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異端(仮)  作者: vastum
王国編
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第七.五話

指揮官は、立ち止まらない


 焚き火の火が落ち着く頃には、他の三人はそれぞれの持ち場に散っていた。


 カイは見張り。

 レナは眠気と戦いながら魔術書。

 ユウは……いつの間にか気配を消している。


 残ったのは、俺とフェリスだけだった。


 フェリスは地図を広げ、静かに指でなぞっている。

 王都アルフェインの外縁。

 街道。

 抜け道。


「……指揮官って、休まないんですね」


 俺が言うと、フェリスは視線を地図から外さずに答えた。


「休む必要がないだけだ」


「必要は、あると思いますけど」


 一瞬、指が止まった。


「そうかもしれない」

 フェリスはそう言って、地図を畳む。

「だが、私は“考えている時間”が休憩だ」


 なるほど。

 そういう人だ。


「王都、居心地悪いですか?」

 俺は焚き火を見ながら聞いた。


「いいや」

 即答だった。

「予想通りだ」


 予想通り、という言い方が少し引っかかる。


「……前にも、こういう街を通ったことあるんですか?」


「ある」

「歓迎されず、拒絶もされない」

「測られるだけの場所だ」


 淡々とした口調。

 でも、感情がないわけじゃない。


「嫌じゃないんですか?」


 フェリスは少し考えてから言った。


「嫌いだ」

「だが、嫌いだからといって避ける理由にはならない」


 強い。


 俺は剣の柄を無意識に撫でた。


「……俺、助けた方がいい場面で、助けないって選択、まだ慣れなくて」


 今日の小さな魔獣騒ぎ。

 行けた。

 止められた。


 でも、行かなかった。


「それは普通だ」

 フェリスは言う。

「慣れなくていい」


「え?」


「慣れたら、判断が鈍る」

「助けることが目的になる」


 助けることが、目的になる。


「私たちは、英雄じゃない」

「善人でもない」


 そこで一度、言葉を切った。


「――ただの、生き延びる集団だ」


 重い言葉なのに、不思議と冷たくなかった。


「それでも、助ける時はありますよね?」


「ある」

「だから判断する」

「今か、今じゃないかを」


 俺は頷いた。


「……俺、判断、早すぎません?」


 少し冗談のつもりだった。


 フェリスは、俺を見る。


 真っ直ぐ。

 逃げ場のない目。


「早い」

「だが、浅くはない」


 それは、意外だった。


「お前は、正解を知っているわけじゃない」

「だが、無駄を嫌う」

「だから最短を選ぶ」


 ……よく見てる。


「危ういのはそこだ」

 フェリスは続けた。

「最短は、いつか誰かを置いていく」


 胸に、少し刺さる。


「だから、私は前に立つ」

「お前が止まらないように」

「止まる時を、決めるために」


 指揮官の役目。


 守るんじゃない。

 止める役。


「……ありがとうございます」


 自然と、そう言っていた。


「礼は不要だ」

 フェリスは立ち上がる。

「私は、この集団を選んだ」

「選んだ以上、責任を取る」


 焚き火の火が、少しだけ大きく揺れた。


「フェリス」


 呼び止めると、彼女は振り返る。


「俺、前に出る時、ちゃんと戻ります」

「勝手に突っ走らないようにします」


 一瞬、驚いたような顔をしてから、

 ほんのわずかに、口元を緩めた。


「それでいい」

「……それ以上は、期待しない」


 その言い方が、フェリスらしくて少し笑った。


 彼女は見張りに戻っていく。


 俺は焚き火の前で、剣を見る。


 静かだ。

 何も起きていない。


 でも、確かに分かった。


 この集団は、

 止まらないために、止まれる人間がいる。


 それがいる限り――

 俺は、前に出ていい。


 そう思えた夜だった。

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