誕生日はやっぱ楽しまなくちゃ・2
お久しぶりです。
俺はえらく長かった観覧車から足を地面につける。
「はあ、空気が美味しい」
地面に足が付いていると言うのはやっぱりすばらしいことだ。足が地面から離れると言うのはやっぱりあれだ、ダメなことだ。
「で、幸。次はどこ行く?足が地面につくアトラクションだったら何でもいいぞ」
「足が地面についたままのアトラクションなんてあったっけ?」
「いっぱいあるぞ。例えば……今は具体的に挙がってこないけど、あれだから。いっぱいあるから」
あるよね?いっぱい。
「優一氏よ、次は何しに行く?」
おっさんらも降りてきた。
「どうせだ、趣向を変えて射撃ゲームなんかどうだ?」
岬先生が珍しく美味しい意見をくれる。
「そうですね。地面に足がつきますしそうしましょう」
「で、射撃ゲームってどこにあんの?」
俺たちは完全に道に迷っていた。
あれからしばらく歩き回ったが全然見当たらないしどこにあるのかも分らない。完全に積だ。佐奈が迷子にもなった。今頃泣いているんだろうな。完全に影が薄い奴だ。
「で、マジでどうするこれから?」
休日と言うこともあり、馬鹿みたいに広い遊園地なのに大勢の人で混雑している。
「まずは佐奈氏を探しに行かなくてはなるまい」
「どうせ迷子お預かり処にでもいるから安心していいと思うぞ?」
「岬先生には生徒のことを気遣う優しい心は無いんですか!?」
「教育者たるもの時には鞭が必要なときもあろう?」
あんたの場合は全部鞭じゃないか!!
「安心しろ。心が壊れてもまた修復してやるさ」
「安心できないから!!」
「それよりお兄ちゃん、お腹すいた!」
「今言うことかそれ?」
「カース・マルツゥが食べたい!」
「何それ!?」
「イタリアのチーズ!」
「マニアックだなおい!」
「中に蛆虫が入っているんだって!」
「気色悪いなんてもんじゃねえ!!?」
そんなもんがこんなところにあるわけねえじゃねえか。
「おい、そのカースとやらが、ここにもあるらしいぞ」
「岬先生までのかってこなくていい……か…」
岬先生が指差す方向には一つの看板があった。有名イタリアレストランがここに店を構えているらしい。で、先生が指差しているのはその看板の隅のほう。『規制から戻ってきた!カース・マルツゥ再び!』なんぞというふざけたことを書いた看板だった。
「日本の政治家何やってんだああ!!」
蛆虫入りって何それ!?食べていいものなの?ダメでしょ?政治家の皆さん、こんな食品の規制解除するとかとうとう頭いかれたのか!!!
「しかも全部食べたら賞金十万だって」
「絶対に食べないからな!!」
「だけど今日は私の誕生日だもん」
その一言で優一の未来は決まったのであった。
「いらっしゃいませー」
そんなこんなで俺たちは、遊園地内にあるイタリアレストラン、レイ・レイに来ていた。
さすがは有名イタリア店といったところか、内装はとても綺麗で整っている。
俺たちは手短にあるテーブルに座り、メニューを開く。
一番安い値段が、飲み物欄のシベットコーヒー。価格、三千円。
「幸、帰ろう」
ここは俺たちのような庶民が来ても良い所じゃなかったのだ。こんな所で食事なんぞしてみろ?あしたから食卓に並ぶの水だけだぞ?
「大丈夫だ。つい今さっきここで働いている奴にお願いしてな、全部ただだ」
岬先生は自慢げに言う。その後ろでは一人の男性職員が涙を流していた。
…………何をやったんだろう?
「ご注文お決まりになりまし………」
注文を取りにきた女性の方の引きつる声がする。
その女性は金髪ツインテールのほのこだった。今日はメイド服だ。
「あ、ほのこちゃんだ」
幸もそれに気付き声を上げる。
「何で皆さんがここに……?」
ほのこは何がなんだかわからないという顔をする。
「前にも言ったと思うけど、今日はこいつの誕生日でな。プレゼントとしてこの遊園地に遊びに来た」
「あんたには聞いてない」
ほのこは相変わらずである。
「でも、そうでしたか。幸ちゃんの誕生日って今日だったですね」
「あれ?知ってたの」
「あなたに誕生日のプレゼントといってブラを買ってった人が前に教えてくれました」
俺には相変わらずっぷリの絶対零度である。まあでも、こんなこと言いながらも笑顔を絶やしていないのだからこいつの方はもう大丈夫みたいだな。
「良かったではないか優一氏、まだかなり警戒されているようだがつかみまでは取り戻せたようだ。これならば後の展開しだいではいくらでもこやつの体を―――」
「この後の展開にあるのは、あんたが刑務所に送られるという事実だけだ!!」
「それで、ほのこちゃんは何やってるの?」
「あはは、相変わらずのバイト。今月は結構いろんなことにお金つかっちゃったから、結構家庭的にピンチで」
どこの家計も大変なのは変わらないようだ。
「射撃ゲーム……ですか?」
食事を終えた俺たちは、店の外でほのこに相談していた。
カーストの方も頼んだには頼んだのだが、想像以上にグロく、見た瞬間におっさんの顔面にスパーキングしたところ、ぶっつぶれた拍子に蛆虫が飛び散り、他のお客様のご迷惑になり、追い出されたのである。
「ああ、もちろんあればの話で良い」
岬先生とほの子が話している間、俺はずっと吐き気が止まらなかった。やばい吐きそう。
ちなみにおっさんはすぐに遊園地の医療所に運ばれ意識不明の重体である。顔面中に蛆虫の侵略をくらったのだから無理もあるまい。
「確か、夢とおとぎの国エリアの方に、西部劇の奴があったと思いますけど……」
「そうか助かった。おいお前ら何時まで吐いている。さっさと行くぞ」
俺は「へいへい」と返事をして、立ち上がる。
「ほのこはどうする?一緒に行くか?」
「ふん、誰があんたなんかと」
ほのこは俺と目を合わせず、そっぽを向いて応える。まあこいつにはまだ仕事もあるし答えはわかってるしな。
「じゃあな、助かった」
俺も踵を返し、夢とおとぎの国エリアに向――
「あ、幸ちゃん待って」
おうとするのだが、幸が呼び止められたため俺も立ち止まる。
「途中清掃員を見かけたら声を掛けるといいよ。何をしているんですかって聞くと、みんなが残していった夢を集めているのですよって言ったり、誕生日だって言うと、何か貰えるはずだから」
「へえー」
今のは始めて聞いたな。さすがバイト女、細かい裏事情にも精通してるってわけか。
アパルタリーパークは、四つのエリアに分かれている。
一つはついさっきまで俺たちがいた、ジェットコースターなんかがあるジェネラリーエリア。射撃ゲームや、子供向けのものが多い夢とおとぎの国エリア。そのほかアダルトエリアやら、秋葉エリアやらがある。
で、俺たちは夢とおとぎの国に来た。
さすがわお子様向けのアトラクションが多いエリアだ。ジェネラリーエリアよりもたくさんの子供がいる。
「や、やっべえええええ!!!ロリっ子が、ロリっ子があんなにたくさん。ハア、ハア、おおお、お持ち帰りいいい!!」
おっさんはいつの間に復活したのか、どこぞのアニメキャラクターのごとく叫びながらカメラを手に女の子の集団につっ込んでいった。
「ささ、あんなもん関わるのはやめて、さっさと行こう」
もうあんな犯罪しか起こさないようなやつの隣にいたら、いくら良心しかない奴でもいずれ死刑宣告を受ける破目になる。
「はあ」
俺はまた溜息を漏らしていた。
「ん?」
おとぎの国エリアに着いて少し歩いたところに、清掃員らしきおっさんがいた。
「おい幸、さっき言ってた清掃員のおっさんいるから行ってくれば?」
幸は「うん」と応えて、その清掃員の方に駆け寄った。
「おじさん何をやってるんですか?」
「ん?これはね」
幸の声を受け清掃員は顔を上げた。
「私が失くしてしまった髪の毛を集めてるんだよ」
「怖いんだけど!?」
清掃員のおっさんは涙を流しながら言った。
「げ、川西……」
ああ、どこかで見たと思ったら川西か。
「ああ、君たちか。休日にこんなところに遊びに来ているなんて、若いっていうのはいいね」
川西の野郎性格変わってやがる。
「すみません私今日誕生日なんです」
「あ、そうだったのか。だったら私も君に誕生日プレゼントをあげよう」
そういって川西は、ポケットに手を伸ばす。
何かもじゃもじゃしたのを取り出した。
「はい」
「何これ!?」
「鬘だよ」
「いらねえよ!!心のそこからいらねえよ!!!」
「ふふふ、これはただの鬘じゃないのさ」
「じゃあ何だよ」
「ハゲが隠せる鬘だ」
「ただの鬘じゃねえか!!!」
「それだけじゃない。これをつけていると、髪が再生して伸びるようになる!」
「嘘付け!!」
「って占い師が言ってた!!」
「騙されてんじゃん!!」
何人が言ったこと全部信じてんの?疑うということ知らないのか?
「そんなことない。十万円も出して買ったんだぞ!?」
「ボッタクリだよそれ!!!」
「それだけじゃない。この鬘の裏には保湿成分配合の……何だっけな?」
「忘れんな!!」
「ともかく、私には効果がなかったが、これはすばらしい鬘なのだ!!」
「ただの鬘だよそれぇ!!」
「はあ」
射撃ゲームを探すだけでなんでこんなに時間が経過してしまったのか……。
あれからまたしばらく遊び歩くことが出来たのだが……
「どうする?もうそろそろ帰らねえと時間やばいぞ?」
もうすぐバスに戻らなくちゃいけない時間だ。こういう時やっぱりツアーで行くというのは動き辛い。
「大丈夫だろ。少しくらい遅れても」
おっさんは自由そうだけどさ。
「そうだぞ、ああいうツアーと言うのは多少遅れることを覚悟でやっている。少し遅れたところで勝手に行ったりしない。もし行ったらそのツアー会社に賠償金を請求すればいいだけだろ?」
岬先生も思いっきり自由だけどさ。
「私の誕生日はまだまだ続くのだああーーー!!」
幸も自由だけどさあ!!
「そういうのやめましょうよ。皆さんに迷惑を掛けるのだけは」
「東堂、人間何時しも少しずるしている奴がいいことされる世の中だぞ?」
そういう世の中にしてんのあんたらだろうが……。
「もうどうでもいいですから帰りますよ」
はあ、せっかくの幸の誕生日がむちゃくちゃになってしまったな……。
俺たちはさっさとバスに乗り込む。
俺と幸は隣同士の席に着き一息入れる。
「楽しかったか幸?」
あんなんだったけど。
けれど幸は頷く。
「だって誕生日におにいちゃんと遊園地に来たってだけで楽しいことだもん。やっぱり誕生日は笑っておかないと」
「そうか」と俺は応える。
「とりあいず、帰ったらここにも店を構えてる有名スイーツ店のケーキが届くようにはなっている。帰ったら一緒に食べるか?」
幸は満面の笑みで「うん」と頷いた。
まあこの笑みを見れたと言うことで今日はよしとしよう。一日中ずっと犠牲になったかいがあった。
やっぱ誕生日は最後は笑顔で締めないとな。
………何か忘れてる気がする。何だろう。とても大切な……とてもめんどくさい何かが……確か……。
「斉藤佐奈さーん?佐奈さーん?いませんかー?」
「「「「あっ!!!」」」」
アパルタリーパーク児童迷子相談所にて。
「優一のバカああああぁぁぁぁ!うわああん」
影の薄い佐奈は、その後数時間に掛けて他の子供と一緒に泣き続けた。
ご感想くれると嬉しいです
まだまだ続きます。




