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 執務室で蝋燭の炎を眺めていた。離れていても叶のことばかり考えているような気がする。

「人の子は不便だな。このようなものが無ければなにも見ることが出来ないとは」

「ええ、まったく」

 アンが答える。

 アンはもう七百年も王家に仕える立派な使用人だ。噂では祖父の代に奴隷としてつれてこられた娘が我らの血を受け使用人になったと聞く。

「何故エドワード様の花嫁が人の子なのでしょう」

「さぁな。だが、私は叶がきっとこの国に希望を齎すだろうと思う」

「エドワード様は叶様を愛していらっしゃるのですか」

 アンは少しばかり侮蔑を込めた訊ね方をする。

 アンは人の子を好いてはいない。彼らは脆く弱く穢れている。人の子は常に掠奪者だと考えている。

「さぁな。私はあれをどう扱えば良いのか分からぬ。人の子はどのように過ごすのだろうか。叶も環境が変わったばかりで戸惑っているだろう。アン、できる限りあれの力になってやってくれ。私はもっと人の子を知りたい。そして、あの国を滅ぼす。憎き魔女デネブラの国を」

「ええ、もちろんですとも。あの女狐のせいでデルタの贄を入手できなくなったのですから。我々は世界を統べるにふさわしい種族です」

 アンは力説する。けれども彼女の言葉にはあまり惹かれない。むしろ、近頃はアンをうっとおしいとさえ思う。

 視線を蝋燭に戻せば、炎の中に叶の姿が見えるような錯覚に陥る。

「何故、我が花嫁は人の子なのだろう。私は、何故自分の妻を美味そうなどと考えてしまうのだろう」

 彼女のことをなにも知らない。

 歳も祖国も家族も友も。彼女がなにを食べ、なにを考えるのかさえ知らない。

 なにひとつ知らないあの少女にこんなにも執着している。おかしな話だ。

「アン」

「はい」

「お前は眠ったことはあるか」

「それはもう随分昔の話ですがございます。あれほど無駄な時間もありませぬでしょうに。特に人の子には」

 人の子の寿命は短い。

 クレッシェンテの女神の祝福を受けた一部の人間や、諸国の統治者、高き魔力を持ったものを除けば人の子など呼吸するほどの時間で人生を終えてしまう。

「叶もまた、消えてしまうのだろうか」

「人の子の寿命は短いですからねぇ。そう、長くはこの地に居られないでしょう」

 アンは静かに答える。

 どうやら我々と人の子では流れる時間が違うようだ。

 視線を窓に移せば、丁度この部屋から叶の部屋の窓が見える。

 いくつかの炎が揺らぐ部屋。

 叶は今、なにをしているのだろうか。

 ふと、そう考えた自分を不可解だと感じた。


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