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【第12回ネット小説大賞SC賞】異世界娼館の支配人【マイクロマガジン社様でコミカライズ】  作者: Sin Guilty


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余話 恋する乙女達の決意

 支配人(マネージャー)が三人三様の姿で寝ているルナマリア、リスティア、ローラに毛布を掛けて、そっと部屋から出てゆく。


 扉が完全に閉まったことを確認して、三人同時に体を起こした。


 三人とも狸寝入りをしていたのだ。


「はー。今日もダメだったねー。支配人(マネージャー)相変わらず鉄壁だわー」


 ローラが相変わらず間延びした声で敗北宣言をする。

 本人が今日「も」と言っているように、彼女らが何回さりげなく、あるいは露骨にアプローチをかけても支配人(マネージャー)がのってきたことは一度たりともない。


 今の狸寝入りだって、支配人(マネージャー)がうたた寝したのを確認してから、それぞれが自分が必殺と思っている扇情的なポーズで待ち構えていたのだ。

 それを見て手を出さないばかりか、苦笑交じりに毛布懸けられると来たら、女としての沽券にかかわる。

 かかわるのだが、過去幾度も壮絶に敗北している三人は、そろそろこれくらいでは動じなくなりつつある。


「私が泣いても怯むだけで、手を出してきたりしないんですよね……自信失くします」


 人間の男であれば、それでイチコロのはずなのにと、実は雪女であるリスティアが嘆く。


「私の魅了もまるで通じぬし、一回こっそり血を吸ってやったのに、眷属にも下僕にもならんしの」


 こちらは実は吸血鬼であるルナマリアが物騒な事を言い出した。

 吸血鬼として人を従え、下僕とする能力の一切が支配人(マネージャー)に通用しない事をいぶかしんでいる。


「何てことするのよールナルナ。ルール違反じゃないのー」


 ローラ嬢がルナマリアを批難するが、そもそもルールとはなんだという話だ。


「ローラとて淫夢見せたり、あまつさえその夢の中に侵入したりしているではないか。知っておるぞ私は」


「あはははー、そこでも相手してくんないんだよね、支配人(マネージャー)。おかしいなー、私が夢を自由にできない筈ないんだけどなー」


 ローラ嬢の正体は「淫魔(サキュバス)」だ。

 批難したルナマリアに、自分も違反していることを指摘され、笑ってごまかしている。


 当初のルールでは各々の能力を使わずに誰が一番最初に支配人(マネージャー)を落すかという、ルールでありゲームであったのだ。


 最初は低俗なものだった。


 いろいろあって自分達を強制的に使い魔としている、強大な魔法使いである所有者(オーナー)

 それが大事にしている()()()()を、自分の魅力でどろどろにしてやれば、胸がすくだろうという程度だったのだ。


 その筈が、まさか三人ともが最初の数ヶ月で本気になり、出し抜くためにルールなんて知らないを三人ともが実行した上で撃沈することになるなど、当時は夢にも思っていなかった。


 なぜか支配人(マネージャー)には、自分たちの強力な筈のスキルがまるで通用しない。


 所有者(オーナー)の加護か、見たこともない不思議な魔法を使うせいか、それとも魔力だけは無限と言っても過言でないほどあるためか。


 強力な「魔なる者」でもある三人は、魔力であろうとあたりを付けているが、だからと言って自分たちのスキルが通用するようになるわけでもない。


 純粋に女としての魅力だけで落とさねばならないという状況に、戸惑いながらも楽しんでいる一面があるのも否定できない事実だ。


 だがそれも年単位となってくると、笑ってもいられなくなる。


「あー。支配人(マネージャー)今日もやってるねえ、街全体に浄化魔法かけるの。何回感知しても信じられないわあ。あれ普通の人間がやったら、十分の一の範囲位で干からびるよねー」


「まあのう。支配人(マネージャー)は自分の事を本気でさえない魔法遣いと思っとるようだが、とんでもないの」


「あれだけの魔力量をたとえば結界魔法に使ったら、百年単位で稼働しますよね」


 支配人(マネージャー)の魔法発動をそれぞれで感知して、何度目でもあせない驚きに心を動かす三人。


「というか気付いとるぞ、グレン王。まあそうでなければ娼館に第一王女と第二王女行かせるなんて真似を許さぬであろうが」


「だよねー。シルヴェリアちゃんとカリンちゃんは天然っぽいけど、アレン君は気付いてるよねー」


「王国にとっては戦略級の魔法使いですものね、支配人(マネージャー)。シルヴェリア王女でもカリン王女でも、支配人(マネージャー)が手を出してくれれば望むところですよね」


 グレン王国が、娼館に王族が出入りすることを黙認している理由を三人は理解している。


 支配人(マネージャー)が冴えないと認識しているユニーク魔法は、人間社会にとっては戦略級の兵器になり得る。

 魔物(モンスター)相手や、直接の戦闘には効果が無くても、国家間の争いというのは戦争だけではない。

 疫病が流行った時の対処や、過酷な開拓地で人民を健康に保全できるという事実。

 極端な話をすれば、敵国の王族男性全員を「使い物にならなくする」だけで、大概の案件はあっさり片が付く。


 三人に言わせれば、その気になれば支配人(マネージャー)はこの世の男全てを「使い物にならなくする」事すら可能な魔力を持っているのだ。


 ある意味においては「世界を滅ぼすぞ」と言い放てる存在なのである。

 

 冒険者として魔物(モンスター)と行う単純な戦闘ではなく、あらゆる意味での国家の戦争という舞台に上がれば、支配人(マネージャー)は過去に存在したことが無いレベルでの脅威だ。


 国が欲しがっても全く不思議はない。


「搦め手できてるのは、所有者(オーナー)怒らせると怖いからだよねー」


「それに私たちも常に傍に居ますしね。王宮は気付いてますよね、私たちの正体」


「まちがいないの。そうでなければこんなまだるっこしいことはしておるまいよ、あの傭兵王が。じゃが支配人(マネージャー)が心を許してくれた後の私たちは、事実上無敵じゃしな」


 支配人(マネージャー)が意味がないと思っている、三人に最後にかけて行った魔法は、魔力を保有するものにとっては、自身を無敵にするといっても過言ではない魔法なのだ。


 (パス)魔法。


 文字通り、支配人(マネージャー)とそれをかけた相手に(パス)を繋ぐ魔法。

 

 これは支配人(マネージャー)から見れば、本人がそう思っている通り何の変化ももたらさない魔法であることは確かだ。


 劇的な変化を得るのは、かけられた側である。


 かけられた側は、支配人(マネージャー)の魔力を自分の物として使用できるようになる。

 無限に等しい支配人(マネージャー)の魔力を自由に使えるという事は、消費の大きい強力な魔法を何の遠慮もなく使い続けられるという事だ。

 (パス)の太さが決まっているのか、消費してから供給される速度の上限はあるにせよ、事実上魔力切れが無くなるという事実は大きい。

 それがルナマリアをして、無敵と言わせる理由である。


 狸寝入りする前に話していた、四人で冒険者という夢は、結構あっさり実現できるものなのだ。

 支配人(マネージャー)にその気さえあれば。


「でも所有者(オーナー)いってたよねー。支配人(マネージャー)の体液取り込んだら、(パス)の上限無くなるってー」


「効果時間は短いらしいがの。それが真実であれば、効果がある間中魔力が一切減らないというバカバカしい状態になる。知られたら世界中の国家が支配人(マネージャー)を欲しがるぞ。(パス)魔法だけでも同じことじゃとは思うが」


「……大人のキスすらもしてくれませんものね、支配人(マネージャー)


 所有者(オーナー)の言う事実を、三人ともに雁首並べて年単位で共に過ごしながら誰も確認できていない事実に、俄かに落ち込む。

 支配人(マネージャー)から受ける恩恵云々は実際どうでもよく、女としての自分に手を出してこない事こそが最重要課題なのだ。


「うぬう、実は支配人(マネージャー)、処女好きなのではないのか。妙にシルヴェリア王女には優しいと思うのじゃが」


「ええー、そうなったら私達全員アウトじゃないの―」


「た、確かにその疑いはありますね。カリン王女殿下にもなにかと文句言いながらやさしいですし」


 俄かに支配人(マネージャー)にユニコーン疑惑がかけられる。

 そうであれば娼婦の時点で話にならない。

 傍に居るための、キャラ設定を間違えていると言わざるを得ない。


「でもー。私達支配人(マネージャー)の基準だと処女だよねー」


 淫魔(サキュバス)にあるまじき発言をし出すローラ。


「え、ええまあ、そうですかね。殿方の精を吸い尽くしたりは何度もしてますけど、人間の様な性交渉をしたことは実はないですし、ここに来てからは幻術とか各々の能力使ってるだけですもんね」


 雪女(スノー・レディ)としての能力を使って生命力を吸ったり、その際に幻覚を見せたりはしているけれど、自分の躰を使って性交渉をしたことが無いというリスティア。


「それはそれで発覚すると支配人(マネージャー)の職業倫理観に触れそうな気がして怖いのじゃがの。まあお客様は皆満足しておるからいいと思うのじゃがな」

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)としての能力を使って似たようなことをしているルナマリアが、支配人(マネージャー)の職業倫理観に触れることを恐れている。


 確かに詐欺としか言えない行為ではある。


 お客様一人一人には、自分の欲望が生み出す理想の相手とのめくるめく時間が提供されているのだ、来店するたびに。

 そこに本物のルナマリア、リスティア、ローラは存在しない。


 だが淫魔(サキュバス)雪女(スノー・レディ)吸血鬼(ヴァンパイア)としての能力を丁寧に全開して使用し、望みの女を抱く夢を見せているのだから文句を言われる筋合いはないとも思う。

 そもそも人間から生命力を奪う際、よほど気に入らねば実際に自分の躰を使って直接性交渉をすることは少なく、今お客様たちが金と引き換えに得ている快感は、本来己の命と引き換えに得られるものなのだ。


 過去にそういう事をしていなくてよかったと、三人は心の底から思う。

 支配人(マネージャー)を知る前の自分達であれば、面白半分やものは試し程度でそういう事をしていても不思議はなかったのだ。

 所有者(オーナー)に張り倒されて、支配人(マネージャー)に惚れるまでの自分たちは、人間などただの餌くらいにしか思っていなかったのだ。


 それが今は、強力な魔法使いとはいえ、ただの人間である支配人(マネージャー)に嫌われるのがなによりも怖い。


 そしてそんな自分を気に入ってしまっている。


 恋は盲目というのは、何も人間に限った事ではないらしい。


「実際どうかよりもねー。私たちを抱いたと思ってる男の人が多いのが問題な気がするんだー。汚らわしいとかそういうのじゃなくてね?」


「ああ、支配人(マネージャー)は間違いなく新品(サラ)じゃからのう。比べられるのが怖いとかそういうあれか」


「比べられるのは私も怖いですよう。でもルナちゃん、それ絶対に支配人(マネージャー)に言っちゃだめだよ? せっかくしゃべり方とかも雰囲気出して、酸いも甘いもかみ分けた渋いキャラクター演じてるんだから、一生懸命」


 支配人(マネージャー)という立場、それにまつわる責任。

 それを過不足なく果たそうとして、気合が空回りしているところがあるのだろう。


 それが本来の自分のキャラクターとはほど遠い、支配人(マネージャー)が思う理想の娼館の支配人(マネージャー)らしい言葉遣いにさせている。

 枯れた中年の様に振る舞うのも、支配人(マネージャー)の中での理想像がそれだという事だ。


「そうは言うても、まだ十四歳じゃろうが、支配人(マネージャー)は。支配人(マネージャー)になったのが二年前、所有者(オーナー)に助けられたのが五年前じゃ」


 実際は線の細い、リスティアと同じ黒髪黒眼の美少年な訳だが。


「あの頃の支配人(マネージャー)は、あれはあれでかわいかったよねー、今思えば―」


「最初は何とも思ってませんでしたから、惜しいことしましたよね。あの頃に付け込んでおけば今頃……」


「後の祭りじゃのう。おかげで私たちは、未だに所有者(オーナー)に勝てん」


 支配人(マネージャー)の前に「使い魔」として姿を現していた頃は、主人のおまけ位にしか思っていなかったのだ。

 まさか数年後に、自分達が三人揃ってその好意を得たくてのたうち回ることになるなど、夢にも思っていなかった。


「だよねー」


「やっぱり最大のライバルは所有者(オーナー)ですよね」


「命の恩人でもあるしのう」


 支配人(マネージャー)に厳しさと愛情をもって接していたのは所有者(オーナー)だけだった。

 今思えば所有者(オーナー)も、弱々しい異世界の少年に庇護欲刺激されまくっていたのであろうが、まだその方面については子供であった自分たちは出遅れたのだ。

 まあ「魔の者」としては子供であったからこそ、清い身体を保てていたのでもあるが。


「でも今日はルナルナの大手柄だよねー。支配人(マネージャー)はああいう約束は絶対守ると思うんだー。呑んでる時も楽しそうだったしー」


「そうです、それです。ルナちゃん凄い。お嫁さんにしてもらう約束取り付けたんですものね。尊敬しちゃう」


 今夜ここまで盛り上がったのは、ルナマリアが支配人(マネージャー)とした他愛もない約束が全てである。

 それでも恋する三人にとっては大事件だ。

 口約束とはいえ、年取っても俺でよければ嫁に来いと言われたのだ。

 キャーってなもんである。


「こうなると私たちの正体と、支配人(マネージャー)の本当の力をいつわかってもらうかが問題になって来るのう」


「まさか私たちが言い出せなくなるなんてねー」


「嫌われるのが怖い、って辛いですけど快感ですよね……こんな風になるなんて思いもしませんでした」


 三人であれば、支配人(マネージャー)が本当に中年になるまで待ったとしても、今の美しさを維持することなど造作もない。

 それどころか支配人(マネージャー)が死ぬまで、今の美しい姿のままで連れ添える。


 問題はその事実をどうやって告げるかという事だ。


「まあの。じゃが所有者(オーナー)がいつまでも猶予をくれるとも思えんし、どこかで勝負に出ないといかんな。今日の約束はいい勢い付けになってくれるやもしれぬ」


「覚悟決めよっかー」


「シルヴェリア王女殿下とか、ライバルも増えてますしね。店の娘なんてみんな支配人(マネージャー)のファン、というか信者みたいなものですし」


「まあ十四になったとは言っても、あの見た目じゃからの、無理もあるまい。それであの話し方を無理が無いと思いこんでおるのじゃ、百戦錬磨の女人たちにとってはたまるまいよ」


 減るどころか増え続ける一方の恋敵(ライバル)に焦りを感じる。

 こればっかりは強いとか弱いとか、綺麗とか綺麗じゃないとかではないのだ。


 明日支配人(マネージャー)が、ある平凡な女の子に惚れてしまったら、その子以外は皆一様に敗者なのだ。

 淫魔(サキュバス)だとか、雪女(スノー・レディ)だとか、吸血鬼(ヴァンパイア)だとか、王女だとかは一切合切関係ない。


 恋は容赦がない。


 恋は戦争。

 

 そんなぽっと出に持っていかれるのは我慢がならない。

 付き合いの長い他の二人とセットにされるのはまあしょうがない。


 惚れた弱みだ、良しとする。


 覚悟を決めた三人の恋する乙女たちが、支配人(マネージャー)に告白するのはそう遠くない未来。




 だけど、それはまた別のお話。


 Fin

これにて本短編、「異世界娼館の支配人」は完結です。

本スレの雑談から生まれたこの物語を、すこしでも楽しんでもらえたら幸いです。


11/6追記。

現在当短編の余話を省いたものに、基本一話完結でエピソードを加えてゆく形になる、


「異世界娼館の支配人 ~夜咄百花繚乱~」


を準備中です。


いただいた意見も取り入れ、娼館を舞台に毎夜繰り返される「非日常の日常」をお届けできればいいなと思っております。

出来るだけ早いタイミングでの投稿開始を目指します。

投稿開始しましたら、そちらもお読みいただければ幸いです。


11/11追記

アナザーエンド投稿しました。

よろしければ読んでいただければ嬉しいです。

http://ncode.syosetu.com/n9186cy/



現在毎日投稿中の

「いずれ不敗の魔法遣い」も出来ましたらよろしくお願いします。

http://ncode.syosetu.com/n5757cx/

筆者処女作である「三位一体!?」も出来ましたらよろしくお願いします。

こちらは完結済みです。

http://ncode.syosetu.com/n7110ck/

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