第1話 3ヶ月後、幼馴染は誰かに告白する
俺には幼馴染の女の子がいる。
こう言えば、大抵の奴は「いいな」とか「付き合ってるのか?」とか、そんなことを言ってくるだろう。
……だが、現実はそんな甘いものじゃない。
確かに彼女は可愛い。
性格もいいし、周りからの評価も高い。
普通に考えれば、むしろ“勝ち組幼馴染”と言われてもおかしくない存在だ。
それでも俺は、彼女――遠山のどかを異性として意識したことが一度もなかった。
理由は単純だ。
物心ついた時から、ずっと一緒にいたから。
朝起きれば隣にいて、学校に行けば一緒に登校して、放課後も気づけば一緒にいる。
もはや家族みたいなものだ。
だからだろう。
今さら「恋愛対象」として見る方が無理だった。
「おはよう!」
いつも通りの声。
長い薄い茶色の髪を揺らしながら、彼女は笑顔で手を振ってくる。
緑色の瞳は朝日を反射して、どこか柔らかく見えた。
遠山のどか。
それが彼女の名前だ。
「おはよう」
俺がそう返すと、彼女はなぜか満足そうに小さく頷いた。
……ん?
今日、やけに機嫌がいい。
いつもならもう少し眠そうだったり、ぼーっとしていたりするのに、今日は妙にテンションが高い。
「なぁ、今日なんかあったのか?」
俺がそう聞くと、彼女は軽く鼻歌を歌いながら振り向いた。
「正解~。ちょっといいことがあってね」
「いいこと?」
「うん。でも、それは秘密」
「は?」
思わず声が出る。
俺たちは、いわゆる“何でも共有する関係”だったはずだ。
テストの点数から好きな食べ物、どうでもいい愚痴まで全部知っている。
それなのに秘密?
「おい、それ俺たちの間で一番やっちゃダメなやつだろ」
「そんなことないよ。たまには秘密くらいあってもいいでしょ?」
そう言って、どこか楽しそうに笑う。
その笑顔が、少しだけいつもと違って見えた。
そして、彼女はとんでもないことを言った。
「ねえ、私さ――好きな人、できたかもしれない」
「……は?」
一瞬、思考が止まる。
何を言われたのか理解するのに、数秒かかった。
好きな人?
このこいつに?
正直、想像したことがなかった。
「……誰だよ、それ」
気づけば、そんな言葉が出ていた。
「それは秘密」
「だからなんで秘密なんだよ!」
思わず声が大きくなる。
周りの生徒がちらっとこっちを見るが、そんなのどうでもいい。
「アキラには教えません~」
「俺たちの関係どうなってんだよそれ!」
「ふふっ、女の子には秘密の一つや二つあるものなんです」
楽しそうに言う彼女。
……なんだこの置いていかれてる感じは。
今まで全部知ってると思っていたのに、急に自分だけ外側に出されたような気分だ。
胸の奥が、妙にざわつく。
「で、だ」
彼女は少しだけ視線を逸らして、続けた。
「アキラってさ、周りに男の子いないじゃん?」
「いや俺もお前もほぼぼっちみたいなもんだろ」
「だからさ」
そこで一度言葉を切る。
そして、少しだけ恥ずかしそうに笑った。
「恋愛相談とか、してもいい?」
「……は?」
「だって、男の人の気持ちとか分からないし。アキラしかいないし」
「いや俺も分かんねぇよ」
「でもいいの」
即答だった。
まっすぐな目で見られると、それ以上否定できない。
「変なこと言うかもだけど、それでもいいなら」
「いいよ~」
軽すぎる返事。
その瞬間から、何かがおかしくなった気がした。
そして彼女は、さらっと爆弾を落とす。
「その人にね、3ヶ月後に告白するつもりなんだ」




