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深窓の令嬢は帰らない


 ルナシェは、ベリアスの部屋から出るとガストに用意してもらっていた天幕に飛び込んだ。

 ベリアスの部屋でそのまま眠ってしまったせいで、しわが目立つ、くすんだ赤色のドレスを脱いで、トランクに押し込む。

 そして、茶色いワンピースに白いエプロンを身につける。


 白銀の髪は、きっちりと結い上げる。

 黒鷹商会の従業員の姿に変わったルナシェは、そのままガストのいる天幕へと駆け込んだ。


「おや。一晩中お帰りにならなかったわりには、お元気そうですね?」


 振り返ったガストは、茶色の瞳を細めてどこか値踏みするようにルナシェを眺めている。

 その言葉には、昨晩何もなかったのか、といった意味が存外に含まれているようだ。


「……お帰りになられるのですか?」

「いいえ。しばらく、砦の外の街、ドランクにいるわ」

「……ドランクは、治安が悪い。姫様がいるような場所ではないですよ?」


 ガストが、こんなに表情豊かだなんて、前の人生では知ることもできなかった。

 恐らく、前の人生では、ルナシェは良くも悪くも深窓の令嬢で、その行動はガストの予想の範疇だったのだろう。

 けれど、ルナシェの行動は、ガストの予想を裏切り続けている。


「――――婚約式に来なかったことに、文句の一つも言ったのでしょうから、もういいではないですか」

「…………ガスト、この街と砦が失われたら、損失はどれくらいになる?」

「姫様? それは……」

「期間は三ヶ月。それまで、ここに身を隠して暮らしたいの。そうね、今、私は何も持っていない。何も払えないから、あなたに力を貸してとも言いづらいのだけれど……」


 もしも、あと少しだけ早い時期からやり直せていたら、準備することもできただろう。

 せめて、宝石類をもっと持ってくることはできた。


(すぐに、ここに来るしかなかったの)


 婚約式後にシェンディア侯爵家に向かい、挨拶をすませたあとは、ルナシェがミンティア辺境伯家から出る機会はなかっただろう。


 実際、前回の人生では、ベリアスが帰ってくるまで、ルナシェが屋敷の外に出ることなどなかった。


「…………ちょうど、清掃をする従業員が足りなかったのです。私の経営している宿泊施設の裏方の仕事なのですが、あまりやりたがる人間がいなくて。しかし、少なくとも姫様がするような仕事ではないですよ?」

「何でもやるわ」

「――――そうですか」


 深窓の令嬢として育ったルナシェは、働いた経験なんてもちろんない。

 それでも、隣国と隣り合わせのミンティア辺境伯家では、有事に備えて自分のことは自分でできるように教育されている。


「…………ガスト、この恩をどう返せばいい?」

「大丈夫です。回収の当てはいつだって確保しているのが、商人という生き物ですから。あの宝石、予想以上の値打ち物でしたよ? ……ああ、しかしその髪は目立ちすぎますね。かつらを用意しましょう」


 こうして、ルナシェはガストが経営する宿泊施設の裏方として働き始めた。


 辺境伯家にルナシェが帰っていないという知らせは、すぐにベリアスの元へと届いた。

 ベリアスは、方々手を尽くしてルナシェを探したが、事件に巻き込まれた痕跡もなく、ルナシェを連れてきた肝心のガストも姿を消した。

 

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