第七話
見られている、という感覚
王都アルフェインで迎える朝は、妙に静かだった。
人の数は減っていない。
通りも賑わっている。
それなのに――
俺たちの周囲だけ、音が一段低い。
「……昨日より、視線増えてない?」
レナが小声で言った。
「増えてるな」
カイが即答する。
「しかも、隠す気がない」
意識してみると分かる。
兵士。
商人。
冒険者。
誰も近づかないが、見てはいる。
「監視、だな」
ユウが淡々と言った。
「ギルドの?」
「それだけじゃない」
フェリスが足を止め、周囲を一瞥する。
「王都そのものだ」
「この街は、気に入らないものをすぐには排除しない」
「まず、測る」
測る。
何を?
どこまで?
「……悪いこと、してないんですけどね」
俺が言うと、
「してないからだ」
フェリスは即答した。
「分からないものは、扱いづらい」
納得しかけて、嫌な気分になる。
⸻
昼前、冒険者ギルドの前を通りかかった時だった。
掲示板の前に、人だかりができている。
「依頼が更新された?」
レナが覗き込む。
「違う」
ユウが首を振る。
「注意喚起だ」
紙が一枚、追加されていた。
※特定の冒険者集団について
不要な接触を避けること
問題があれば、ギルド職員へ報告せよ
名前はない。
特徴も、ぼかされている。
――それでも。
「俺たちだな」
カイが笑った。
「名前出さないのが、逆に露骨だよね」
レナが苦笑する。
受付の職員が、ちらりとこちらを見る。
目が合い、すぐ逸らされた。
「……正式に決まったみたいだな」
カイが言う。
「何が?」
俺が聞くと、
「“面倒な連中”って分類」
それ以上でも以下でもない。
⸻
王都の裏道に入ると、空気が少し楽になる。
「この街、息が詰まるな」
カイが首を鳴らす。
「慣れる場所じゃない」
フェリスが言う。
「通過点だ」
「ずっと、こんな感じなんですか?」
俺が聞く。
「人による」
ユウが答えた。
「受け入れられる者もいる」
「俺たちは?」
「例外だ」
即答だった。
少し沈黙が落ちる。
「……まあ」
レナが明るく言った。
「住まないなら、気にしなくていいよ」
「そうそう」
カイも乗る。
「嫌われ慣れてる」
それが冗談に聞こえるのが、少しだけ救いだった。
⸻
その日の夕方、城壁近くで兵士がざわついた。
「何かあった?」
俺が聞くと、
「小規模な魔獣騒ぎだ」
フェリスが言う。
「すでに収束している」
「行かないんですか?」
「呼ばれていない」
それが、この街での立場だった。
遠くで煙が上がり、
すぐに消えた。
「……助けなくていいんですかね」
俺が呟く。
「今は、いい」
フェリスの声は静かだった。
「助ければ、状況が変わる」
良くなるとは限らない。
むしろ、悪くなる可能性の方が高い。
「難しいですね」
「だから指揮官がいる」
その言葉に、少し笑った。
⸻
夜。
野営地で剣の手入れをしていると、
背中に視線を感じた。
振り向くと、誰もいない。
「……見られてる気がする」
俺が言うと、
「気のせいじゃない」
ユウが即答した。
「ただし、敵意でもない」
「観測だ」
フェリスが言う。
「危険かどうかを測っている」
俺は剣の刃を見る。
静かだ。
何も起きていない。
「……測られる側って、落ち着かないですね」
「慣れるな」
フェリスが言った。
「慣れたら、終わりだ」
その言葉が、妙に重かった。
王都アルフェインは、
俺たちを拒絶していない。
でも、受け入れてもいない。
その曖昧さが、
じわじわと首を絞めてくる。
――そして、その曖昧さが崩れる時、
きっと何かが起きる。
そんな予感だけが、
静かな夜に残っていた。




