↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/69

繰り返される誓いと口づけ


 ***


 ……ルナシェの目の前にいるのは、少しくすんだ、紅葉のような赤い色の髪の男性だ。


「ベリアス様……」


 その色を持つ人をルナシェは一人しか知らない。

 知らないはずだ。


「ベリアス? 誰だそれは」


 振り返った男性の瞳は、やはり落ち着いたグリーンだ。


「………あ、あの」


 白銀の髪の毛を手のひらにのせ、流れるように口づけを落としたその人は、ベリアスではないという。

 でも、間違いなくベリアスその人のはずだ。


(本当に?)


「……戦いに行くことになった」

「……え?」

「避けられない戦いだ。……だが、心配するな。この地は俺たちが守ってみせる」


 笑ったその顔も、ベリアスと同じその人。

 その人は、ベリアスではない。

 そして、ルナシェは知っている。


 これが最後なのだと。

 もう、二人が会うことはないのだと。


「……帰ったら君の瞳を、俺の色に染めてもいいか?」

「え?」

「そしてあの花を一緒に見に行こう。戦いが終わったなら、俺の魔力をすべて君に捧げる。そして、君の瞳は瑠璃色ではなくなる」

「あ……」


 行かないで、と叫びたいのに、この時間はもう過ぎ去ってしまっているから、覆すことはできない。


「あの花は特別だ。俺たちの願いが叶った時、一緒に赤い花が咲き誇る白銀の世界を、ともに見よう」


 ルナシェは知っている。

 二人はもう、会うことはなくて、瑠璃色の瞳のまま、少女は、兄の努力もむなしく、そして青年の願いが叶うこともなく、一人儚く消えるのだと。


 そして、その少し前、青年は戦場で散るのだと。


「……赤い花」


 魔力の気配を感じて涙に濡れた瞳を開けば、ルナシェは、見慣れた天幕のなかにいた。


(ドランクの砦……)


 少し開いた天幕の隙間から、覗いた大好きな色。大好きな人。


「……どうして、こんな危険な場所に、君がいる」


 記憶と時間が交差する。

 それは、魔法の力であり、二人の願いだ。


「だが…………夢なら、醒めないでくれ」


 ルナシェは、温かい体温を感じて、その体を抱きしめる。

 赤い花を一緒に見ようと、何度も繰り返された約束。叶わない願い。


「あなたに会うたび、この夢が醒めないでほしいと、何度も願った。でも、今は」


 生まれつき強い魔力を持って生まれた兄とは違い、いつだって同じ瑠璃色の瞳をを持って生まれたルナシェは、少しの魔力しか持たない、半端な存在だけれど。


 そして、瑠璃色の瞳が二組存在することを、なぜが神様も運命も許してくれないけれど。


「過去になんて、もう逃げない」


 目を覚ませば、憔悴した様子のベリアスに抱きしめられていた。

 温かいその手と、はち切れそうに強い鼓動が、夢ではないとルナシェに伝える。


「ご無事のお帰り、うれしいです」

「ルナシェ……」

「ずっと、ベリアス様を待っていたんですよ?」


 兄が過ごしてきた過去。

 いつだって、その時間のなか、ルナシェは妹だった。そして、ベリアスの……。


「どうか、今度こそ、私を手に入れてくださいね? そして、あの花を見に行きましょう?」


 きっと、すべてを思い出していないベリアスには、意味がわからないだろう。

 けれど、ベリアスのたくましい、傷だらけの腕は、ルナシェを強く抱きしめ返す。


「君の願いなら、すべて叶えるよ。……ルナシェ」


 もう一度、冬が来るまで……。

 繰り返された祈りを叶えるその日まで。

 二人の口づけは、ほんの少し先の未来を約束しているようだった。


 

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。