第28話
やらかしは自覚のないところから
町は小さかった。
城壁も門もなく、街道沿いに家が寄り集まっただけの集落。
通り抜ける旅人のために存在しているような場所だ。
「今日はここで休む」
フェリスが言った。
「助かる」
カイが大きく伸びをする。
「さすがに野営続きは腰にくる」
「まだ若いだろ」
俺が言う。
「若くてもくる」
カイは真顔だった。
「年齢じゃない」
レナが補足する。
「姿勢と日頃の行い」
「全部俺のせいみたいな言い方やめろ」
町に足を踏み入れると、視線が集まった。
武装した一行。そりゃ目立つ。
「……ねえ」
レナが小声で言う。
「視線、多くない?」
「多いな」
俺も頷く。
「好奇心半分、警戒半分」
「まあ」
カイが笑う。
「俺ら有名人だからな」
「自覚あるの?」
レナが睨む。
「悪名は名誉だろ?」
「違う」
その中心にいるのが――
「わあ……!」
リィナだった。
完全に観光客の顔で、あちこちを見回している。
「人間の町って、こういう感じなんだ!」
「建物が低いね!」
「道、狭い!」
「声がでかい」
カイが即ツッコミ。
「え?」
リィナはきょとんとする。
「普通じゃない?」
「普通じゃない」
レナが即答。
「三割くらい音量落として」
「三割……」
リィナは真剣に考える。
「これ?」
「まだ高い」
「難しい!」
宿屋に入る。
「二部屋で」
フェリスが言う。
「おや」
宿の主人が俺たちを見る。
「ずいぶん物々しいね」
「通りすがりです」
フェリスは淡々と答える。
主人の視線が、リィナに止まった。
「……嬢ちゃん、育ちがいいね」
リィナが一瞬固まる。
「そ、そう?」
すぐに笑う。
「気のせいだよ!」
「いや」
主人は首を振る。
「立ち方と目線が違う」
俺は内心で頭を抱えた。
(出た……)
「この子、田舎育ちなんで」
カイが即フォロー。
「山の方」
「山?」
主人が首を傾げる。
「すごく高い山」
カイは適当に言う。
「雲より上」
「適当すぎだろ」
レナが小声で突っ込む。
その後も、リィナは細かくやらかした。
・値段交渉で即金を出そうとする
・食事の所作が妙に洗練されている
・子どもと話す時、自然に目線を合わせてしゃがむ
「……なあ」
俺は小声で言う。
「もう少し普通にできない?」
「普通ってなに?」
リィナは本気で首を傾げた。
「……そこからか」
夕方、町外れの倉庫で揉め事が起きた。
「盗みだ!」
「違う! 俺じゃない!」
声を聞いた瞬間、リィナが反応する。
「行かなきゃ」
「待て」
フェリスが即止める。
「でも!」
「関わるな」
静かだが強い声。
――次の瞬間。
「やめなさい!」
全員、遅かった。
「……あ」
カイが言う。
揉めていた男たちが、ぎょっとする。
「嬢ちゃん、関係ねえだろ」
「事情も分からず決めつけるのは良くない」
リィナは一歩も引かない。
「証拠はあるの?」
「……証拠?」
完全に“裁く側”。
フェリスがゆっくり息を吐いた。
「シオン」
「はい」
「収めろ」
「了解」
結果、盗みは誤解だった。
倉庫の管理ミス。
解散後。
「……怒られた」
リィナがしょんぼり言う。
「怒られてない」
カイが言う。
「指導されただけ」
「違いは?」
「隊長が怖い顔しなかった」
「それが境目」
「基準そこ?」
俺が言うと、
「そこだ」
レナが真顔で頷いた。
フェリスは淡々と言う。
「判断が速すぎる」
「立場がない者がやると危険だ」
「……ごめんなさい」
焚き火の前で、リィナは膝を抱えた。
やらかしは、
本人が気づかないところから始まる。




