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赤獅子は走り出す


 ***


 ルナシェが、ベリアスの前から姿を消して一週間。自ら探しに行こうとしたベリアスだったが、隣国との戦いは、激化しつつあり身動きがとれなくなっていた。


 広げた地図には、たくさんの赤い印がつけられ、兵力の分布が示される。


「……なぜ」


 それなのに、全く今後の作戦が浮かんでこない。いつもであれば、まるで軍神による天啓のごとく、ベリアスは作戦を練り上げるのだが。


 その様子を壁際から眺めていた第一騎士団副団長ジアスは、部屋に響き渡るほど、あからさまにため息をついた。

 組んでいた腕をほどくと、ジアスは、ベリアスに近づき低い声で告げる。


「……ベリアス。今日だけは、この場を離れろ」


 顔を上げたベリアスは、明らかに憔悴している。

 騎士団に入団してから、ずっと行動を共にしてきたジアスですら、ベリアスがこんな状態になるのを見たことがなかった。


「……ジアス、そういうわけにはいくまい」


 次の瞬間、ジアスが急にベリアスの肩を遠慮なく殴った。よろめいたベリアスは、しかし倒れることなく踏みとどまる。


「ジアス……?」

「……お前のていたらくには、周囲もうんざりしているんだ! 間違いなく、ルナシェ様は、ドランクの街にいるだろう。一日しか猶予はやらない。黙ってさっさと探してこい!」


 いつも穏やかな、ジアスの鋭い言葉は、まっすぐにベリアスに突き刺さった。

 そのまま、踵を返し去っていくジアスを呆然と見送るベリアス。


「そうか……」


 婚約式に行かなかったベリアスに、会いに来てくれたルナシェ。

 深窓の令嬢として育ち、ほとんど屋敷の外に出なかったルナシェが、ここまで来るにはどれほどの勇気と覚悟が必要だっただろうか。

 それに深淵を見てしまったかのような、ルナシェの目……。


「俺はまた、優先順位を間違えたのか」


 ベリアスの代わりになる人間は、いくらでもいる。

 ルナシェが気になって、まともな思考も出来ないベリアスの代わりなら、なおさらだ。


 ベリアスは、走り出した。

 裏の人間とのつながりだって、まだ使い切ってはいない。

 持っている物全て使い切ろうと惜しくない。


 ルナシェの死線をくぐり抜けたような目を放っておくくらいなら、全てを捨ててもかまわない。

 それなのに、これだけの期間、ベリアスは身動きがとれずにいた。


 何度でも、今度こそ、守ると誓った。


「ルナシェ!」


 砦を出て、ドランクの街を進む。

 目的の店は、法外な手数料と、対価を求める代わりに、ルナシェを探してくれるだろう。


 道を曲がり狭い路地裏、急に薄暗くなった細い道を、ベリアスは全速力で走り続けた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ベリアス様を救い二人の未来を紡ぐために、 走れ!ベリアス様!ルナシェの元に*\(^o^)/* [気になる点] ルナシェがベリアス様を好きになったキッカケが気になります
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