表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/124

83.5 sideルチア②

※残酷な描写がありますので、御注意を。

「貴女にぴったりの舞台を用意しましょう」

  と言われていたから期待していたというのに。

  ユリウスが1つの粗末な木箱を示してこう言ったのだ。

「この箱に入ってしばらくお待ち頂くことになります」

「なんでこんな狭っ苦しいところに入らなきゃいけないのよ……」

 ──こんな汚い箱に詰められるなんて有り得ないわ! 私は聖女なのに。

  憤慨しているのが伝わったのか、ある神官たちが口々に言った。

「民衆の前に現れる際、予想外のところから現れた方が印象に残りますし」

「そちらの方が特別な感じがしませんか?」

「それはそうね」

  木箱の中から登場するのは貧乏くさいが、聖女が突然現れたら、民衆は感極まるのではないだろうか。

 ──だって、聖女だもの。


  最高の舞台。そう言われていたから従ったというのに。何も聞かされないまま連れられ、木箱に入れられることになった。ルチアはこの後のことを全く聞かされずに蚊帳の外のように扱われていた。

「ねえ、綺麗なドレスを用意してはくれないの?」

「何故?」

  騎士の1人が心底不思議そうに首を傾げている。

「だって、民衆の前に現れるのだから、着飾った方が良いでしょう?」

「必要ないのでは?」

「嫌よ! 私は特別なんだから」

「……どうせ無駄になるので」

  ルチアから離れた場所にいる神官の1人は少し事情を知っているらしく、ぽつりと零したのだが、同じ神官と思われる男が慌てて窘めていた。

「キミ、言葉には気をつけてくれ」

「え、でもどうせ無駄に……燃やすんだし」

  神官たちが何を会話しているのか見当が付かなかった。

  気になる言葉だ。追求はしてみたかったが、あれやこれやとトントン拍子に進んでしまい、思っていたよりも早く木箱の中へと身を詰め込まれる羽目になってしまった。

「それでは、ルチア様。これで最後ですね」

「何が最後なの? ……何を笑っているの?」

  ユリウスは瞳に昏い色を湛えて、何を企んでいるのか口元を緩めた。

「ルチア様。私は貴女のことを本気で好きなんだと思っていたんです」

「は? 好きなんでしょう?」

「ふふ、何でしょう。いつからか自分の感情がおかしいのです。今、私たちが抱いているのは……。あ……あっはははは」

「何? おかしくなったの?」

「聞いてください、ルチア様。私たちは元々恋心がどういうものか知らないまま、貴女の虜になったのです」

  そういえば、この男を含め、まだ恋も知らないような純粋な男たちばかりが最後まで残っている。

  ルチアは考えたこともなかった。恋心を知らないものに無理やり植え付けた偽りの感情の行先と、解かれた後のこと。

  信仰心と恋愛感情を履き違えてしまった男の末路も。

「では、さようなら。ルチア様?」

「なっ!」

  後ろから伸びてきた手と押さえ込まれる体。口を塞がれ、狭い木箱に押し込められる瞬間、初めてルチアは疑問に思った。

 ──皆イライラしているのかしら?


  状況のよく分からないまま、ルチアが詰められた箱は民衆の前に晒された。

  狭い木箱の中から叫んでも、ここからルチアの声は届かない。

  民衆たちは、聖女への不満や罵詈雑言ばかりを口にしている。

 ──何故? 文句ばかり言うの? 聖女が優先されるのは当たり前じゃない。むしろ聖女のために骨身を削る思いをするのは当然だし、光栄なことでしょう?


  神殿の者たちも何故、聖女選抜は間違っていたと声高々に宣言するのか。それを民衆たちの前で。

 ──そんなことされたら民衆たちが誤解してしまうわ。私が聖女じゃないって。


  アリスが何を言おうと、本当の聖女であるルチアが本当に危険な時は精霊たちが助けてくれるのだ。

 ──私は聖女だもの。聖女が燃やされようとしているのだから、きっと助けてくれる。それに精霊たちはお友達だもの。


  小さな精霊たちを役立たずだと罵ったことも忘れてルチアは精霊たちの助けを待ち望む。


 ──むしろこの最悪の状況で助かったら、それこそ聖女っぽいじゃない! これは試練なのよ!


  ここで生還して、力を蓄えて、最終的には魔女であるアリスに挑む。なんて素敵なシナリオだろうか。

 ──そうよ! これを彼らは狙っていたのよ!


  聖女を殺せ! と誰かが言い出した。それを木箱の中から聴きながら、すぐ近くで炎がパチパチと燃える音も耳にした。


 ──そろそろ精霊の奇跡が起こる! だって私は聖女だもの。


  刹那、ぼっ……! と空気を燃やした熱が木箱を覆っていく。

「ぎゃゃああああ!」

  口から臓器が全て出てしまうかと思った。

 ──痛い痛い痛いイタイイタイイタイ!!

「あああああぁあぁああ!!」

 隙間から入り込んだ炎がルチアの薄い肌を這うように焼いていって、肉を焼くような臭いもあるような気がする。

 ──肉? 私の肉? 燃やされているのは私?

  小さな箱に押し込められてもはや暴れる隙もなく、ルチアは炎による激痛をもろに受け止めるしかなかった。

 ──精霊が助けに!

「うあっあ、ああ! あうううううぎゃあ!」

 ──助けに、来てくれるはず……。

  次々と投げ込まれる炎が、ルチアを、覆っていく。


 ──死ぬ死ぬ! 死んじゃう!!

  髪にまとわりつき、顔に手を伸ばした炎を振り払おうと手で覆う。


「……ダレ、か……!」


  無慈悲にも誰も聞いてくれなかった。

  聖女なのに、誰も。精霊たちや、精霊王ですら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] このアホ女はいつ間違いに気付いて絶望するのでしょうか? (´-`) [一言] ここまできてまだ現実を見る事が出来ないって、ある意味すごい女ですなΣ( ̄。 ̄ノ)ノ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ