14.異世界の王子様
「はじめまして、チサちゃん。」
そう言って、眩しい笑顔をくれたのは、ウィリアム・スカラーさん・・・この国の王子様、だそうだ。
輝く金色の髪に、澄んだ紫色の目の、素晴らしいイケメンさんで、王子様らしい王子様だ。
「は、はじめまして、ウィリアム様。」
「チサ、『様』でなく『殿下』だ。」
ノルムさんから素早く鋭い訂正が入る。
・・・し、しまった。もっとマナーとかもサイモンさんに教えてもらっておくべきだった。王子様だから、失礼が無いように『様』って付けたら良いかなって思ったけど・・・違うんだ・・・。
思わず項垂れる。
王子様は『失礼だ!』とお怒りになるのだろうか・・・?
「チサちゃん、大丈夫だよ。君たちは『落ち人』だから、この世界の常識に、そんなに捉われる必要なんて無いんだ。・・・ちゃんと、『様』って付けてくれたし、失礼が無いようにって、考えてくれてたんだよね?」
王子様は慈しむように優しく言って笑いかけてくれる。
・・・思わず、涙が滲みそうになってしまい、慌てて目を見開き、ペコリと頭を下げた。
「ですが、殿下、そうやって甘やかして苦労するのはチサです。・・・早いうちに、こちらの常識やマナーをある程度は覚えさせないと。」
ノルムさんは通常運行だ。
「あのさ・・・。ノルムがそんなんだから、君たち、拗れちゃったんじゃない?・・・前代未聞だよ、『落ち人』を絶望させる『終末の魔道士』なんて。・・・普通は、『落ち人』が悲しむ事は『終末の魔道士』にとっては、身を切るより辛い事なんだ。・・・なのに自ら追い詰めに行くとか、信じられないよ。」
王子様は皮肉めいた笑みを浮かべて、ノルムさんを見つめる。
「別に、私はチサを追い詰めたりはしていない!・・・私は私なりにチサの事を思ってやっている!・・・チサが絶望しているのも知って、こうして殿下達に会いに来たりしているでは無いですか。・・・恥を忍んで、他の『落ち人』に会わせて欲しいと連絡を入れた。・・・私はとても頑張っている!」
・・・。
そ、そうなの・・・?
「・・・まあね、普通は他の『終末の魔道士』の『落ち人』に会いたいなんて言うのは、マナー違反もいいとこだからね。・・・みんな自分のパートナーをとても大切にしているし、普通は他の『終末の魔道士』の魔力なんか流されたくないからなぁ・・・。」
「あ、あの・・・他の『終末の魔道士』さんの魔力が流れてくるのって、まずいんですか?」
思わず、反射的に王子様に聞いてしまう。
王子様は『終末の魔道士』だ。・・・意識してなくても、こうしているだけで、私には王子様の余剰魔力が流れてきてしまっているのでは無いだろうか?
・・・パートナー以外の余剰魔力が流れると身体に悪かったりするのだろうか???
「あ、ごめんね、チサちゃん。不安にさせちゃったかな。・・・『運命の相手』で無い『終末の魔道士』は、どうしたって救えないようになっているんだよ。だから、違う『終末の魔道士』の余剰魔力を吸うと、『落ち人』はかなり消耗するし、体調を崩したり、弱ってしまう事があるんだ。」
「え・・・そ、そんな・・・。」
怯えた顔でそう聞くと、王子様は笑った。
「大丈夫。隣の部屋に僕の『落ち人』がいるからね。チサちゃんには、僕の余剰魔力はほとんど流れていってないはずだよ?・・・だけど、あまり長くこうしているのは良くないかもね。ジンワリとは流れていってるはずだから。・・・もちろん同郷の『落ち人』に会う事で、自分の大切なパートナーが傷つくのも見たくないしね。だから普通なら『終末の魔道士』が別の『終末の魔道士』の『落ち人』に会わせろなんて言うのは、非常識な事なんだよ。自分の大切な生命線であり、パートナーでもある『落ち人』を精神的にも肉体的にも傷つける可能性があるからね。」
「ああ、だが、私は非常識を承知で、各方面へ願い出た。・・・すべてチサの為だ。」
なんだか偉そうにノルムさんは言っているが・・・これって、私にもダメージがあるのでは無いだろうか・・・。
思わず、ノルムさんを伺うと、「どうした?」と聞かれてしまい、慌てて首を振る。
「うーん・・・チサちゃんとノルムって、拗れそうな組み合わせ、だね。・・・仕方ないっちゃ、仕方ないのかな?」
王子様に苦笑混じりにそう言われ、俯いてしまう。
・・・確かに、感情の機微に疎いノルムさんに、言いたい事が言えずに黙ってしまう私という組み合わせは、イマイチなのかも知れない。
「それでも、殿下はこうして機会を作ってくれた!」
「まーね。・・・でも、いくら僕とノルムが幼馴染で同窓生でもさ、本当は嫌だったよ。・・・だけどさ、ダイキに頼まれたから、仕方なくね。・・・あ、ダイキって言うのが、僕の『落ち人』だよ。ダイキはさ、チサちゃんの名前を聞いて、『絶望しているなら、多分、同郷だと思うから、どうしても力になってあげたい。』って・・・。せがまれちゃったから、仕方なく、だね。」
・・・ダイキ・・・。
確かに、日本人の名前っぽい・・・!
思わず顔を上げて、王子様を期待のこもった目で見つめる。
「あ、チサちゃんも、名前で分かるの?・・・ふーん。やっぱり同郷なのかな?・・・あの、だけど会う前にお願いがある。・・・ダイキはこちらに来た時、まだ16歳だったんだ。それもあって、すごく不安定でね・・・。向こうの世界では、16歳だとまだ親元で過ごす事が多いんだろ?・・・ここまで来るのに5年かかっている。・・・今回、チサちゃんと会って不安定になってしまっても、僕はダイキをもちろん見捨てる気はないよ。・・・だけどね、二度と君たちには会わせない。そこは理解して。・・・いいね?」
王子様は、にこやかにそう言ったけど、その目は決して笑っていなかった。・・・ダイキさんを悲しませる者は、何があっても排除したいと言う、強い気持ちが見てとれて・・・私は隣のノルムさんを、チラリと伺うしか出来なかった。




