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安堵と瞳の色



 踊り終えて、見つめ合う。

 たった一人で立っていた二度もの婚約式。

 ほんの一瞬だけそばにいられた3日間。

 そして、結婚式のあと帰ってくることがなかったベリアス。


 ルナシェの脳内を駆け巡ったのは、幸せな思い出ばかりではない。

 むしろ、つらくて心が壊れてしまいそうな記憶だ。

 それでも、この記憶をなくしたいなんて、決してルナシェが思うことはない。


「ベリアス様」

「ああ、次が俺たちの結婚式の本番だ。だが、その前に邪魔が入ったか……」


 ベリアスが抜いた剣が、飛んできた矢を二つに折った。

 ルナシェには、見ることすらできなかった、その軌跡。

 ルナシェだけだったならば、すでに胸を貫かれていたに違いない。


 視線の先には、一人の女性が立っていた。

 出会ったことのないその女性は、けれどたしかに何度も……。

 そう、何度もルナシェの最後を見ながら笑っていた。


「…………ルナシェ。後ろに下がっているように。頼む、ジアス!!」

「御意」


 現れた副団長ジアスに手を引かれて、ルナシェはその場所から離れる。

 王弟と、魔塔のつながり。そして、二つ存在してはいけない瑠璃色の瞳。


「ベリアス様!!」


 ルナシェは、ジアスに手を引かれたまま、なすすべもなく声の限りに叫んだ。

 その声は、怒号と悲鳴の中にかき消された。


「――――大丈夫です。団長は強いですから」

「……ジアス様」

「それに、仲間たちもすぐに駆けつけます」


 今は、くすんだ赤色と、瑠璃色が混ざった二人の色をしたネックレスの石を握りしめて、ルナシェはうなだれる。

 結局、どんなに頑張ったところで、ルナシェは、ただ守られて育って、これからも守られるだけの、か弱い存在でしかないことを思い知らされるようだ。


「ジアス様……。どうか、ベリアス様の下に行ってください」

「――――はは」

「何が、おかしいのですか?」

「ルナシェ様を置いてこの場を離れたならば、副団長を辞さねばならないだけでなく、団長に永遠に許していただけないでしょう」

「そんな……」

「信じて待っていればいいと思います」


 そう言って笑ったジアスは、本当であればもうここにはいないはずだ。

 やり直し前の人生では、隣国からの奇襲により命を落としたのだから。


(だから、今度こそ、きっとみんな幸せになれるはず)


「わかり……ました」


 ルナシェは、宝石を握りしめて、ただ祈りを捧げた。

 ベリアスが無事であるように……。


「ベリアス様……」


 その時、宝石が瑠璃色の光を強めて、赤い光と混ざり紫色に輝いた。

 ルナシェの中から、何かが抜け出していく。


(ベリアス様が、戦っている)


 ルナシェが見たのは、獰猛な笑みを浮かべて戦うベリアスの姿だ。

 誰よりも強くて、その両肩に王国の未来を背負い、それでいて優しい人……。

 ルナシェの愛しい人だ。


(でもね。人はとっても、儚いから)


 ルナシェが手を差し伸べた瞬間、ベリアスに向かっていた矢が音を立てて弾かれる。

 驚いたように振り返ったベリアスが、なぜか泣きそうな顔をしてルナシェに手を差し伸べた。


「ベリアス様のためなら、私はいつだって……」

「ルナシェ様!?」


 ルナシェが、膝をつく。

 まるで、本当に矢を受けたように胸が痛んだ。


「……ジアス様、大丈夫です」

「……その、瞳の色」


 呆然としたように、つぶやいたジアスは、次の瞬間我に返ると倒れ込んだルナシェを抱き寄せた。


「ルナシェ様!!」

「平気……少し眠いだけで」


 何かが全部こぼれ落ちてしまって、急に冷たくなった体の中。

 全身の血が凍ってしまったような感覚と、ベリアスを守れた安堵を感じながら、ルナシェは引き寄せられるように眠りの中へと墜ちていった。



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