ドワーフとピッケル
「おい、そこの兄ちゃん。そんな所で寝てたら風邪引くぜ」
うるせぇーな。
どこの誰だか知らねぇが、気持ち良く寝てる俺に話しかけてくんじゃあねぇーよ。
「おい、そこの兄ちゃん。そんな所で寝てたら襲われても文句が言えねぇぞ?」
はあ? 俺を襲うだ! 笑わせてくれるじゃあねぇか。襲えるもんなら襲ってみやがれ! 俺様は殴り合いなら負けたことは一度もねぇ。
「おい、そこの兄ちゃん。油断してるとスライムにころされるぞ?」
スライムだ? 何言ってんだ?
「おい、そこの」
「うるせぇーんだよ! 人様の心配より、俺に殴り殺される自分の心配、し、な?」
俺を起こそうと話しかけてきた奴は、身長120センチの身の丈に合わないリュクサックにピッケルやシャベルを差し込んでいるおっさんがいた。
「何だよ! 折角、心配して起こしてやったのに」
別におっさんの身長やリュクサックやピッケルなどに驚いたわけじゃない。
俺が驚いたのは、耳がとんがってて、人間じゃない
ってところだ。
「何だ? 何見て驚いてんだ? まさか、ドラゴンでも見たのか?」
おっさんは振り向き、勝手に言いだして、勝手に警戒しだした。
どうなってんだ?
あまり、自分が置かれてる状況が読めない。辺り見渡しても俺が寝ていた河原がねぇ。それどころか、俺が寝ていた所は草むらの平地。
「ふぅ、どこにもドラゴンの気配はないな。安心した。ところで、兄ちゃんは何に驚いてたんだ?」
「は? あ、ああ。おっさん、そんなことはどうでもいいんだ。今の西暦って分かるか? それと、ここがどこかも?」
おっさんは不思議そうな顔をしている。早く答えやがれ!
「それはわかるさ。おかしな質問だな?」
「いいから早く答えてくれ!」
「西暦はヤンバル86年。ここは商業の街テルカラサーズだ!」
こいつ、頭大丈夫か? 西暦訊いたのに、ヤンバルって何だよ。商業の街テルカラサーズ?
おい、おい。待てよ、俺がいたのは、
「西暦2026年、6月7日のはずだ! 長野にいたはずなんだが?」
「西暦2026年? 6月7日? 今日は、満月から5つしか経ってないぞ? 長野何て聞いたことのない国だな?」
ふざけてんのか、このおっさんは?
どう考えても俺のいた場所じゃない。寝てる間に何があった?
「兄ちゃんは、見ない服装してるな? まさか、飛外人かい?」
「とがいじん?」
また、変なこと言ってきやがる。1発殴っとくか?
「やっぱり、兄ちゃんは飛外人だ。そしたら、変な服装も意味不明な独り言も納得がいく」
学ランが変な服装に見えるのか? 意味不明な独り言だ? ヤベェ、頭の血管が切れそうだ。
「兄ちゃんが飛外人なら、話が早い。兄ちゃん、自分が置かれた状況が分からんだろ?」
「あ? ああ」
どうやら親切にはしてくれるようだ。1発殴るのは止めといてやるか。
「兄ちゃんの状況は、簡単に言ってしまうとな。別世界からこの世界に飛んで来ちまったんだよ!」
な、何ふざけたこと言ってんだ? やっぱ、殴っとくか。
ゴツン。
「かあああああ。痛っ! 兄ちゃん、何で殴るんだよ!」
「テメェー、1人で分かったような顔しやがって。俺にも分かるように話しやがれ! 猿やバカな奴に分かるようにだ!」
頭を押さえるおっさん。1人で分かったような顔したからだ。
殴られたおっさんは、俺に分かるように懇切丁寧に状況を説明してくれる。
バカな俺でも分かった。1つだけ。
「要は、ここは異世界ってことでいいんだよな?」
「何度も何度もそう言ってるだろ! 兄ちゃんは理解力がないのか?」
もう一度殴られたいのかな、おっさんは?
拳を握りしめると、おっさんは「待て、待て」と命乞いせるかのように話しかけてくる。
「この世界にきて、右も左も分からん兄ちゃんにこいつをくれてやる。これを上手く使えば金に困ることはない」
おっさんが親切にくれた物は、ピッケル。
ゴツン。
「テメェー、俺にこれを渡して何しろってんだ⁉︎ 山行って宝石を取ってこいってことか⁉︎」
「兄ちゃんは短気すぎる! ボコボコ殴られてたら頭が凹むわ。別に山に行けとは言っとらん! そこら辺の地面を掘っても鉱石は出てくる」
殴られた頭を押さえてる。
「悪かったな。おっさんが俺に「装備も整っていないお前は、山行って死んでこい」って言ってるような気がしたんだ」
それと、少しムシャクシャしていた。
「そんなことは、微塵も思っておらんわ! もういい、兄ちゃん名前は?」
何だ? 異世界にも警官がいて、俺の名前を告げ口するつもりか?
「また、変なことを考えているな? 兄ちゃんと出会ったのは何かの縁だ。それに、異世界人を初めて見た。だから、名前を知っておきたいのだ」
「何だよ。俺の名前は水無月諒太。おっさんは?」
「わしは、種族ドワーフ。ガリエン・テリートだ。覚えておくといい」
「ガリエン。覚えたよ。お前も忘れんじゃあねぇぞ」
「分かっとるわ」
ガリエンはこの後、街に戻るらしく行ってしまった。
それにしても、これからどうするかな?
日はまだ出たばかりに見える。このままでは、いつもと同じで暇が俺を襲ってくる。
仕方ない。貰ったピッケルで鉱石見つけて、今日の資金にでもするか。
「まずは、手当たり次第に掘るか」
これから、俺の暇つぶしは寝るじゃあなくて穴掘りになりそうだ。
手当たり次第に掘って数時間。
「ハマってしまった」
ただの穴掘りのはずなのに。ピッケル、恐ろしい。
数時間、掘った結果。
「出てきたのは、バスケボール並みのツルツルの石と薄ぺらな石が千枚、いや十万枚、それ以上? どうでもいいか?」
俺はこの世界に一緒に持ってきてしまったスクールバックに薄ぺらな石を入れ、入りきらなかった石はポケットに入れる。
案外、入るものだな。
丸いツルツルの石は手で持ち、ガリエンが歩いていった道をたどる。
目指すは街、テルカラサーズ。




