良い土が無限に補給できるのなら農業チートが出来るかも。農作業をしたことが無いけど。
お休みも終わり、料理人6人と事務員5人をキャッスル号に連れて戻り、商人組の訓練が始まった。料理人達は新しいレシピと道具に戸惑っていたが、意欲的に練習を繰り返している。
事務員は知識があってもパソコンに苦労しているようだ。あっさり使い熟したカミーユさんが異常なんだな。
注文していた花の苗も届き、レンガで作った花壇に植える。緑が入ると灰色と茶色い世界が優しくなったように感じる。もう少し飾り付ければ孤児院として上手く行くはずだ。
鉄の扉を取り換えればマシになる気もするんだが、何となく負けた気がするから、このままで行こう。
「ご主人様、今日はどうするの?」
「そろそろ、子供達が来てもおかしくないから、商業ギルドに聞きに行こうか」
「分かったわ。皆で行くのよね?」
「うん」
ルト号に乗り、商業ギルドに向かってカリャリの街を歩く。
「海軍本部も大体出来上がって来たのに、街はボロボロのままですね」
「そうね。住民自体が少ない上に、修繕も海軍本部で手一杯だから。ワタルさんみたいに力技が使えないと難しいわね。海軍本部が完成して、大工に余裕が出来たらだいぶ変わって来ると思うわ」
力技って、ただ資材を運んで来て、代わりに大工を貸して貰っただけなのに……力技と言えば力技だな。恨まれてないと良いけど。商業ギルドに到着したので中に入る。
「おっ、今日はどうしたんだ?」
「そろそろ孤児達が来るんじゃないかと思って聞きに来たんですよ」
「ああ、到着は船しだいだからな。10人の孤児を乗せられる船が見つかれば、明日にでも到着すると思うぞ。それに港に到着して船があれば声を掛けるように言ってあるから、安心しろ」
「ありがとうございます。それと海軍本部っていつ頃完成するんですか?」
「海軍本部か、大体は出来ているんだが、細かい所に人手を取られているな。まだまだ掛かるぞ」
街が復活するには時間が掛かりそうだな。
「そう言えば、前にこの街の地価が上がるって話をしてたよな。あれはどうなったんだ?」
「うーん、僕に儲けが無いんで、どうでも良いかなって思ってます」
「どうでも良いなら教えてくれ」
「ちょっとお待ちください。ワタルさん、こっちに来てください」
カミーユさんに腕を引っ張られて隅っこに連れて行かれる。商人組に怖い目で囲まれる。どう考えても褒められる雰囲気ではないよな。帰りたい。
資金 手持ち 25金貨 98銀貨 23銅貨
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