幕間その二 総司&キルケの世界講座・一般素材編
●キルケ・アスモダイオスの世界講座:
キルケ「やあ少年……、この世界の生活にもだいぶ慣れてきたようだね?」
総司「あ……はい。でもまあ色々わからないこともありますが」
キルケ「よし、ならば今日はこの世界で生活する上で最も日常に即した説明をしよう。しっかりと聞いていたまえ?」
総司「はい! よろしくおねがいします!」
●天魔族の技術体系と、魔人族の技術体系:
キルケ「さて……、君は魔人族とも最近は交流しているよね? そこで質問……、天魔族と魔人族の技術体系に格差があることに気づいているかな?」
総司「え? ……ああ。そうですね……、扱う素材とか、それによって生み出される物とか、明らかな格差がありますね」
キルケ「ふむ……そのとおり。実はこれは素材加工の分野に限らず、例えば医療なんかでも言える話だが……。天魔族と魔人族の技術体系には明確な、乗り越えることが出来ない格差がある……」
総司「そうなんですか……、要するに天魔族側が技術流出を押さえてるとかではなく?」
キルケ「残念ながら……そうではない。さてここでもう一つ質問だ……、天魔族と魔人族の違いは何だね?」
総司「え……、それは……。あ! 天魔族は【受肉した神】……」
キルケ「そうだ……、ワタシたち天魔族は【神核保有者】として、世界律への一定の干渉能力を持つ。しかしながら、その特殊な才能の部分が魔人族には存在しないために……、魔人族の技術体系は【現在在る素材をそのままで変形・加工】する事だけしか出来ず、天魔族の技術体系は【素材に対して世界律規模の一定の追加加工】を行う事ができる……、ようするに【魔人族技術体系の完全上位互換】として成立しているのだよ」
総司「ああ……そうか、魔人族は【神核保有者】ではない……だから」
キルケ「彼らは我々の様々な技術の【助手】や、我々が生み出した【加工機械のオペレーター】などは出来ても、それ以上には種族的な格差で到達は不可能なのだ……。そしてそれこそ、この世界がいわゆる地球で言う中世的な文明レベルで留まっている原因にもなっている」
総司「それってまさか……」
キルケ「……そう、この世界では在る一定以上高度な技術は【天魔族が扱い天魔族からその技術の品を得る】ことが当然だとされている。魔人族達は、そもそも手が出せそうもない【天魔族の技術体系の産物】を独自に生み出すことを考えないんだね。まあ、そのおかげで地球文明のように、技術を人類種が急速に発展させて、かの原子爆弾を生み出すとか言う話にはならない、ということもある……」
総司「天魔族という種そのものが、人類の……魔人族の技術発展の蓋をしている……と?」
キルケ「そのとおりだ……、そしてそれ自体は、この世界が比較的狭い閉じた世界であるが故に仕方がない事でも在る……」
総司「そうですね……、テラ・ラレースの大陸自体は、あの地球の古代超大陸パンゲアほどもありますが……、言ってしまえばそこから先は存在しない……」
キルケ「そう……、それより外のフロンティアを目指すならば、異世界に向かうしかないのだよ……。……と、まあ、この話をまとめよう……」
結論:天魔族の技術体系は神核を特別な才能とする【各素材そのものの内部情報に干渉できる高等加工技術】、魔人族の技術体系は【各素材そのものの性質のみを利用した加工技術】である。
●代表的素材、マナ鉱、魔源金属、アストラ水晶、霊性燃料、魔糸、魔獣素材:
キルケ「さて……、我々が衣服や防具、武器の素材として利用しているもののうち代表的なものを上げると以下のようになる」
★霊性鉱石(マナ鉱、魔源金属)
★霊性情報素体(アストラ水晶)
★霊性燃料(エネラス)
★霊性紡績素材(魔糸)
★魔獣素材
キルケ「なお……上記で言う【霊性】とは一定の方向性を得た魔力の流れ、その機能を意味する言葉だよ……。そして、それぞれの加工法とその生成物を解説すると以下のようになる」
★霊性鉱石加工技術:
「一般鍛冶」
言わずと知れた普通の鍛冶加工。工房があれば地球の人類でも出来る。
「神造鍛冶」
素材定義に世界律方面から追加処理を施し、一部の機能を書き換える鍛造技術。ただし、元素材の基本構造を書き換えると素材が失われるため【機能追加】が原則。
独自機能を追加する他に、天魔族の神核に反応して付加効果を発揮するようになる。
「霊性重層術」
魔力とその流動回路を層状に積層して強度や魔導効率を上げる。言ってしまえば、攻撃・防御・耐久等の値を段階的に強化していく加工。
「神鋳核処理」
天魔族向け最上位装備に施される処理。天魔族の神核と連動することで動作によって自壊しないようになる。
この技術の究極系とも言えるのが【不壊加工】であり、現状【魔王剣】とそのレプリカであるルーチェの愛刀【曲刀・無銘】のみしか存在しない。
★霊性情報素体加工技術:
「情報結晶素子精錬」
いわゆる電子機器の回路的なもの。ようはこの世界では電気を利用した回路ではなく、魔力を利用した回路が各機械制御に利用されているのである。
事実上、天魔族の独占技術。一応は魔人族でも手を出せる加工処理はあるので、それを製造する工場などでは魔人族も働いている。
「位相結晶合成」
完全に天魔族しか処理できない加工技術。
ようするに相転写工学という独自の「人又は物質の瞬間移動」に関する技術の産物であり、転移門や何かしらを瞬間移動させる、もしくはそれそのものが瞬間移動する仕組みを生むための核となる技術。
★霊性燃料加工技術:
「エネラス合成」
一般燃料に、魔力を積層付与して、世界律的加工を施した特殊燃料。
この世界には一般燃料にも魔力が付与されていて、その分地球より燃料効率がいいのだが、それを更に高めたのがエネラスであり、この世界における地球から見れば超科学的な産物である機器類の起動エネルギーを確保するためには必須とも言える燃料である。
★霊性紡績素材加工技術:
「一般霊性紡績」
これも、工房があれば地球の人類でも出来る。
魔力の積層付与や、竜骨粉などによって微細魔質を染料・糸材に混ぜ、【魔力定着陣(刺繍陣)】で安定化した糸素材。
先史文明時代から存在する伝統的「紡績技術」であり、それによって生み出された衣服は、かつての【勇者パーティー】の最終防具としても用いられた。
そのままで地球の金属鎧を超える防御能力を発揮する。もちろん、天魔族にとっては防御力不足ではある。
「調律式霊性紡績」
魔力そのものを【情報的波形】として糸に刻み込んで、製織段階で基礎演算子生成処理を施した【衣装そのものを世界律演算補助装置】として成立させる技術。
天魔族の神核に反応して防御性能が極大化して、術師向けであればその術式処理を強化する事ができる。
★魔獣素材加工技術:
「一般魔獣皮処理」
魔獣は【魔力環境下で独自進化した動物】であり、魔獣の皮とは【魔力を運ぶ有機導線かつ、同時に情報を記録・伝達する生体媒体】という側面がある。その構造によって【衝撃吸収、自己再生、魔力伝導補助、魔法・術式抵抗】といった機能が自然に発現する。
そういった素材を防具などにそのまま利用するのが魔人族における革製品となっている。これも、工房があれば地球の人類でも出来る。
なお皮の等級はそういった要素の高さによって【A~E】までに分かれて売買されている。
「霊紋再構成処理」
革製品向けの「調律式霊性紡績」のようなもの。発揮する効果はほぼ同じ。
「共鳴再織」
最新式の処理技術。別素材と魔獣皮を機能を損なわずに合成する技術。
総司「……」
キルケ「ふむ……、すこし早急すぎたかな? これだけの情報量は……」
総司「い……いえ、大丈夫ですとも……」
キルケ「……ふむ、すこし休むかね(笑)?」
●一旦ここまで:
キルケ「以上のようにこの世界で扱われている素材は、武器防具関連だけでここまでの情報量になる」
総司「はい……、これは全て理解するまでかなり掛かりそうです……」
キルケ「ははは……、少年、ワタシは逃げないから、いつでも話を聞きにきたまえよ……」
総司「ありがとうございます……、キルケさん」




