第五話 生誕のサーガラ
叡智の塔の友軍を五人追加した一行は、一路立ち入り禁止となっている洞窟――、幻魔群が集っていると言われる大空洞へと向かう。
しかしながら――、道すがら困惑顔である人物と総司は会話していた。
先程、叡智の塔の友軍を五人と言ったが……、それ以外に一人、叡智の塔の友軍とともにやって来たのである。その人物とは――。
「しかし……、まさかさっきまで叡智の塔にいらっしゃったのですか? プリメラさん……」
「はははは……、そうですな……。戦闘指導教官としては、他の勢力に居る者たちの成長も、とても気になるものでして……」
そう、一行に更に追加で皆の師匠たるプリメラ・ベールが加わったのである。
先の騒動のことを聴いていたプリメラは、先を進むオラージュやルーチェに、チクチクと嫌味に似た事を言う。
「……いやあ、先程は大変だった様子で、何処かの誰かが不在中に、なにやら妙な戦闘狂に絡まれたとか……」
「え……、あいや、それは……」
プリメラの言葉に総司は困ったような笑顔で言葉を濁す。
皆の先頭に立って進むオラージュとルーチェは、プリメラの言葉を少し落ち込んだ様子で聴いていた。
「ま……、これから先は私に任せてください……。そこのレパードと私がいれば、護衛としては十分でしょう……」
そう言って笑うプリメラに、名前を言われたレパードも苦笑いした。
――少し機嫌が良さそうなプリメラを引き連れて、総司とレパード、そしてオラージュやルーチェ、さらに――、
叡智の塔に所属する戦獣騎兵【プネウマ・ムルムル】――、
骨の装飾によって構成された鎧を身に着けた、ギザ歯に笑顔を貼り付けた長い赤髪の女性……、骸骨の馬【骸馬】に乗った異形の騎兵。
同じく叡智の塔所属、魔剣士【ファルチェ・フォーカス】――、
サキュバスにも似た典型的悪魔っ娘スタイルで、巨大な戦鎌を手にした少女。
同じく叡智の塔所属、戦術術師【トゥルエノ・フルフル】――、
頭部に鹿のような角が生え、背中に翼を持つ有翼人系天魔族……、楽しそうな笑顔を浮かべて小さく放電を纏う女性。
同じく叡智の塔所属、戦術術師【ドラコー・ブーネ】――、
竜骨蛇を体に巻き付けた銀髪金眼で頭に二本角が生えた大人の女性……、怪しげな笑顔を浮かべる魔女。
同じく叡智の塔所属、戦術術師【クレーエ・ナベルス】――、
背に黒い翼を持つ、薄い青髪の術師……、その身に風の流れを纏う女性。
……という、五人を友軍として連れて――、ある意味で運命とも言える彼女が待つ決戦場へと進んでいった。
◆◇◆
鬱蒼とした森林地帯を超えて目標近くへと進んだ一行は、一旦総司と護衛役二人を安全な場所に置いて、七人――、オラージュとルーチェ、友軍五人、で大空洞に向かう事になった。
空洞へと向かう者たちに、プリメラから手のひら大の【護符】が配られた。
「それは、対病・毒の耐性を得る特別な護符だ……、今回の話の内容を聴いたメディアが用意してくれた。これで、向かった先に病気に感染するなにかがあっても、なんともなく無事に活動できるはずだ……」
「おお!! そりゃメディアも用意がいいな!!」
プリメラから護符を渡されながらルーチェは笑っていった。
「ははははは……、これを言うと自分でも少し情けなくなるが……、師匠が小僧についてるなら安心して幻魔掃除に専念出来るぜ!!」
その言葉にオラージュを始めとした、その場の全員が苦笑いをした。
――そして、その七人は、その先に口を開けているであろう洞窟へと進んでゆく。
それを総司は心配そうな表情で見送った。
「……この先……、あの幻竜八姫将――、とかいうのも待っているんでしょうね……」
「まあ……、そういった類が出てもあのメンバーなら問題あるまい……。超攻撃的殲滅特化メンバーだからな……」
そう言って笑うプリメラ。――そんな彼女にレパードが言う。
「まあ、どちらかと言うと……、こちらのほうが層が薄いと言うか」
その言葉に不敵に笑ってプリメラが答える。
「はあ? この私がこの場にいて、魔王様がどうにかなると思っているのか?」
「い……いえ……」
そう答えて苦笑いするレパード。総司もまた苦笑いでプリメラを見た。
(……まあ、ここにプリメラ師匠がいる以上……、万が一でも危険なことはないだろう……)
――そう考えて笑う総司であったが……、
その万が一を超える状況が――、この後展開される事を知らなかった。
◆◇◆
しばらく後、大空洞があるであろう森を隔てた先から炸裂音が響いてくる。それは正しくオラージュたちの戦闘音であると理解できた。
もし何かがあれば、総司が手にしている通信用の護符を使って連絡ができるようになっている。
特に何も連絡のない様子に……、総司は問題なく殲滅作戦が展開されている事実を理解した。
――と、そこにその場の三人とは別に何者かが現れた。
「?!」
当然警戒して総司を庇う護衛二人だったが――、その来訪者の姿を見た総司が嬉しそうに笑って、その人物に駆け寄ったので、困惑顔で警戒を解いた。
その来訪者とは――。
「スクリタさん!! スクリタさんですよね!!」
「……あら、偶然……。総司じゃない……。こんなところで何してるの?」
「……ああ、それは……」
その明らかな知り合いっぽい様子に、レパードは少し拗ねたような表情を作り、プリメラは思案する様子でスクリタを見つめた。
スクリタは気安い感じで総司に近づいて……、そしてその手に持つ護符を見て言った。
「あれ? なにそれ……、なにかの術式アイテム?」
「……ああ、これは……」
総司はその手の護符をスクリタに見せる。スクリタはその護符に手を伸ばし……。
「おい……、スクリタとか言ったか?」
「はい? なんでしょう?」
静かにプリメラがスクリタを睨む。
「ここら一帯は我ら以外立ち入り禁止だが……。君は何処から来たのかね?」
「……!!」
そのプリメラの言に総司は驚きで目を見開く。
「あら……」
――そしてスクリタは薄く笑う――。
プリメラはその腰の剣の柄に手を触れて――、神速で地を奔った。
「……そこのお人好し魔王様と違って……、とても鋭いわね……、黒猫さん……」
「え?」
総司は――、驚きで目を見開いてスクリタを見る。そのスクリタの手に――、先程まで持っていた護符があった。
「……連絡手段はこれだけかしら?」
そう言ってスクリタはニヤリと嘲笑にも似た笑顔を浮かべる。
――総司はその事態に思考が停止した。
「ソージくん!!」
レパードの叫びに総司は我に返る。そのような状況でプリメラが、スクリタを切り捨てようと、その手の両刃長剣を振るった。
思わず目を瞑ってしまう総司。――そして……。
ガキン!
「なに?!」
プリメラの驚きの声が響き、総司は目を開けた。
そこに――、巨大な機械の腕が地面から生えていた。
いや……、地面に広がったスクリタの影からそれは出現していたのである。その腕がプリメラの刃からスクリタを守っていた。
(……これは!!)
プリメラは、自身の手の長剣の切っ先を見て驚きを隠せなかった。
――刃が空中で止まっている。
(刃があの機械腕にまで届いていない……! いや届かない!! これは……)
――防御フィールド?!
その驚きを笑顔で見つめながらスクリタは静かに言葉を紡ぐ。
「行くよ……【機竜】……」
【――Yes, ma'am.】
その瞬間、地面に広がる影が弾けて、そこから巨大な人型が出現する。
驚きながらも後退する総司や、その手の長剣を構えて睨むプリメラ、総司のそばへと近づくレパードを見下ろしながら、スクリタはその全長十二メートルの竜頭巨大人型機械の、その肩に腰を掛けた。
その光景を一人冷静に分析するプリメラ。
(コイツ……。魔王様の知り合いに見えたが……、やはり幻竜八姫将か……。それにあの巨大人型機械……、信じられないほどの魔力の放出を感じる……)
そのプリメラが考えた通り。その竜頭巨大人型機械【機竜】は、その機体各所、関節部各所から、黄金色のエネルギー粒子を周辺に放っている。
その機体の肩に腰をかけて、その少女――、スクリタは言った。
「……さて総司……、これは良いプレゼントになったかしら?」
「……!!」
その言葉に総司は絶句する。その表情の変化に、他二人は総司とスクリタの間になにかがあることを理解した。
呻くように総司は言う。
「……スクリタさん……、これはなんの冗談……」
「魔王様!! 気をしっかり持て!! コイツが何者かは理解しておろう!!」
プリメラの叱責が総司に飛ぶ。総司は苦しげに……、哀しげに目を瞑った。
「……そこの黒猫さんは、正しく理解できているようね?」
「貴様……、幻竜八姫将とか言う連中の一人か……」
そのプリメラの言葉に、薄く笑ってスクリタは言う。
「……ああ、さっきはごめんね【暴炎のマナス】の馬鹿がいらないことをしちゃって……」
「は……、貴様……、貴様もそう変わらんだろう? そうして仲間の名前を口走るとは……」
その言葉に少し驚いた表情を浮かべるスクリタ。そして再び笑顔に戻って言ったのである。
「え? まさか……、その情報を持ち帰ることが出来ると思ってるの?」
そう言ってプリメラを見下ろし嘲笑する。それを見てプリメラは目を細めて彼女を睨み――、その姿勢を一瞬低くしてから奔った。
スクリタが静かに見つめる前で、プリメラはその竜頭巨大人型機械【機竜】の身体を足場にして、そしてスクリタが腰掛けるその場に到達する。
「……その機械も、使役者を失えば終わりであろう!!」
そう言ってプリメラは容赦なくスクリタへと刃を振り下ろした。
それを、流石に見ていられない総司は目を瞑る。スクリタの方は静かに笑顔のままその斬撃が迫るのを待った。
「ええ……、そうね……、私を殺せたら【機竜】は終わり……。殺せたらね……」
その言葉がプリメラの耳に届き……。
ガキン!
その刃がスクリタに到達する遥か前で停止した。その光景にプリメラは驚きのまま叫ぶ。
「防御フィールド?! 貴様!!」
「無駄よ黒猫さん……。貴方の斬撃ではこの【機竜】の防御領域を突破できないわ……。プリメラ……だっけ?」
「――!!」
その言葉を聞いてプリメラは理解する。
眼の前のこの娘は――、幻竜八姫将であるコイツは、以前に聴いた二人とは違うのだと。
――こちらの戦力を知ったうえで――、明確に勝てると理解してこの場に現れたのだと。
――だから通信手段を始めに奪ったのだと。
地面に着地してからプリメラは、前方にある全長十二メートルの巨体【機竜】の肩に腰掛けるスクリタを睨む。
プリメラは先程手加減をしたつもりはない。すなわち――。
――自身の斬撃がこの【機竜】には通用せず、それ故にその操者であるスクリタを先に始末することも不可能であると――。
この場に居る全員、この【機竜】の防御領域を突破するすべを持たないと――、
――万が一を超える最悪があったのだと、プリメラは後悔の中で正しく理解した。
「さて……、戦いを始めましょうか? まあ一方的になるかも知れないけれど……、もちろん貴方を侮ったりしないわ……、この中で最強の黒猫さん」
その表情が、それまでの嘲笑から、静かな――、そして真剣なものへと変化する。
【機竜】の全身から黄金粒子の奔流が吹き出し……、そして彼女は静かに言った。
「我が名は……」
――……。
「幻竜八姫将……、生誕のサーガラ――。……同士たちからは……、少し不本意だけど【決戦兵器】扱いされているわ……」
かくして――、プリメラの長い人生において、最悪とも言える戦いが始まる。




