おまけ 異世界で子どもをつくる方法 後編
後編として続きを追加しました。
あれから・・・私とサイモンさんは暫く考えたテイにして・・・数週間後にノルムさんに子供を作りたいとお願いする事にした。
◇
「ノルム先輩、先輩が考えた方法で、子供をつくりたいと思います。」
夕食敷サイモンさんがそう切り出すと、ノルムさんは頷いた。
「分かった。では、準備をはじめよう。・・・チサも、本当にいいんだな?・・・一番大変なのはチサなのだから、一番チサの意見が重要だ。」
「・・・はい。よろしくお願いします。」
私も力強く頷く。
「ところで・・・あの、ノルム先輩・・・。そうすると、どちらが赤ちゃんの生物学的な母親になるかなのですが・・・。」
「だから、母は私だろ?・・・生殖細胞はデリケートだから保存が難しいんだ。薬草を保管するのとは訳が違う。それに私たちの大切な子供の元になる部分だ。ウッカリは絶対に許されない。サイモンの魔力量で、それを1ヶ月間、24時間体制で繊細なコントロールをしながら保管し続けるのは難しいだろう?」
「そ、そうですが・・・。なんかそれだと、先輩ばかりに負担をかけるようで・・・。」
「ん???・・・サイモン???一番負担がかかるのはチサだろ???・・・子供を産むんだぞ???」
「それはもちろんですけど、なんか僕が一番楽というか、それでいいのかな・・・って。」
サイモンさんが申し訳なさそうに言うが、ノルムさんは意味が分からないらしく、混乱した顔で私を見つめてきた。
「ノルムさん、サイモンさんは自分の赤ちゃんを授かるのに、殆どする事がなくて、何かしたいんだと思いますよ。」
「ああ、そういう事か・・・。じゃあ少し考えておこう。・・・だがな、サイモン。私は母役をサイモンに譲る気はない。これはある意味、私の尊厳的なものでもあるからな。」
尊厳???
どういう意味???
・・・思わずサイモンさんと顔を見合わせる。
どう考えても1ヶ月間もビンに溜め込んだり、男なのに母役になるとか、尊厳という意味では、そっちの方がないような・・・?
「あのー・・・先輩、意味がわかりません。」
「あのな、昔、サイモンはチサに男として選ばれたのは僕だと私にドヤった事があったろ?」
「う、うーーーん???あったような気もします・・・。」
「あったんだ!!!私は覚えているからな?!絶対に忘れない!!!それでその時、私は男としてはサイモンに負けたのかも知れないなと思ったのだ。・・・もう一度言う。男としては、だ。それ以外で凡庸なサイモンに負ける要素は一つもない!」
「・・・は、はあ。」
「つまりだ!!!私は女としてはまだ負けていないと思うのだ。チサは男のサイモンが好きなのだ。しかし、女のサイモンを好きかどうかは分からない。ならば、女なら選ばれたのは私かも知れない。いや、私だ!!!・・・だからこそ私が母役をやる!つまり、これで私の尊敬と矜持は保たれるって訳だ。」
「・・・えええ。」
「うわわ・・・。」
なんというか、またしても見事なまでのノルムさん理論だ・・・。
そんな事を考えていると、ノルムさんは「ま、1ヶ月後を楽しみにしておくんだな!」と言って、食事を終わらせた。
◇
そして・・・。
「知佐都、今日で1ヶ月だね。」
夕食に向かう前に夫婦の私室でサイモンさんがそう言ってきた。
「うん。上手くいってるのかな?」
「まあ先輩の事だから、何も言ってこないって事は順調なんじゃないの?・・・ある意味、ここからが本番かもだけど、知佐都はさ、本当にいいの?」
「それは・・・。あのね、1ヶ月間ね、すごく考えたの。ほら、私がギリギリでやっぱり嫌だって言っても、サイモンさんもノルムさんも怒ったりはしないと思うし。」
「うん。・・・先輩は顔を顰めるかもだけどね。」
サイモンさんはそう言って苦笑いする。
あはは、確かに。
土壇場でヤダって言ったらノルムさん、すごく仏頂面しそう。
「だけど・・・私が嫌って言ったら、ノルムさんは絶対に強制しないよね。」
「ああ、そうだね・・・。」
「だからさ、私ねギリギリまで悩めるなって思ってたの。・・・思ってたんだけど・・・ね。」
「・・・?」
「私・・・この1ヶ月・・・恐ろしい事に、その事については全然悩まなかったんだ。早く今日にならないかなって、すごく待ち遠しくて。むしろ不安で考えちゃったのは、赤ちゃんは、ちゃんと育ってくれるかなって、そっちの方なんだよ。・・・なんか、おかしいよね。」
私がそう言ってヘラッと笑うと、サイモンさんが抱き寄せてくれた。
「知佐都、おかしいとしたら僕もだ。僕も知佐都や先輩に負担をかけるばっかりなのに、すごく楽しみにしていた。・・・きっと頭のネジが外れてる。そして、それは先輩もだ。・・・まあ先輩の場合、言うまでもないけれど。俺たちは、みんなおかしい。だから結構、お似合いの家族なんだと思うよ。」
「・・・そっか、そうかもね。」
「ああ、そうだ。・・・だからきっと幸せになれる。・・・さ、そろそろ食堂に行こう。先輩がお待ちかねだ。」
サイモンさんはそう言って、食堂までずっと手を握っていてくれた。
◇
食堂にやって来ると、美女がいた。
美女って言っても、ただの美女ではない。絶世の美女だ。
絶世の美女がドレスを着て、いつもノルムさんが座る席に優雅に座っている。
「「・・・。」」
「何、入口に突っ立ってるんだ?・・・食事にするぞ。」
美女とは声まで美しいらしい。
口調がノルムさんみたいななのが残念だけど・・・って・・・。
えっ???
「ノルムさん?」
「ノルム先輩?」
サイモンさんと同時にそう尋ねると、美女は妖艶に笑った。
「そうだ。女性に見せる魔術だ。・・・女に見えているか?」
ま、魔法か!!!
そういえば、そういう魔法があるってサイモンさんが言ってましたね!!!
「す、すごいですね先輩。・・・てかそのドレス、どうしたんですか?ドレスは魔術じゃないですよね?」
「ああ、そうだ。・・・このドレスはシャルロッテに頼んで私でも着れるサイズを買ってきてもらったんだ。着付けはクレアがやってくれた。」
・・・。
クレアに着付けを頼んだのは良しとして・・・王妃様をパシリに使うのはいかがなもんなんでしょうか・・・。
「えっと・・・なんで女装を?」
「なんでとはなんだ!・・・今夜で1ヶ月だろう?つまりこれは、ノルム〜母の姿〜って奴だ。」
・・・。
・・・。
「ええっと・・・ノルムさん、すごく綺麗です!」
私はとりあえず見たまでの事を言った。
「知佐都、当たり前だ。この魔術は元の容姿が反映されるのだからな。・・・サイモンなんかだと女性になっても冴えない感じにしかならないが、私は美形だからな。」
「はいはい、先輩は顔だけは良いですもんね。」
「そうだ!私は顔だけはすごく良いんだ!」
・・・うわぁ。
サイモンさんに乗せられて、自分で顔だけって言っちゃったよ・・・。
「先輩って、そういうとこが可愛いなって僕は思いますよ。」
「おおっ!!!そうか、それは良かった!!!・・・私の美貌にサイモンはメロメロって事だな。」
いやいやノルムさん・・・そういう意味の「可愛い」じゃないと思う。
「では、本題に入ろう。・・・さっきも言ったように、今日で1か月が過ぎた・・・。」
「「は、はい!」」
いよいよ・・・なのだ。
私とサイモンさんは緊張の面持ちで頷く。
「なので・・・。食事の後に、レッツ、子づくりタイム!!!スタートだ!」
えっと・・・。
言い方・・・。
私とサイモンさんは引き攣った笑顔で顔を見合わせた。
◇
「では、まずは手順を説明する!」
ノルムさんの部屋にやってくると、ノルムさんは私たちをソファーに座るよう促した。そして、奥から移動式の黒板をガラガラと運んでくると、そこにチョークで『作製手順』と書き殴った。
どうやら、ノルムさんの子づくりタイムは、講義から始まるらしい。
「まず、初めに私の生殖細胞を女性型に変換させる。実はこれはもう済んでいて、成功を確認済みだ。今は女性型の状態で奥の部屋に保管してある。」
カツカツとそこまでの手順と、必要とした魔術一式をノルムさんが黒板に書いてゆき、サイモンさんは感心したように頷きながらノートをとり始めた。
ある意味、息ピッタリなんだよね、この二人・・・。
「素晴らしいです、先輩。」
「ああ、私は素晴らしいだろ?・・・後はサイモンから生殖細胞を受け取り、受精卵を作製して、チサの腹にそれを転移させるかたちになる。そこで必要になるが次の術式たちだ・・・。」
「先輩、この場合、こうした方が良くないですか?それと最後の転移の部分ではかなりの魔力を消費しますし、この辺りの術は僕の方でアシストします。」
「そうだな・・・。合わせられるか?」
「何年先輩と組んでると思ってるんですか?」
サイモンさんもチョークを握り、黒板に書き込みながら2人はどんどん話を詰めていった。
「よし、では始めよう。・・・チサはここで待っていてくれ。行くぞ、サイモン。」
ノルムさんはそう言うと、サイモンさんの腕を掴んだ。
「え?・・・あ、はい?」
「なんだ?」
「試験管を・・・。僕、自分の部屋で取ってきますんで。短時間なら僕も魔術でちゃんと保管できますし。」
「馬鹿者。・・・何で私が女の格好をしていると思っているんだ?・・・手伝ってやる。」
「は?」
「え?」
サイモンさんの顔からサッと血の気が引いた。
「いっ、嫌ですよ!美女だって、中身は先輩じゃないですか!なに考えてんですか?!?!」
サイモンさんは焦って私の背後に隠れるようにしがみついた。
「・・・チサ、サイモンを渡せ。おい、サイモン!お前も何か役に立ちたかったんだろ?!なら手伝わせろっ!!!・・・さっき私を可愛と言ったではないか?!」
「ノ、ノルムさん???」
鬼気迫るノルムさんの表情に、私も呆気に取られてしまう。
「私はベストを尽くしたいんだ。来い。」
「嫌ですっ!先輩!!!相変わらず意味がわかりません!!!なんで先輩が僕を手伝うのがベストなんですか?!ちょっと、マジで無理ですから!」
私の背後からサイモンさんが悲痛な声を上げた。
「私はな、神はイマイチ信じていないが、愛は信じている。」
「「は・・・?」」
「愛は力をくれる。・・・前に魔王の討伐に行った時、3日で終わっただろう?あれは皆の愛する者の元に早く帰りたいという強い気持ちが起こした奇跡だ。・・・愛は奇跡を起こす。神よりも確実に。」
「・・・。」
「・・・。」
話はわかるけど、意味がわからない。
「先輩・・・それと先輩が僕を手篭めにしようとするの、どう関係しているのでしょうか・・・?」
「・・・サイモンはチサを愛しているだろ?チサもサイモンを愛している。」
「ええ、それは勿論。」
「一方で、私はチサを愛しているし、チサも私を愛している。何せ運命の相手だからな!・・・だが、サイモン。私とサイモンの関係は希薄だ。お互いに愛が薄い。・・・つまり、私たちが愛し合い、関係を強化する事で、成功率がさらに上がるはずなんだ!・・・なぜなら、愛は奇跡を起こすから!!!」
・・・え、えっと?!?!
色々と突っ込みたいが、突っ込めない。
戸惑っていると、難しい顔をしたサイモンさんがスッと前に出た。
「先輩、あの・・・なんか僕、ムッとしました。」
「・・・何故だ。」
「僕は先輩の事、好きですよ。だけど先輩は違ったんですね。・・・どーしようもなく変わってますけど、周りからよく付き合ってけるなって言われますけれど、僕、先輩の才能だけじゃなく、ヘンテコな部分も含めてすごく好き、なんですよ。じゃなきゃ、長年一緒になんか居ませんよ。こんな疲れる人と。・・・先輩との子供をつくるって話しが出た時、何故かそんな嫌じゃなくて、ハッキリ言って嫌じゃない自分が嫌になりました。だけど僕、先輩とだから子供つくってもいいって思ったんです。知佐都以外でそう思えるのは、気色悪い事に先輩だけなんです。・・・コレ、愛かも知れません。すこく認めたくないですけど。現に、関係が希薄って言われてムカついてるし、ホントそうなのかも・・・なんか吐きそうですけど!」
サイモンさんの苦虫を噛み潰したような顔で語られる愛???の告白にノルムさんは固まった。・・・ちなみに私も。
「わ、私だって・・・サイモンは・・・嫌いではない。」
「あーそうですか。所詮僕は嫌いじゃない程度ですか・・・。他の奴らと一緒ですね。」
「ち、違う!!!サイモンは違う。他の奴らと同じように、平凡でつまらなくて凡庸だが・・・サ、サイモンは特別だ。その、平凡さも含めて、私は気に入っている。」
「はいはい。気入ってる、ですか。お気に入りの量産品のペン程度に、僕にも愛着がありましたか。」
「い、いや・・・!そんなんじゃない!!!ペンとサイモンは違う。・・・サイモンになら、チサを譲れると思ったし・・・平凡でもお前との子供なら・・・いいかと思ったくらいは・・・サイモンの事がその・・・・・・・・・・・・・・・す・・・好きだ。」
・・・。
あの、ノルムさんが・・・消え入るような声でだけど、好きって言った。・・・しかも顔だけでなく、耳まで赤い。
てか、なにこのやり取り・・・カップルなの?!
思わずサイモンの方を振り向くと、サイモンさんはノルムさんを見つめ、にこーっと良い笑顔で笑った。
「じゃ、僕らにも愛があるって事で、手伝いは不要です。では、ちょっと行ってきますね!あ、先輩、準備しといて下さいね。」
サイモンさんは試験管を片手に、部屋からササッと出て行ってしまった。
・・・。
・・・。
・・・。
「チサ。」
「何でしょう、ノルムさん。」
「サイモンはヤバい。」
「はい。なんとなく知っています。」
考えてみると、サイモンさんって凄いのだ。
あの他人に無関心なノルムさんの懐に昔から入り込んでいて、ノルムさんの運命の相手?らしかった私を奪って、だけど、さほど険悪にもならないで、今でもノルムさんの側に居て……その上、今しがたノルムさんを盛大に動揺させ、愛の告白までさせてしまった。
・・・。
今までは、こんなヘンテコな家族ごっこ?ができるのは、ノルムさんが変わってるからだと思ってたけど・・・サイモンさんが規格外のタラシなのでは???
「・・・子供、男の子だといいな。」
「何でですか?」
「考えてもみろ、見た目が私で中身がサイモンの女の子なんて生まれてきた暁には・・・『魔性の女』ってのになってしまう。親としては将来が心配でならない・・・。」
確かに・・・そうかも知れない。
子どもが授かるとこまでいきませんでした・・・。




