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最終話 支配人の場合

 ちっと呑みすぎた。


 酔っ払って三人に悪さするほど馬鹿じゃねえが、いつもなら止めたり嗜めたりするところをかなりスルーしてしまった気がする。


 その証拠が俺の目の前であられもない姿で寝ている、ルナマリア、リスティア嬢、ローラ嬢の三人だ。


 ルナマリアは一応衣服は纏わりついてはいるものの、思い切りきわどいラインにかかっていて、男であれば唾を呑みこんで覗き込みたくなるような格好だ。

 小柄な躰に似合わぬ巨大な胸は、寝ていても重力に従ったりはしない。


 まああれを自由にしたくてバカ高い金を支払うのは、同じ男として理解できなくもねえ。


 しかしほんと、こいつの金の髪は発光してんじゃねえかってくらい綺麗だな。

 自分の部屋だけあって、豪奢なベッドの上にだらしなくその肢体を晒している。

 眠ってるときゃ日頃の勝気な表情が消えて、その嘘みたいに綺麗な顔に目が引き寄せられる。

 

 そのベッドによりかかるようにして寝ているリスティア嬢は、衣服の乱れも、特にきわどいポーズを取っている訳でもねえ。

 にも拘らずちょっとした服のしわとか、僅かに開いた胸元とか、綺麗に寝ているだけなのに妙な色気が溢れだしていやがる。


 幾筋かが艶やかな唇にかかっている、漆黒の髪がまた艶めかしい。


 寝息に合わせて上下する、適度な大きさの胸が、それを隠すぴったりとした絹の衣装と相まって誘っているかのようだ。

 「男の目の前で酔って寝るって事は、わかってるよな?」っていうべたな台詞が頭に浮かぶのは、男である以上どうしようもねえんじゃねえかな。


 気にせず床に横になっているのがローラ嬢。

 こいつはほんと、何回言っても隠すべきものを隠さねえ。

 素っ裸になったら俺に頭を張られるから、一応()()らしきものを身につけちゃいるが、まるで大事なところを隠せちゃいない。


 三人の中で一番馬鹿でけえ胸もケツも放り出している。


 風情とか艶とか全く縁のない、ある意味健康的ともいえる開けっぴろげさにもかかわらず、思わず生唾を呑みこむような美しさがある。

 ほんともうちょっと恥じらいとかチラリズムとか身につけられたら、強制的に視線を奪われることになりそうだ。


 実際娼婦としては隙のない、文字通りプロの三人が無防備に寝姿を晒しているこの状況は、役得と思うべきなんだろう。


 実際眼福であるこた否定する気もないしな。


 胡蝶の夢(うち)を御贔屓にしてくださってるお客様(スケベヤロー共)なら、金に糸目を付けずに、今の俺の立場を買いにかかるこた間違いねえ。


 三人とも、本来は酒に飲まれるタイプじゃない。

 今夜は俺とルナマリアの会話から、馬鹿な方向へ話が飛んだので悪酔いしたのだろう。


 おそらくは、いや絶対に訪れることのない未来の話。


 ピークを過ぎて胡蝶の夢(うち)を引退した三人ともが俺の嫁になり、若い頃に稼いだ金で世界を旅したり、あるいは王都でのんびり暮らしたり、ちょいとした冒険者のまねごとをしたりしてみる話で、随分と盛り上がった。


 若い頃は売れっ子だったのよと事あるごとに語りたがる、まあ年をとっても綺麗だろう三人を連れて、冴えない男が右往左往するつまんねえ話だ。


 それでも今夜の俺と、ルナマリア、リスティア嬢、ローラ嬢の四人にとっちゃ、子供の頃に初めて読んだ冒険譚みたいにわくわくする妄想話だった。


 おかげで俺も、らしくもなく酔っ払っていたのだろう。

 一番俺が盛り上がった未来予想図は、俺が冒険者となった三人に守られながら、相変わらずさえないユニーク魔法でフォローして旅する話だった。


 舞台が変わっただけで何一つ立ち位置が変わっちゃいねえ。

 あいかわらず頼りになるのは三人で、縁の下で三人を支えるのが俺の役処なのは変わらねえ。


 だけど楽しかった。


 お前らは娼婦としちゃとびっきりだが、冒険者は無理だろがよと笑って。

 そう思いながらも、ギルドでクエスト受けて、ちまちまこなす日々はさぞ楽しかろうと思えた。


 ありがちな失敗談を想像して、大声出して笑った。

 確かにギルドで絡まれても、俺のユニーク魔法がありゃ男どもは退散するわな。


 そんなことが可能になる頃には、四人とも歳くってるはずなのに、俺の頭ン中では今のままの四人がわいのわいのやってる絵だった。


 所有者(オーナー)も加わるかなと振ったら、三人とも微妙な表情しやがった。

 たしかになあ、あれだけの冒険者がそんなへっぽこパーティーに参加するわきゃねえか。


 苦笑いしながら、ルナマリアが用意してくれていた豪奢な毛布を三人にかけてゆく。

 ほんともうちょっと隠せお前ら。

 嘘偽りなく物凄い値の付く、自慢の売りもんだろが。


 それに俺だって男なんだ、間違いがあったらどうするよ。


 万一そうなったら、笑って受容れてくれるような気も、思いっきりガッカリされそうな気もする。


 日頃の冗談じゃ、毎日のように誘われちゃいるんだがな。


 まああるとしたら、俺が抑えきれなくて襲うパターンだろな。

 四人一緒に居ればまあ大丈夫だろうが、一対一だとこいつらの持つ色気と手練手管は洒落にならねえ。

 伊達に「世界一の性都」のトップ店舗のトップ張ってねえ。


 だが少なくとも俺が、こいつらを金で買う事だけは、絶対にしない。

 ほんとに抑えきれなくなったら、頼み込んででもやらせてもらおう。


 金で女を買うことはもちろん否定しない。

 娼館の支配人(マネージャー)やりながらそんなこと口走ったら、正気を疑われる。

 俺だって他所の店なら結構平気で買えると思う。

 いやまだ買ったこたねえが。


 こいつらだけじゃなく、胡蝶の夢(うち)の嬢たちを買うのが嫌なだけだ。

 何でだかも説明できねえし、自分でもよくわからん拘りだけどな。


 まあいい、今夜は楽しかった。

 その夜もそろそろ明ける。


 夜が仕事場の嬢たちは、これからしっかり睡眠とって、今日の夜にばっちり備える。


 今俺の目の前で、毛布の下であられもない格好してる三人だってそれは変わらない。

 今夜も誰かに抱かれて、自分自身と胡蝶の夢(うち)のために金を得る。


 娼館ってなそういう場所で、娼婦ってなそういう仕事だ。


 それを今更寂しいと思うほど初心じゃねえが、割り切っちまえる程枯れてもいねえ。

 シルヴェリア王女に偉そうなこと言ったが、俺だって悟りきれてるわけじゃねえんだ。


 それでも夜がくりゃ娼館は開くし、娼婦たちは客を取る。


 俺は俺のさえないユニーク魔法を、そんな彼女らと、何よりも自分の為に使って生きていく。


 悪くない暮らしだ、ああ悪くない暮らしだともよ。


 たまに今日みたいな夜もあるしな。


 ルナマリアに答えた言葉は嘘じゃねえ。 


 ありがとよ、ルナマリア、リスティア嬢、ローラ嬢。

 そう思えるのはお前らが毎晩毎晩、賑やかにしてくれてるからだってのは解ってんだ。

 大変だろうけどこれからもよろしく頼む。


 そう思って、俺の頼りないユニーク魔法を三人にかける。

 よく寝てるみたいだから起こすことはねえだろう。

 せっかく呑んだ酒抜けちまうけど、寝るだけだから文句あるまい。

 夢にはなんか影響するかもしれねえけどな。


 洗浄魔法、疲労回復魔法、消臭魔法、芳香魔法、細胞活性魔法。

 その他諸々、体調管理にかかわる魔法を一通りかける。


 そして最後に、みんなにゃ伝えてねえ、俺も効果がわからねえ(パス)魔法ってやつをかけた。

 これをかけるのは今の所、俺が気を許したこの三人と、所有者(オーナー)にだけだ。

 かけたからって、なんか効果がある訳じゃねえ。


 なんとなく()()、かけた相手と近くなれた様な気がするだけの、幻みてえな魔法だ。


 実際おまじないみたいなもんなんだろう。


 所有者(オーナー)だきゃこの魔法の存在を知ってて、律義に年に一回この魔法をかけられに顔を出してくれる。


 ったく歳くっても俺は、「あまえた」のまんまだな。


 寝てる三人を起こさないように、静かに扉を閉める。

 さて部屋に帰って俺も寝なおそう。


 おっとその前に日課が残ってら。


 執務室からベランダに出て、空に向かって腕を突き上げる。

 そこからこの夜の街全体に、不可視の魔法が広がってゆく。


 一人一人にかけるのに比べりゃ効果は薄いが、これを一日一回やってりゃよっぽどたちの悪い病気でも入ってこない限り、この街は病魔に侵されることはねえ。


 商売敵にまで何やってんだって話だが、まあただの自己満足だ。

 自分のユニーク魔法に関しちゃ、魔力は無限に等しいと所有者(オーナー)からお墨付きももらってることだしな。

 実際全く疲れたりゃしねえし。


 さてと今度こそ寝る。

 

 また夜になりゃ、騒ぎが群れ成してやってくるんだろうしな。


 おやすみ、ルナマリア。

 おやすみ、リスティア嬢。

 おやすみ、ローラ嬢。


 おやすみ、どっかで魔物(モンスター)ぶったおしてるだろう、所有者(オーナー)


 また日が暮れたら起きだして、かわらぬ夜を過ごそうや。

次話 余話 恋する乙女たちの決意

本日1:00投稿予定です。

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