第六話
公式ではない仕事
王都に入ってから、妙に静かな時間が続いていた。
「最近さ」
カイが焚き火に薪をくべながら言う。
「特に、悪いこと起きてなくないか?」
「それ言う?」
レナが即座に突っ込む。
「そういうの言うと――」
「起きる」
ユウが淡々と続けた。
フェリスが短く遮る。
「不吉な比喩は禁止だ」
焚き火がぱち、と鳴る。
その瞬間、剣がほんの一瞬だけ温く感じた。
「……気のせいか」
その時、声がした。
「――あんたら」
昼のDランク冒険者だ。
彼は周囲を見回し、声を落とす。
「公式には頼めない」
「城壁外れの旧水路で、人が消えてる」
「仲間が戻ってこない」
フェリスが即断した。
「案内しろ」
「内容は非公式で処理する」
旧水路は王都の影だった。湿った空気、魔力の澱み。
足を踏み入れた瞬間、剣が微かに“鳴った気がする”。
耳じゃなく、手のひらにくる振動。
「……」
柄を握り直すと収まる。
「どうした?」
ユウが聞く。
「なんでもない」
魔獣が出る。数は少ないが、誘導されている動き。
戦闘は短い。
カイが受け、レナが崩し、ユウが抜けを潰す。
俺は一歩遅れない位置で、刃を走らせる。
その途中、剣がほんの一瞬だけ重く感じた。
「……っ」
俺は即座に踏み込みを浅くして修正する。
動きは乱さない。乱させない。
「シオン」
フェリスの声が低い。
「大丈夫」
俺は短く返す。
「……あとで話す」
奥で倒れている人影を発見する。冒険者。息はある。
「生きてる!」
Dの男が駆け寄る。
助けた。被害は最小。誰にも知られない。
それでいい。
「公式には言えない」
男が言う。
「でも、恩は覚えてる」
「それで十分だ」
フェリスが答えた。
帰り道、俺は剣を見下ろした。
刃は静かだ。
「……気のせいじゃないよな」
返事はない。
まだ、ただの兆しだ。
そう思える程度の、かすかな違和感だけが残った。




