私の同行人
私は何があってもここだけは一生入らないと思っていた部屋にいる。
王様の部屋だ。
中について言及したいのは山々なんだけど、それより先にしなくてはいけないことがある。
あの子、誰だろう。
そこには銀髪の少女が長いすの上で仁王立ちしていた。
深紅の眼は大きくて愛らしい顔立ちをしている。ルエーナに負けず劣らずの美少女だ。年齢も似たような物で、13、4歳くらいに見える。
何故仁王立ち。
眼に入った瞬間はそう思ったが、それより大事な疑問が出てきたのだ。誰なのかと。
私はここまで連れてきてくれた王様を見てから、その隣に立っているアレージュノ様を見た。
と、とっても聞きにくい。
それでも何か言わなくては。美少女は仁王立ちしながらこっちを見ているだけで何も言わず、アレージュノ様は通常運転、王様に求めるのは無駄。
だから私は重すぎる口を開いた。
「あ、あの、あの子は」
私は失礼にならないよう指を差すのではなく手で少女を差しながら、王様にほほえんで聞いた。
どもってひきつって震えてるが、そんなことは些細な問題のはず。
王様は少女をちらりと見るとゆっくり頷いた。ま、まさか…!
「私の愛人だ」
「やっぱり…!」
「何がやっぱりですの! 貴方も冗談は相手を考えて言って!」
戦慄していたら、アレージュノ様のツッコミが入った。おお。ルエーナはやはりアレージュノ様似だ。ナイスツッコミ。
ていうかさすがに違ったか。もちろんボケたつもりだったんだけど思いの外本気に取られている。
その訂正を入れるかどうか迷っていると、大声を出したのが恥ずかしかったのか軽く咳払いしてから少女の元へ歩いて行った。
少女はアレージュノ様にきょとんとした顔を向けている。う、しまった。この頃の子供がいる場でするボケじゃなかった。
「妾が愛人ってどういうことじゃ。そいつが妾の愛人の間違いじゃろうが」
「……」
「……そっちじゃないでしょ」
思わず絶句しているらしきアレージュノ様の代わりにツッコんでおいた。
「妾はリージェフィア。リージェでもリズでも好きに呼ぶが良い。様をつけるのを忘れるな」
それは好きにって言わないよ。
そう思ったのは私だけではなさそうだが、話が進まないと思ったのかアレージュノ様は何事も無かったようにしている。
「この子は私の妹ですわ」
「え、アレージュノ様の…!?」
私は少女改めリズ様とアレージュノ様を見比べた。
確かに顔のパーツは似ていなくもない。ただ、ルエーナという例があるためにあまり似ているようには見えなかった。髪の色も目の色も違う。兄弟で瞳の色が違うのは無いことではないけど、ここまで違うことはありえないはずだ。
そして、年齢についてとてつもなく言及したい。
でも女の人に年齢に関する話題を振るのは失礼に当たる。昔は面倒とか思っていた私だが、今になるとよく分かる。
私の目が泳いだのに気づいたのか、アレージュノ様はそちらから話題を振ってくれた。
「この子は確か30歳くらいにはなりますわよ」
「違うぞ、妾はまだ29じゃ。姉上様は120位じゃったか?」
「……147ですわ」
「おお、とうとう140の大台になったのじゃな。通りで少し皺が見えてきたはずじゃ」
「皺!?リズ、貴女もう一度言ってご覧なさい」
「…いやあの、ちょっと待ってください」
口を挟んだ私に二人が同時にこちらを見た。
私はそんな二人をもう一度見比べる。そんな年齢にはまったく見えないし、そもそもこの世界だって人間の寿命は90前後だ。
そして、私はアレージュノ様について考えた。
実は、彼女の身元を知っている人は誰もいない。王様が儀式中に知り合った方の一人で、魔獣を倒すのに一番功績を上げたのが彼女という。だからこそ身元すら怪しい彼女が正妃になることが可能だったのだが。
そんな彼女はこの国一番の魔術師だ。兄妹二人とは違いコントロールもばっちりで、溢れる魔力を持っている。ついさっき知った離宮の結界も、彼女が行っているそうだ。
人間とはかけ離れた能力、そして見た目に反した年齢。
「あなた方は、魔族なんですね?」
確信を持ってそう言うと、二人はあっさり頷いた。いやあの、軽すぎではないでしょうか。
やっぱりこの世界の魔族はゲームのそれとは違うらしい。魔族と聞いたら冷たく嘲笑を浮かべるイメージがあるが、この二人ならキレたルヴェイトの方がよっぽど魔族っぽい。
…ってアレージュノ様の血を引いてるわけだから魔族でもあるわけか。半魔族?
私は長年の謎だった兄妹達と自分との、魔力の大きさの差がとうとう分かった。
彼らの母親は魔族だったらしい。
「ええ。そして、私の父親は魔王ですわ」
「妾もじゃ」
「当たり前ですわよ姉妹なんですから」
………そして、魔王の血を引くものだったらしい。
「息子すら驚いたっていうのに、お前は驚かないんだな」
少し驚いた様子の王様の言葉に、私は乾いた笑いを漏らしそうになった。
あんまり驚けないのは、ルヴェイトがチート過ぎる所為だと思う。むしろ納得してしまった。
「あ、じゃあこれが根拠ですね?」
私はルヴェイトに言われた言葉を思い出してそう聞くと、王様が軽く頷いた。
「そうだ。魔王にとって私は娘を拐かした悪人ということになるからな。私が行くより孫にあたるルヴェイトに行かせた方がまだマシだ」
「そうですね…」
挨拶なんてしたくても出来なかっただろう。アレージュノ様と王様がどうやって知り合ったのかは知らないが、相手は未開の地、南大陸を治める魔族の王。会いに行くことだって不可能だ。
…もしかして、和平がしたかったのは舅婿の仲を変えたかったから…とかも混じってたり?
「それで、これを魔王の元まで送り届けるのがお前の役目だ」
「これとはなんじゃ!妾は歴としたレディじゃぞ!」
リズ様が失礼な発言に声を荒げるが、王様は鬱陶しそうに眉をしかめているだけだ。この二人って相性悪そうだよね。
そう思いながら私は首をかしげてしまった。
送り届ける、と言われても彼女は魔族であるから自分の護衛なんていらないだろう。
「…そもそも、どうやってここまで来たの?」
「妾を誰だと思っておる。転移魔法で一発バビューンじゃ!」
「え、凄いねリズ様!」
純粋に驚いてそう言うとリズ様はふふんと胸を張って満足げに笑った。だがその隣でアレージュノ様がため息をつく。
「…貴女が来る前に、バルコニーに何か落ちましたの。私が見に行って見れば…」
「……リズ様だったと」
「ええ」
バビューン、ぼとりって感じだったらしい。アレージュノ様曰く。
「そういうわけで、ルヴェイトとルエーナほどではないけれど、この子も魔法がへたくそなんですの。……加えて、方向音痴」
「妾が悪いのではない。無駄に広いこの世界が悪いのじゃ」
「…はぁ」
アレージュノ様がため息をおつきになった。大変だなぁ。
他人事のように見ていたのが伝わったのか、アレージュノ様は突然眉をつり上げてビシッと私をさした。
「だから、貴女が送り届けるついでにこの子の躾もお願いします!」
それは16歳(実際年齢)に言う言葉なのだろうか。アレージュノ様から見た自分がかなり気になるけれど、アレージュノ様の本気の気迫が怖いのでとりあえず頷いておく。
アレージュノ様は頷いた私に溜飲が下がったのか手を戻して落ち着いた。私は隣に座っている王様に顔を向ける。
「でも、私で良いんですか?」
護衛の件もそうだが、私にこの世界の土地勘は無い。知識はあるし別に方向音痴という訳でもないが、リードさんと比べると何とも心許ない案内人だ。
不安に眉をひそめたが、王様は力強く頷いてくれた。
「むしろ他に居ないほど適任だ。危険はあるだろうが、覚悟したんだろ?」
ちらりと向けられた鋭い視線に、一瞬肩が揺れる。だが私は深く強くはいと答えた。




