Ⅱ
五時限目以降も、いつもの授業、いつもの仲間、変わらない日常が続き、放課後となった。
部活にも所属していない僕は、同じく部活に所属していない碧人と共に帰宅する。
彩歌はクラスの人に連れられ、部活見学をするようだ。
終わるまで待とうかとも思ったのだが、時間かかるし、案内してもらう子と一緒に帰るから先に帰ってもいいと彩歌に言われたため、こうして二人――いや、麻衣も合わせて三人か、三人で談笑しながら帰ってるわけだ。
やがて碧人と帰路が異なり、挨拶を交わし、二手に別れる。
「新太く~ん」
背後から声をかけられ、振り向くと、碧人がこちらに向かって叫んでいた。
「この後少しお話したいので~、今晩電話しますね~」
気になること? なんだろうか。
そもそも、話すのならば電話じゃなくて今話せばいいのではないか。
そう言おうとすると、碧人はお辞儀をした後、振り返り、そのまま走り去ってしまった。
一体何なのだろうか。
「ケータイ鳴ってるぞ~アニキ~。碧人君じゃないか?」
家に着いていつも通り入浴した僕が自室へ戻ると、風呂上がりを狙いすましたかのように携帯電話が鳴った。
液晶画面を見ると、やはり碧人の名前が映っていた。
「碧人? なんか用事があるのか」
「いえいえ~、用事というよりちょっときになることがありましてですね~……」
――ちょっとお兄さん……
「気になること? なんだ?」
――お兄さん、お兄さん、無視しないで……
「いや~、僕が気になるというより~、新太クンが気になることかもしれないですけどね~」
――ねえねえ、もしかして聞こえてないの~?
「僕が? なんだそれ。ってか、ちょっと待って」
さっきから背後が騒がしい。
麻衣が話しかけているのかと思い後ろを振り返った。
「あ、やっと気づいてくれた。こんばんわ」
目の前にいたのは見知らぬ女性だった。
さらにはその女性、足がない。
ない││というか、消えている。
いわゆる、幽霊と呼ばれるもの種類のもののようだった。
「……お……い……、おーい、アニキー。おきろー。」
麻衣に呼びかけられ、目覚める。どうやら気絶でもしていたようだ。
ん? どうして気絶なんてしてたんだろうか。
自分の右手を確認すると、携帯電話が握られていた。
確か、碧人と電話をしてて…………あれ?
いまいちはっきりとは思い出せない。
麻衣にも聞いてみる。
「さぁ? 知らないぞ。アニキが碧人君との電話中にいきなり『ギャーー!』とか騒ぎ出してぶっ倒れたんだけど……」
その理由は分からない、と続けて話す。
碧人に何か言われたんだっけか。
電話もいつの間にか切れていた。
「あ、それはアタシが碧人君に理由を話して切っといたんだぜ。碧人君も困るだろうしな。電話越しにアニキの騒ぎ声聞いたみたいだから『あ……う……ん……』とかしか話せてなかったけどな」
……ちょっと悪いことしたな。
いや、非はあっち側にあるかもしれないから、そう思うのは一旦保留しておこう。
「アニキが起きたらまた電話するように言うって、碧人君に言ったから掛け直した方がいいぞ。それと、驚くにしても近所迷惑になるんだから声のボリューム下げろよ」
「そんなこと言ってもだな……」
第一、なんで驚いたのか思い出せないし……
文句なら倒れる前の僕に言ってくれ。
麻衣にそう促し、碧人にもう一度電話をする。
二、三回コールした後、碧人が電話に出た。
「もしもし、さっきはごめんな……で、いいのか?」
「いえいえ~、むしろ謝るのは僕かもしれません」
「ん? どういう意味だ」
「あんな風になることは予想の範疇でしたからね~。それを見越した上で電話しましたから~。変なもの見させてしまった僕が悪いです~」
――変なものとは、碧人さんは失礼ですね!
「変なものって?」
「あ~、今新太君の近くにいると思いますね~。幽霊ですよ」
「幽……霊……?」
そのキーワードを聞き、思い出す。
そうだ、さっき僕は倒れる前、幽霊を見た。
その幽霊が僕の隣にいた。
「うわっ!」
「もう! 二度も驚かないで下さいよ。傷付くじゃないですか」
幽霊は女の人のものだった。
顔立ちはとても綺麗で見惚れてしまうほどだった。
パッと見て、普通の人と変わらない格好だった。
服装も、死装束ではなく洋服を着ている。
ただ一点だけを除いて僕らと変わらない人間だった。
その一点とは、足がない、というものだが。
「あ~、見つけましたか~? それじゃあ、お悩み聞いてあげて下さ~い。あ、通話は切っちゃダメですよ~」
「あ、おい碧人! 待てよ!」
ガタッ、という音が聞こえた。どうやらケータイを机がどこかに置いたようだ。
お悩みって……幽霊のお悩み解決しろってかぁ~?