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「はじめまして、メディシナ・ディプロンと申します」
叶の部屋に通した男はぎこちなく挨拶した。
この男は卑しい商人だ。きっと叶に取り入ろうとしているに違いない。商人というのは、特に異国から入ってくる商人というものは全く信用してはいけないと古くから言われている。きっとこの男も信用できぬ。
「お医者様ですね。楽にしてください」
叶は柔らかい笑みを浮かべる。
私にもあまり向けてくれないその笑みを、どうして初めて会う卑しい商人などに向けるのかと怒りが点る。
「それじゃ遠慮なく。早速だが、あんた、異邦人だろ?」
「異邦人?」
男の言葉に叶は首を傾げる。
「他の世界から来た」
そうか。人の子はそう表現するのか。やはり我らとの違いは大きいな。
「多分それだと思います」
叶は静かに答える。
「よく今まで生きてたな」
男が呆れたように、感心するように言うと叶は眼を丸くした。
「え?」
「こっちに来て何日だ」
「七日です」
ミナが代わりに答えた。
「症状は貧血だろ、それに、筋肉が弱ってる。あとは、栄養失調。ちゃんとしたモン食わせてたんだろうな?」
男は苛立った様子を見せる。私のほうが怒りたいのに何たる理不尽な状況だ。
「人の子の食べ物は我々には……」
ミナは困惑した様子を見せたが、すぐに叶が笑む。
「祖国に近いものを食べさせてもらいました」
これは叶が我々に気を使って言ってくれているのだろうか。それとも、本当にミナが叶の望むものを用意できていたのだろうか。それはわからない。
しかし、男は勝手に納得したように頷いた。
「そうか。じゃあ、原因は単純だ。日光不足。この国を出ればすぐによくなる」
冗談じゃない。叶を失うわけにはいかない。
「他の治療方法は?」
「無い」
男ははっきりと断言した。馬鹿な。これは奴の策略に違いない。
予言で選ばれた花嫁が、この地で生きられぬなどということがあっていいはずがない。
「何が世界一の医者だ! 治療をしろ!」
思わず叫んだ。顔を維持できなくなる。
「落ち着け。お嬢さんがびっくりするぞ」
男の言葉に慌てて顔面に全神経を集中させる。叶の前で変化を解くわけにかない。
目の前で男はは注射器と小瓶を取り出して、叶に何かを注射した。
「これは?」
叶は不思議そうにそれを見た。
「栄養剤だ。あと、貧血の薬。しばらくはこれで誤魔化せるかもしれないが、日光不足は命に関わる深刻な問題だ。オレでも、二日が限界だ。この国は」
男はそう言って叶からこちらに視線を移した。
「この嬢ちゃんを助けたいならすぐにオレの病院に入院させろ。そして二度とこの国に連れてくるな」
「それはできぬ。叶は私の后だ。この国に必要な存在なのだ」
予言だけではない。叶は既に私の生の一部だ。
「だったらとっとと仲間にしろ」
男の目には嫌悪が見えた。この男もまた我々を嫌悪している。私が商人を卑しいと思うようにこの男も我らを同じように思っているのだろう。
「それもできぬ。叶を苦しめることになる。それに、叶はおそらく、我が一族の血に耐えることができぬ」
叶はきっと、我が一族の血に耐えられない。人の子の身で選ばれたのだ。我らの血を受け入れるのであれば初めから人の子である必要が無い。
叶がミナに何かを言ったのだろう。ミナが部屋を出る。叶は何を思っているのかわからぬ瞳で男を眺めていた。
「あの、お医者様」
叶が口を開く。
「ん?」
「私はあとどのくらい生きられますか」
何故、叶がそんなことを口にしたのか、私には理解できなかった。
「国を出れば百まで健康だろうよ」
男は呆れたようにいう。国を出れば。やはり叶はここには居られないのだろうか。
それでも、たとえ叶の命の炎を絶えさせてしまうとしても、私は叶を手放したくは無い。
だが、叶は私の予測しなかった言葉を口にした。
「いいえ、ここでどのくらい生きられますか」
叶は、ここに留まってくれるのか。
彼女の意思で、私の傍に留まると言ってくれるのか。
無いはずの鼓動が響く錯覚。無いはずの熱に胸を焼かれるように熱い。なくしたと思っていた音が急に戻ってきたように脳内に響き渡る。
「嬢ちゃん、やめとけ。一月持たない。まず、歩けなくなる。骨がもろくなるんだ。免疫も低下する。とくに、この城はあんたにとって清潔とは言えない。黒死病なんかになったら悲惨だぞ」
男は信じられないと言った様子で叶に忠告をする。
「……それでも、エドワード様のお傍に。とてもよくしてくださいました。もう、望に会えないなら、少しでもエドワード様のお傍に居たい」
叶。ああ、なんと愛おしい。お前を失うかもしれないこの瞬間に、私はお前の言葉に喜びを感じている。
しかし、また、ノゾミだ。その名には私だけではなく、男も反応した。
「もしかして、それはやたら気の強い自意識過剰で派手好きの姉ちゃんか?」
どうやら、私が知らぬその者を、二人は知っているようだ。
「え? 望を知ってるの?」
叶さえ驚いている。
「オレの助手だ」
「望が……あなたの……」
余程、叶にとって特別な存在なのだろう。涙を流している。
人の子で一番理解できないのは、この瞳から零れる涙という名の水だ。我々はこれを失った。だからだろう。理解できない。
「会わせて下さい。望に会いたい。望に会えたら死んでもいい」
叶の中に私以上に深く刻まれた存在など気に入らない。
「ダメだ」
咄嗟にそう口にしていた。
「どうして?」
叶は絶望したようだ。そうか。あくまで、私の言う事には逆らわないのか。
「その者が現れれば、お前はここにはいてくれぬのだろう?」
私は酷いことを言っている。叶を傷つけている。
だが。私は叶の特別でありたい。
叶の一番傍にありたい。私と共に、この先の生を歩むのは叶でなければならない。
「私にはお前が必要だ。できることなら永遠の命を与えたい。だが、そうすれば、お前まで呪われてしまう。私はそれに耐えられない」
叶の手を包んだ。あたたかい。
何よりも愛おしい叶の瞳を覗き込む。
まだ、涙に揺れている。
「一つだけ、可能性がある」
ふと、男が言った。
「可能性?」
怪訝に思い男を見る。どうせあれだろう。商人の強欲な交渉だ。
「これはあくまで噂だが……エレットゥリコという科学者が擬似太陽の発明に成功したらしい」
「擬似太陽?」
聞いた事の無い言葉に叶も首を傾げた。どうやら彼女の故郷にも無いものらしい。
「ああ、それがあれば……ここでも嬢ちゃんが生き延びられる」
「本当にそんなものが?」
存在するのであれば、それで叶がここに留まることが出来るのなら、私は喜んで国さえも譲り渡そう。
「あくまで噂だ。それにあったとしても、奴がそれを売り渡してくれるとは限らない」
男は勿体つけて言う。どうせ金の要求だろう。これだから商人という種族は嫌いだ。
「何があっても手に入れろ。金ならいくらでも用意する」
望む額を言え。強欲な商人は用が済めば殺せば済む。
そう思ったが男は想定外の要求を口にする。
「金じゃない。俺は、独占貿易権を要求する」
「どういうことだ?」
ファントムは貿易などしていない。あるとして略奪だ。
「クレッシェンテへの輸出は俺を通して欲しいってことだよ」
「初めから貿易などする予定は無い」
憎き魔女の国と何故国交など持たねばならぬのだ。理解できん。
「つまり、俺がここに来てるのは個人取引だと?」
男は納得いかない様子でこちらを見る。私だって納得いかない。
「ああ。そもそも外に出すほど価値のあるものは無かろう」
夜の闇に包まれたこの国で価値があるのはそれぞれが内に秘める魔力とあの庭の薔薇くらいだろう。
「いや、宝石、魔水晶、それに織物。クレッシェンテだけじゃない。近隣国が欲しがるものが山ほどあるのに、この国じゃあまり喜ばれない」
まるで私にわかっていないとでも言うように男はかなり興奮した様子を見せる。
「玉など好むのは小人族と鬼族くらいだろう。我々から見れば石に変わりない。魔水晶にしても、自分の魔力を使ったほうが速いから誰も使わぬ。人の子はあんなものが欲しいのか?」
「ああ、そういうことだ。俺がエレットゥリコと交渉する。それで、おそらく、奴も魔水晶の供給を要求してくるはずだ」
「あの石の山で叶がここで暮らせるようになるのであれば好きなだけ持っていけ。最優先は叶だ」
叶の命を商売に使うなどとんでもない男だ。
しかし、理解できぬのは、あの石の山が人の子に価値あるものだということだ。
もしかすると、叶もあれを望むのかもしれない。
「けど、交渉が終わるまでの間だけでも嬢ちゃんをうちに預けてくれないか? 勿論護衛は何人つけてもいい。ここで死なせちゃ俺も商売にならねーし、何より本業は医者の方だからな」
この要求を呑めと? 屈辱だ。
「……我々は国から出られぬのだ」
あの憎き魔女の、その一族の呪い。我々からタイヨウを奪ったあの一族の呪いで子の地から出ることが出来ない。
「一人居るだろ。たまに俺を呼び出すでかい兄さんが」
「ウィリアムか?」
確かにウィリアムは狼族だ。呪われては居るものの、我らとは少し違う。
「ミナ、ウィリアムの指示で外に行けるか」
「夜なら。一度、タイヨウを見ました。あれは恐ろしい」
ミナは身震いする。確かにタイヨウの光を浴びた我が同属は皆身体を焼かれる。あれは業火だと聞く。
「火傷くらいすぐ治る」
「ですが、ずっと焼かれ続けるのですよ」
ミナはその時の記憶が蘇るというように肩を擦った。ミナには辛い思いをさせる。だが。叶にはミナが居た方がいいだろう。
「叶はお前が居なくては不安だろう」
ミナは震えながら頷く。すると呆れたように男が口を開いた。
「肌を出さなきゃいいだろう」
「え?」
どういう意味だろう。ミナも男を見た。
「ハウルの女が着てるようなやつを着て色眼鏡でも掛ければ焼けないんじゃないのか?」
ハウルの女がどのような着物を着ているかは知らぬ。色眼鏡などと言うものも子の国にはない。異国を旅する商人は得体の知れぬものをよく知っているのだな。
「ハウルの女の着物とはどのようなものだ?」
「色眼鏡? どのようなもの?」
ミナも同じ事を考えていたらしい。二人で質問すれば、男は呆れたように溜息をつく。
「わかった。それも用意してやる。で? 嬢ちゃんの護衛は二人で交渉期間は嬢ちゃんを俺の病院で預かる。嬢ちゃんは望と面会、これでいいんだな?」
「一つ忘れている。確実にその擬似タイヨウとやらを手に入れろ」
最重要項目を忘れられては困る。全ては叶の為の取引だ。
「それは努力項目だ。だが、手に入れたとして、ここの連中はみんな肌を焼かれることになるんじゃねーのか?」
そうなるだろうな。だが、それでも必要だ。
「専用の建物を作らせる」
「その職人もこっちの仕事だろ?」
強欲な男だ。少しでも多く儲けたいのだろう。やはり、人の子の中でも商人と言う種族は好かん。この件を終えれば叶には近づけぬようにしよう。
「わかった。任せればいいのだろう」
もううんざりだ。商人など。一瞬たりとも叶に近づけたくは無い。
叶の傍に寄り、そっと手を握る。柔らかく温かい。
「叶、戻って来てくれるか?」
真っ直ぐ見つめれば、叶は柔らかく笑む。私にこんな笑みを向けてくれたのは初めてかもしれない。
「はい、約束します」
たとえこの言葉が偽りであったとしても、おそらく、私の今までの生の中で最も幸せな瞬間であった。
ハウルの女というのは随分不便なようだ。目まで覆われた妙な装束を着ている。あれで前が見えるのだろうかと不思議に思いながらミナを叶の部屋に送る。
私にはジョナサンという監視がつくらしい。まぁ、ウィリアム不在となると妥当だろう。
「叶はああ言ってくれたが、本当に戻って来てくれるだろうか」
ノゾミという者に会うと言っていた。もしかすると、私よりもその者と共にいたいのかもしれない。
「大丈夫ですよ。エドワード様。ミナも騎士団長も一緒なんですから。最悪気絶させてでも連れ帰りますよ」
「ジョナサン、叶の意思無しで戻ったところで意味は無い」
叶は失いたくない。だが、叶の嫌がることもしたくない。それは我侭だろうか。
「ジョナサン、お前は知っていたか? 人の子がタイヨウ無くしては生きられぬと」
そうだ。何故初めに気付かなかったのだろう。ミナは私の同族だ。ジョナサンも。だが、ウィリアムは我々より人の子を見ている。いや、あれの場合は鈍いから気付かぬかも知れん。
「タイヨウなんて見た事も無いんで」
「ああ、そうだな」
だが、我が領土に一人だけ居る。
タイヨウの下で人の子として生き、我らの仲間になったものが。
「アンが気付かぬはずがない」
「……ゴーストばあさんは人の子嫌いですからねぇ」
ジョナサンは溜息を吐く。
「あれは信用できん」
「え?」
もしかすると。いや、アンは初めから叶が我が花嫁に選ばれたことを快く思っていない。そういえば随分前に精霊族の娘との見合いを熱心に勧めてきた。
考えすぎか。だが一度芽生えた疑惑というのは簡単には消えてくれない。
「アンをここに」
「え?」
ジョナサンは目を見開く。
「あれはかつて人の子だった」
信じられないと、若き翼手の瞳が語る。
「あれは純血種ではないのだ」
「でも、一番長くこの城に住んでいらっしゃる」
「歳を取っただけだ」
アンは信用できない。近頃は特に。そうだ、岸に人の子の娘が流れていたというのもあれが関わっているのかも知れん。
「アンをここに」
もう一度、今度は先ほどより強く言えば、ジョナサンは部屋を出る。
頭が痛い。アンを信じていた。叶がここに来るまでは。いつでも私の味方をしてくれる乳母だと信じていた。しかしあれは違う。
野心溢れる女だ。あの老婆は私を利用しようとでも思っているのだろう。私の花嫁は自分のお気に入りでなければならないとでも思っているのだろう。忌々しい。
こんなことを言うのは良くない。頭では理解していても、一度宿った疑惑というのは消えてはくれないものだ。それに、今の私の優先順位は叶が最優先であるということくらいこの国の誰もが知っているだろう。だからこそあの魚人族の男は叶を狙った。いや、おそらく、この城に奴を招いたのはアンだろう。
疑惑は音も無く膨らんでいく。アンは私を裏切った。本能の根底が叫んでいる。
叶は失うわけにはいかない。だが、アンはどうだろう。あれを失ったところでこの国に、我が一族にそれほど損失があるわけでもない。疑わしきは消す。それが我々のやり方ではないか。
「お呼びでしょうか、エドワード様」
「アンか」
四百年以上この城にいるこの老婆の声は私には常に猫なで声だ。これを不審に思わなかったのはなぜか。いや、今は疑惑のせいでそう思えるだけかもしれない。
「何故言わなかった」
アンの瞳を見る。微かに動揺が見える。
「はて、何の話でしょうか。歳を取ると、思考が巧くいかなくなりましてねぇ」
「お前は知っていたはずだ。人の子がタイヨウ無くしては生きられぬことを」
アンは人の子だった。母が気まぐれに血を分けて我が一族の仲間となった。もとは贄だった。完全には一族の血を引いていない。よって、我々より加齢が速い。
「私が人の子であったのはもう既に何百年も前のことです。随分と人の子と離れていたので、すっかりと忘れておりました」
「忘れるはずが無かろう。人の子の栄光の証を」
我々は決してあれの下では動けない。我が一族は呪われている。あれは我々を焼く。しかし、人の子にはあれは神の象徴であるという。
「鮫の魚人をこの城の敷地内に入れたのもお前か。魚人がこの城に簡単に近づけるなどとはいくら私でも考えぬぞ」
「何故、私がその様なことをしなければならないのですか」
アンは笑ってみせる。証拠が無いと。そうだ。これは憶測に過ぎない。当の魚人はとっくにウィリアムが細切れにしてしまった。もしかすると奴の夕食になったのかもしれない。魚人の肉は悪くないと言っていたからな。
「お前は、叶が私の花嫁であることに酷く不満を抱いていた。それに、精霊族の娘をと随分とくどくどと薦めてきたではないか。確かにあの娘は美しいかもしれないが、私の好みではない。まぁ、強大な魔力を持っていることは保障されるがな」
金の髪の気高い娘だった。学もある。しかし自己主張の強い女で、金や玉を好む。少し派手好きの娘だ。何度か顔を合わせたことがある。花の匂いの娘だが、食欲は湧かない。
「それは、エドワード様の花嫁が、人の子では……人の子はすぐに死んでしまう」
「我々だって必ずしも生き永らえるとは限らんぞ」
思わず杭を取り出していた。叶に渡そうと思っていた銀の杭を。
これは人の子の狩人が我々を狩る為に作ったものだ。銀で傷つけられればすぐには再生しない。勿論、私にも効果はある。さらにこの杭の素晴らしい点は、柄を押せば先端が飛び出し非力な娘でもそれなりに威力を発揮できるという点だ。叶にはこれ以上無い武器となるだろう。
しかし、今、その杭を手にしているのは私だ。
「残念だ。とても残念に思う」
アンは大きく目を見開く。
「お前はもう用済みだ」
力をこめたわけでもない。ただ、柄を押して仕掛けを作動させただけ。少し前に出しただけのそれは、私の腕ほどの長さに伸び、アンの胸を貫いた。
赤く、悪臭のするものが飛び散る。
「な、何故……」
信じられないとアンは私を見る。
「私の花嫁を護らなかったからだ」
臭い。これは毒の匂いだ。死んだ人の子の命の匂い。我々の体内に流れるものとは少し違う。純血種ではないものの身体には、人の子の死の匂いが染み付いている。腐乱死体とかそう言ったものの匂いに似ているのだろう。
「ジョナサン」
扉の向こうに居るであろうジョナサンを呼ぶ。
「はい」
「片付けろ。叶が戻るまでに何事も無かったように。血の一滴も残すな」
「……アンのことはどう説明するのですか?」
「そうだな。職を辞し、故郷に帰ったとでも伝えよう。その方が叶の為だ」
私が殺しを躊躇わないと知ればあの娘はどう思うだろう。
考えたくも無い。きっと嫌われるに決まっている。しかし、私は躊躇わない。用が無ければすぐに殺すだろう。
「リジーをここに呼びましょう。掃除なら彼女が一番巧い」
「ああ、そうだな。私は、少し庭に出る」
疲れた、のだろうか。疲労。いや、違う。
歩きながら考える。
私は何も考えなかった。長年仕えてくれた乳母を殺したというのに、何も感じなかった。それどころか、私は殺す瞬間にさえ、叶のことを考えていた。殺してしまってからは叶にどう言い訳をするかと、そんなことばかり。
「正真正銘怪物だな。私は」
自分でも呆れる。
ファントム国王、エドワード・カオス・ファントム三世は自他共に認める怪物である。怪物の最後なんて決まっている。英雄に殺されるのだ。




