第96話 ハーレムの基本編④ 王女のお弁当
私は勇者への愛の証として、彼に手作りのお弁当を渡したの。
・・・何故か、妙に警戒されたけど。
それでも彼は意を決し、私が作った卵焼きを口にしたわ。
「!??」
果たして、勇者の反応は!?
「う、美味い・・・だと?」
その一言を皮切りに、勇者は他の料理も次々と食べ始める。
「・・・うん。
普通に美味しいや。」
「それは良かったです。」
教育の一環として、私は料理の経験も積んでいるの。
だからそれなりに自信は合ったんだけど、それでもプロと比べたら劣るからね。
美味しいって言ってもらえるのは、素直に嬉しいわ。
そんな気持ちを抱いたまま、勇者を見つめていると・・・。
「!!
・・・。」
突然、顔を真っ赤にしながら私から目を背ける。
???
急にどうしたのかしら?
不思議に思いながら眺めていると、彼は何かを誤魔化すかのように口を開く。
「い、いや~・・・。
王女の事だから、塩と砂糖を間違えたりしてないか、不安だったんだ。
君ってしっかり者なのか、うっかり者なのか、よくわからないし。」
ひょっとして、お弁当の事?
「間違えて欲しかったのですか?」
「そんな訳ないじゃないか。
いくら女の子の手料理とは言え、やっぱり美味しい方が良いよ。」
デスヨネー。
「例の本にはですね。
塩と砂糖を間違えるような手料理でも、愛嬌として転移勇者に受け入れられる事が多い。
と、書かれていたのですよ。
けれど、わざと美味しくない料理を作るなんて、食べて下さる相手に失礼かなと。
食材を粗末に扱うのも、好ましくありませんしね。」
そもそもの話、よっぽど雑なやり方じゃなきゃ、塩と砂糖を間違えたりしないって。
仮に間違えたとしても味見をすれば、味が変かどうかくらいはわかるはず。
私個人の意見としては、不自然に下手糞な料理なんて絶対、わざとだと思うわ。
どういう意図があるかまではわからないけどね。
「デスヨネー。
王女に良識があって良かった。
・・・常識はないけど。」
微妙に酷い事を言いながらも、美味しそうにお弁当を食べてくれる勇者。
あっ!?
そうだわ!!
私は自分用の弁当を取り出し、お箸でウインナーを掴むと、勇者に近づけながら・・・。
「はいっ。
勇者様、あ~ん♪」
男と女はこ~やって、手料理を『あ~ん♪』しながら親睦を深めていくものだ。
って、例の本だけじゃなく、一般的な恋愛本にさえ書かれていたわ。
・・・ど~して『あ~ん♪』なんかで仲良くなれるかは、いくら考えても全然わからなかったけどね。
おそらく私には理解の及ばない何かがあるのでしょう。
多分。
「!!!!????
ゴホッ、ゴホッ。」
しかし私の『あ~ん♪』攻撃に勇者は盛大にむせ始めた。
あら?
「どどど、どうしたのさ、王女。
急に『あ~ん♪』なんて、心の準備が・・・。」
「・・・・・・。
そりゃそうですよね~。」
あまりに勇者が動揺するため、私は『あ~ん♪』を中断し、ウインナーを遠ざける。
「あれっ?
止めるの??
・・・まさか怒った?」
「いえいえ、違いますよ。
様々な書籍で手料理を『あ~ん♪』し合えば男女の仲は深まる、と書かれていたのですけどね。
しかしこんな赤ちゃんごっこで、親睦なんか深まるのかなと・・・。」
私個人としては、単に恥ずかしいだけの行為としか思えないもの。
聖女の言う通り、私ってやっぱ本の内容を鵜呑みにしすぎてるのかしらねぇ。
「・・・・・・。
ねえ、王女。
せっかくだから『あ~ん♪』を試してみない?
俺も恥ずかしがらないよう、努力するからさ。」
「ええっ!?
・・・ま、まあそれは構いませんが、ど~してまた急に。」
「本に書いてある事を試すのも大切だよ!!」
勇者ってどちらかと言えば、本の内容を鵜呑みにする事には否定的だったよ~な・・・。
別に恥ずかしいだけで、悪い事じゃないから、構わないけどさぁ。
「で・・・では、どうぞ。
勇者様、あ~ん♪」
私は改めて、箸に掴んだウインナーを勇者の口へと近づける。
「あ、あ~ん。」
今度は勇者も口へ近づけたウインナーを食べてくれた。
「・・・。」
「・・・。」
な、なんでしょう・・・。
このなんとも言えない間が、凄く恥ずかしいわ。
「じゃ、じゃあ今度は俺の番ね。
はい、王女。
あ~ん♪」
そう言いながら勇者はから揚げをお箸で掴み、私の口元まで近づけた。
「ええっ!?
あ、あ~ん。」
拒絶するのも失礼な気がしたので、素直にから揚げを口にし咀嚼する。
「・・・。」
「・・・。」
互いに無言のまま見つめ合う私と勇者。
「・・・なんか恥ずかしいね。」
「・・・そうですね。」
世の中の男女はこ~んな恥ずかしい事を喜んでやってるのかしら?
信じられない・・・。
私には信じられない!!
しばし困った気分に浸っていると、唐突に聖女が私のお弁当からから揚げを掴む。
あっ!?
聖女ったら、さっきまでは私と勇者のやり取りを呆れながら傍観してた癖に。
「もぐもぐ。
あ、テンイの言う通りね。
王女の手料理、結構美味しいわ。」
「って、こらっ!!
聖女・・・人の食事をつまみ食いするなんて、マナー違反よ。」
「い~じゃない、ちょっとくらい。
私とクロは携帯食なのに、あなた達だけ美味しい物を食べるなんてずるいわ。」
それを言われると、ちょっと痛いけれど。
でもこれはハーレム要員として、必要不可欠な行為だから。
「あ~!?
あたしも王女様の手料理、食べた~い!!」
そしてとっくに携帯食を食べ終わっていたクロまで騒ぎ出す始末。
こうも彼女が食い意地張ってるのは、食べ盛りだからか、聖女の影響なのか。
「・・・あなたまでそんな事言って。
もう食事は済ませたでしょ?
食べ過ぎは体に良くないわ。」
「食べたい、食べたい!!」
う・・・う~ん。
まあクロだけよけ者にするのも可哀想かしら。
「しょうがないわねぇ。
少しだけよ。
はい、あ~ん。」
クロの熱意に根負けし、私は卵焼きをお箸で掴んで彼女の口へと近づける。
「あ~ん♪
もぐもぐ・・・。
おいし~!!」
「はいはい。
ありがとう。」
クロのようなちっちゃい子に『あ~ん♪』する分には特に恥ずかしくないわね。
この後も聖女とクロに少しだけお弁当を分けつつ、私達は昼食を済ませた。
「今日はありがとう、王女。
お弁当、美味かったよ。」
「ど、どういたしまして・・・。」
・・・自分の手料理を褒められるのも悪い気がしないわね。
でも勇者を喜ばせて仲良くなるのが目的なのに、私が喜んでてい~のかしら?
自分でもよくわからない感情に振り回されつつも、勇者を愛するための努力を続けるのであった。




