Ⅲ
翌日、土曜日。わが校は土曜日は休日扱いとなる。
例によって三人で彩歌家の前にいる。
「もう完璧だ。何も怖くない」
「死亡フラグビンビンだけどな」
いや、きっと大丈夫だ。もう一つ調べてきたし。ネットで。
「バカの一つ覚えってやつですね~」
「なんか夜中に調べてたよな……今度はなんだよ……」
『スマイル作戦』
「失敗する未来しか見えない」
(前略)女の子は笑顔をされると満足(以下略)
「もはや何もされなかったんだけど……」
「「……」」
アイエエエ!? ナンデ!? ミンナムシスルナンデ!?
「あのさ、アニキ」
おぉ! どうした妹よ。
「……彩香ちゃんを満足させるって、そういうことじゃないだろ。彩歌ちゃんが本当に望んでいること、もっとちゃんと考えてあげろよ。そんな、表面だけじゃなくてさ」
……。
「いつもの新太君らしくすればいいんですよ~。そんな、ネット知識なんか使わないで~」
そんなこと言ってもな……実際どうすればいいのかが……。
「素直にアニキが彩歌ちゃんにしてあげたいことしたらどうだ? アニキがほんとうにしてあげたいことなら、彩歌ちゃんはそれに応えてくれると思うぞ」
……そうかな。うん。
「ありがとう、麻衣。助けてくれて」
頭をなでてやる。指で。
「うん! がんばれ、アニキ!」
数日ぶりに麻衣の満面の笑みを見る。はにかみながら、自分の指で頬を擦っている麻衣。
……やってみるか。
「彩歌」
インターホンを押して、名を呼ぶ。
「ちょっと外まで出てきてもらえるか?」
「……」
応答の声はなかった。
だが、しばらく待つと玄関扉が開き、先程の作戦時と同様、私服姿の彩歌が現れた。
全体的にピンクでまとめられ、袖にフリルがついているワンピース。何ともかわいらしい服装で、彩歌に似合っている。
「……なに?」
ものすごく警戒され、眼光も鋭い。一瞬ひるみそうになるが何とか堪え、次の言葉を出す。
「一緒にアイスでも食べに行こう」
「はぁ?」
怪訝な表情を浮かべる彩歌。
「いいからいいから、さあ行こう。」
彩歌の手を握り、走り出した。
「あ……え、ちょっと!」
という声も聞こえたが、聞こえないふりをして無理やりにでも連れていく。
この話が始まってから三度目のいつものアイス屋。おっと、メタ発言でした。いやぁ、失敬失敬。
「はい」
ベンチに座らせ待たせていた彩歌に買ってきたアイスの片方を渡す。
どうも、と言い財布を取り出そうとする彩歌に制止をかけた。
「今日は僕が誘ったからさ。奢るよ」
「そんな、悪いよ……」
いいからいいから、となだめ、それから他愛もない話をする。
「どうだ、新しい学校には慣れたか?」
「慣れたって……まだ数えるほどしか行ってないし……」
それはそうである。
「正直、この先不安なんだ。私、不器用だからさ。子供の時は深く考えないで人と付き合えたけど、少し大人になって、考えるようになって、どうしたらいいのかわかんなくなって……変に突っ張っちゃうんだ……」
少しうつむいた表情で語る彩歌。
「そんな感情を抱いているときに、今回の事件。私の勘違いで新太達に迷惑かけて、私倒れちゃって……自業自得だよね、笑っちゃう。いろんな人と触れ合える時間を自らの手で短くして、居場所を無くして……今度学校に行ったとき、私、独りぼっちになっちゃうかもしれないって思うようになった」
言葉を発する度に弱気になっていく。もともと小柄だった体が、さらに小さくなっているのがわかる。
「ねぇ、なんで? こんなバカな奴、ほっといていいのに。どうしてまだ一緒にいようと思うの?」
もう少女の目には涙が溜まっていた。今にも溢れ出しそうになっているが、流すまいと必死に堪えている。
「なんだ、そんなことか」
「え?」
「ホント、バカだなお前は」
これが僕の答え。僕の素直な言葉だ。
本当は、もっと早く、ゆっくり話をしてあげるべきだった。
地元に戻ってきて、思うところがないはずがない。大人になって、心の成長というものが少なからず、誰にでもあるのだ。自分が思っていること、曝け出させてあげるべきだったんだ。
僕にはそれをする義務があったんだ。
今の僕と碧人が気を使っているとか、彩歌は言っていた。だけどそれは、彩歌も同じじゃないか。僕達を心配させまいと、今の今まで本音を喋ろうとしなかっただろ。
だから僕には、彩歌が素直を吐き出せる場所を用意する必要があった。僕がその準備を怠ったからこの事件は起こったんだ。そう思う。
なぜか? 決まっている?
「付き合ってた記憶が消されたって、僕がお前に対する気持ちは消えないんだ」
「――!」
当たり前だ。消せるわけないだろ。
「……って……ちゃんと……言って」
迷わず、言う。
「僕は彩歌が好きだ。誰よりも」
「……うん。ありがとう……私も……好きだよ」
泣きながら、でも笑顔で言ってくれた。




