第98話 ハーレムの基本編⑥ 本当に怖かった?
突如、ホブゴブリンやゴブリンキングに襲われるも、勇者や聖女の活躍で見事、勝利したの。
ホッとするのもそこそこに、今こそ例の本に記されていた秘技を使うチャンスだと気付いたわ。
「勇者様!!」
「王女!?」
まず最初に勇者に思いっきり抱き着く。
そんな私に彼は何が起こったのかも理解出来ず、戸惑っていた。
「あのような恐ろしい魔物を倒して頂き、ありがとうございました!!
・・・強がっていたけど私、本当は怖かったんです。」
「え?
え?」
「だって私一人の力じゃ、ホブゴブリンの一体すら倒せなかったですから。
凶悪なモンスターに殺されるかもしれない・・・。
ずっとそんな事ばかり考えてしまい内心、震えが止まりませんでした。」
私は瞳を潤ませながら、勇者に語り続ける。
「けれど、あなたのおかげで私の命は助かりました。
・・・ああ、なんて強くて頼もしいお方なのでしょう。
素敵です、勇者様。」
よしっ。
詰まる事なく、喋れたわ。
これぞ例の本の秘技『本当は怖かった→強くて頼もしい勇者様大好き♪』のコンビネーションよ。
相手を慕い、愛している事を伝えるための究極奥義なの。
表情の演技も抜かりないし、我ながら完璧だわ。
「・・・・・・・・・・・・。
あのねぇ、王女。
もういい加減、バレバレの嘘を付くのは止めようよ・・・。」
・・・と、思っていたのに、勇者は私の振る舞いを完全に嘘認定し、呆れ果てるばかりだったの。
え。
ええええええええ!!!!????
「ううう・・・。
嘘だなんてななな、何を根拠に・・・。」
「まあ、嘘よね。」
「うんっ。
あたしにも嘘ってわかる~。」
「・・・だよなぁ。」
しかも聖女はおろか、クロやゴブリン達に追い回されていた男性にさえ、嘘だと断定される。
お子様や、初対面の男性にすら!??
ナンデ?
ドウシテ??
「い、いやいや・・・。
か弱い女の子が恐ろしいモンスターに恐怖し、怯える。
それのどこがおかしいのです!?」
「ってか君、まだ自分の事をか弱い女の子だなんて、思ってるの!?
・・・あんなに容赦ない指示、出しておきながらさぁ。」
その台詞は女の子に向けて、使って良いものかしら?
確かに私は教育の一環として、戦闘訓練もある程度ながらこなしている。
でも勇者や聖女と比べたら、ライオンと子猫ほどの実力差があるのよ?
「大体、本当に怖がってたんならさ~。
な~んで、戦闘中に怖いですアピールしなかったの~?」
「何をバカな、聖女・・・。
戦闘中に『私、こわ~い♪』なんて態度、とっちゃダメでしょ?
皆に迷惑じゃない。」
「・・・まあ、そ~だけどさぁ。
あんたって、演技に夢中になると頭の回転がとことん鈍くなるわね~。」
例の本にも戦闘中に怖いアピールを行い、戦闘後に感謝アピールを行うように。
と、書かれていたわ。
けれど演技であれ、本心であれ、戦闘中に無闇に怖がって、周りの邪魔しちゃいけないと思うの。
むしろ本気で恐怖したとしても、冷静に振る舞わなければいけないわ。
でないと、仲間の足を引っ張ってしまい、危険に晒しかねないからね。
そう考えて、戦闘後に怖いアピールと感謝アピールを一気に行ったのに~・・・。
「・・・なあなあ。
あの子は一体、何がやりたいんだ?
もう全然、わかんねぇ。」
「理屈で考えちゃダメよ。
王女はあ~いう子だから・・・。」
「王女?
・・・ああ、あだ名か。
けどまるで本物の王女のように綺麗なのになぁ。
いろんな意味でもったいねぇ。」
側では聖女と初対面の男性が呆れ果てた様子で、コソコソ話を続けている。
「ねえ、王女。
別に無理して、振る舞いを変えようとしなくて良いんだよ?
今まで通りだとしても、俺は・・・。」
「いえ、いけません!!
今の私は自分の成すべき使命さえ、ロクに果たせていないのです。
・・・それではあなたの旅にお供する意味も。」
「・・・・・・。」
私の使命は、王である父から託された魔王討伐・・・ではない。
父のせいでこの世界へと連れ去られ、辛い思いをしている勇者を元の世界へ帰す事。
そして元の世界へ帰すまでの間、勇者が楽しく過ごせるよう、私は立派なハーレム要員を演じなければいけないの。
例の本に書いてある通り『転移勇者(♂)は自分の女仲間が魅力的なハーレム要員である事に至福の喜びを感じる』ものだから。
でも相手を慕い、愛する。
そんな簡単な事さえ出来ない私じゃ、勇者が楽しく過ごせるようになんか、とても・・・。
「な、なあ・・・。
お取込み中、悪いんだけどさ。
俺も一緒に町まで連れてってくれないか?
また魔物に襲われても安心だしさ。」
「あ、そだね。
・・・とりあえず王女、皆。
早く町へ向かおっか?」
「はい・・・。」
こうして私達は日が暮れる前に町へ辿り着く事が出来たの。
・・・しかし自分の役目さえまともに果たしていない。
そう思い知らされた私は悶々と悩み続けていた。
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あの後、町へ着いた私達はいつも通り、宿で一泊する事になったわ。
けれど私はず~っと自分の在り方に悩み続け、心が休まらなかったの。
悩む余り、夜になっても眠れなかったため、グースカ眠りこけてる聖女やクロを横目にそっと部屋から出る。
そして気が付いたら、宿のベランダから夜空を眺め続けていたわ。
はぁ。
ど~して私は『相手を慕い、愛する事』なんて、ハーレム要員にとって当たり前の事すら出来ないんだろう?
『愛する』だけなら、自分がその気になれば簡単だと・・・。
そう思っていたのに、どうして。
わからない。
わからないわ。
・・・そんな事もわからない私が、勇者への罪を償えるかしら。
容姿も実力も大した事がない、おまけに彼に恨まれているはずの私が・・・。
・・・。
・・・?
「キャッ!??」
「うおっ!?」
「勇者・・・様?
なんで突然、勇者様が私の隣に・・・。」
ウジウジと悩んでいたら、いつの間にか勇者が私の隣で同じように夜空を眺めていたの。
・・・い、いつの間に。
いくら勇者でも瞬間移動なんて、出来ないはずよ。
つまり。
「そっか。
これは夢なのね?
じゃなければ、いくら勇者でも何の前触れもなく、私の隣にいるはずないもの!!」
「いやいや。
君が物思いに耽り過ぎていて、気付か・・・・・・。
・・・嘘、嘘。これは夢、夢ダヨ?」
勇者もそう言うんだから、やっぱり夢だったのね。
夢の登場人物がこれは夢です、なんてアピールするのかなぁ、とは思うけど。
「今日の君がいつにも増して迷走した挙句、悩み果てちゃってたからさ。
別に気にする必要なんてないんだよ、って夢の中まで伝えに来たんだ。」
・・・な、なんて親切なのかしら。
夢の世界の勇者ったら。
でもね。
「気にしない訳にはいかないのよ。
だって私は誰よりも立派なハーレム要員として、振る舞わなければいけないもの。
あなたへの罪を償うためにも。」
夢の中だから構わないかと、敬語も使わずに話す。
聖女もクロも勇者に対し、償うべき罪なんて一つもない。
だから仮にハーレム要員として0点だったとしても、勇者が受け入れてるのであれば、極論問題はない。
だけど、私だけは違う。
償うべき罪があるから、勇者と旅を続けているもの。
「・・・。
ねえ、王女。」
「何?
勇者。」
「・・・正直に答えて欲しいんだ。
本当は俺と一緒に旅をするの、嫌だったの?」
え?