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290 テントの晩餐会

すみません、更新遅くなりましたあああm(_ _)m

 マンドレイクの叫び声が聞こえてきた瞬間、私は空中を飛んでいました。

 そのせいか、大テント内の状況がよくわかりました。


「オンギャァアアアア!!」


 マンドレイクの泣き声と共に、テント内にいるすべての人物がバタリと意識を失ったのです。


 酒を飲んでいた獣人たちは頭からテーブルに倒れ、食事を運んでいた獣耳族たちは地面に崩れ落ちました。

 魔女っこも、スン……と気を失って座り込んでいる。

 みんな、マンドレイクの声で気絶してしまったのです。


 この場で意識を(たも)っているのは、たったの三人。

 植物モンスターの私と、耳栓をしていた獣耳族のお姫様ことカッツェさん、そして最後の一人は意外なことに──獣鬼(じゅうき)マンタイガーでした。


 聖蜜漬けにしてキーリを食べようとしていた獣鬼マンタイガーは、口から血を流しながら苦悶の表情を浮かべています。

 一瞬、キーリが食べられちゃったのかと思ったけど、キーリの姿は獣鬼マンタイガーの手の中にいる。


 獣鬼マンタイガーは、鼓舞するように大きく口を開いて叫びます。

 そのせいで、千切れた舌が見えてしまいました。


「グアァアアア!!」


「もしかして、自分の舌を、噛み切ったの!?」


 マンドレイクの泣き声を耳にしたのに、なんで意識があるんだろうと思ったけど、まさか自分の舌を噛み切って意識を保とうとするなんてね。

 敵ながら、恐れ入ったよ。


 でも舌を噛み切ったのだから、このままだと血を流して倒れてしまうはず。

 そう思ったのだけど、獣鬼マンタイガーは蜜漬けキーリを口に放り込もうとしました。


「ゼイ……ミヅ……」


 キーリが食べられちゃう!

 こうしちゃいられないよ。


「間に、合え!」


「グァア!?」


 獣鬼マンタイガーの牙がキーリを捉えるその寸前──私の蔓が、キーリをつかみました。


「間に、合った!」


 蜜漬けになってヌメヌメになっているキーリの体は、蔓に引っ張られて獣鬼マンタイガーの手を滑るように流れます。

 無事にキーリを奪い取った私は、蔓を使って地面へと着地しました。


「キーリ、大丈夫!?」


「…………」


 どうやらキーリも、マンドレイクの声を聞いて気絶しちゃっているみたい。

 まあキーリが戦闘では役に立たないことはいつものことなので、あまり気にはしません。

 なにせ初めて出会ったときも、カエルに食べられていたくらいだしね。助けるのは慣れているのだ。



 当初の目的通りキーリを奪還したところで、視線を獣鬼マンタイガーへと戻します。

 すると彼は、手にこびりついている聖蜜をペロペロとなめていました。


「ハァ……ハァ……やはり聖蜜の回復力は凄まじいなァ」


 噛み切られていたはずの獣鬼マンタイガーの舌が、治ってる!


 なるほど、聖蜜を飲んで傷を癒やしたんだ。

 それで聖蜜漬けになっているキーリを食べようとしていたんだね。


 獣鬼マンタイガーが、ギロリと私を(にら)みます。

 魔王軍四天王であった獣王マルティコラスさんの兄なだけあって、姿がよく似ている。


 獣鬼マンタイガーは、マンティコアと呼ばれる種族の魔族です。

 目は濃い群青で、体は真っ赤な血の色をしている。

 人型の獅子のような姿で、背中にはコウモリのような黒い翼が生えており、サソリのような尾の先端には(とが)った針が突き出ていました。


 改めて見ても、獣王マルティコラスそっくり。

 でも違うのは、獣鬼マンタイガーのほうが顔がいかついこと。

 見るからに、凶悪そうな顔つきをしているよ。


「おい、そこの鉢植えの植物と……壁際でこそこそしているのはカッツェだな。お前たちがやったのかァ?」


「ニャニャッ!?」


 獣耳族のカッツェさんは、捕われになっていた獣耳族を助けようと、手を差し伸べている最中でした。

 あれは、獣人たちの餌にされそうになっていた子たちだね。

 やっぱりカッツェさんが私たちからマンドレイクを盗んだのは、獣人たちを気絶させて仲間を取り戻すのが目的だったんだ。


 その証拠に、大テントの外からシャム猫さんをはじめとした獣耳族たちがぞくぞくとテント内に流れ込んできました。

 大テントの宴会に獣人たちが集まった隙を狙って、マンドレイクで一網打尽にしようとしたんだね。


 獣耳族たちの一斉蜂起(いっせいほうき)

 仲間と自由のために、彼女たちは立ち上がったんだ。



「ニャーたちは、もうお前の言うことは聞かないニャ!」


「そうだにゃ」「もう奴隷のように(しいた)げられるのはこりごりだにゃ」「仲間を返すにゃ」「クーデターだにゃ!」


 カッツェさんに続いて、獣耳族たちが獣鬼マンタイガーへと突撃します。

 弱っている獣鬼マンタイガーを、この場で討ち取るつもりなんだ。


「下等な獣耳族ごときが、獣人に歯向かうとは良い度胸じゃねェかッ!」


「んにゃ!」「つよい、にゃ!」「というか、なんで気絶してないんだにゃ!?」


 武器を持った獣耳族たちは、獣鬼マンタイガーのサソリの尾によって()ぎ払われました。

 残った獣耳族も、次々と蹴とばされて行きます。


「弱い、弱いなァ! やはり獣耳族は召使(めしつか)いにするくらいにしか、役に立たない──」


「甘いニャン!」


 獣鬼マンタイガーの背後に、白色の獣耳族が回り込みます。

 私たちからマンドレイクを盗んだ張本人である、シャム猫さんです。

 盗賊(シーフ)として優秀な力量を持っている彼女は、背後から獣鬼マンタイガーへと奇襲をして、首元へとナイフを突き立てのだ。


「このまま死ぬがいいニャン!」


「ハッ。甘いのは貴様だッ!」


 獣鬼マンタイガーの首元に突き立てられたナイフが、ボキッと折れたのです。


「そ、そんにゃ……」


「ただのナイフじゃ、オレ様の肌を傷つけることすらできねえんだよォ!」


「んにゃっ!」


 シャム猫さんが、サソリの尾によって刺されます。

 そして私の前で、ボトリと落とされました。


 その様子を見たカッツェさんが、絶望したように呟きます。


「うそ……シャムも、みんなやられちゃったニャ…………」


 獣耳族も実力差はわかっていたはず。

 なにせ獣鬼マンタイガーは、魔王軍四天王であった獣鬼マルティコラスの兄なのだ。

 実力は四天王並といっても良い。


 それでもこのまま黙っていれば、獣耳族の仲間たちが獣鬼マンタイガーの餌食(えじき)になる。

 だからこそ、彼女たちは命がけで戦ったのだ。

 だけど獣鬼マンタイガーはマンドレイクの声で気絶しなかっただけでなく、聖蜜を飲んですぐに傷を癒やしてしまった。

 それが予想外だったんだろうね。


 私は目の前で倒れているシャム猫さんに、私の蜜を飲ませます。

 これで彼女が命を落とすことはないはず。


「カッツェ! オレ様を怒らせた罪を償ってもらわねぇとなッ!」


「ひぃっ!?」


「ただ殺すだけじゃ我慢でねェ。生きたまま手足を食いちぎって、最後は丸呑みにしてやるぜェ!」


 滅ぼした国の民をすべて食べてしまうほどの悪漢である獣鬼マンタイガーの所業は、かつて大陸を恐怖の底へと陥れた。


 この魔族だけは、放っておくわけにはいかない。

 もしも獣鬼マンタイガーを聖女イリス(わたし)の故郷エーデルワイスへと向かわせてしまえば、街が壊滅してしまう。

 故郷の人たちが、すべてこの魔族に()われてしまう。


 それだけは、絶対に阻止しないと!



 カッツェさんのもとへと行こうとする獣鬼マンタイガーへ、蔓を向けます。


「獣鬼マンタイガーさん。あなたの相手は、私がします」


「ハッ、小さな植物モンスターごときが、偉大な獣人であるこの獣鬼マンタイガー様に歯向かうとは、良い度胸じゃねェかッ!」


 獣鬼マンタイガーが、私に近付いてくる。

 よし。これでこれ以上、獣耳族が被害に遭うことはないはず。


「お前には妖精を奪われた恨みがある。さっさとその妖精をオレ様に寄越せッ!」


「キーリは、私の大切な、家族なの。あんたに、食べさせるつもりは、ありません」


「ならば、死ねェ!」


 獣鬼マンタイガーのサソリの尾が、鉢植えに向かって突き刺さる。

 でもその前に植物生成でガジュマルを生み出し、サソリの尾を握りつぶします。


「どういうことだ!? オレ様の尾よりも、硬い木だとッ!?」


 絞め殺しの木として有名なガジュマルによる圧迫は、いくら獣鬼マンタイガーの強度をもってしても耐えられなかったみたい。


 四天王である獣王マルティコラスと戦った時は半精霊だった私だけど、いまの私は精霊以上の力を持っている。

 魔女王キルケーや闇の女神ヘカテと比べたら、あなたなんて怖くもなんともないの。


 そのままガジュマルで獣鬼マンタイガーを、縛り上げます。


「オレ様よりも力があるなんて、信じられない……貴様、いったい何者だ!?」


 そういえば獣鬼マンタイガーは、まだ私が誰なのか気づいていないみたいだね。

 せっかくだし、きちんと自己紹介をしましょうか。

 私は蔓で花冠をつかんで、優雅にカーテシーをしながらお辞儀をします。


「私はアルラウネ。ただの森の、アルラウネです」


「アルラウネだと? ま、まさか、マルティコラスをやったっていう、あのアルラウネの森の紅花姫……?」


「獣王マルティコラスさんとは、いろいろと、仲良くさせて、いただきました」


「ウ、ウソだッ! 紅花姫アルラウネは、もっと巨大な植物だと聞いていたぞッ!」


「植物である、私は、大きさを自由に、操ることが、できるのですよ」


 栄養さえあれば、すぐに大きく育つからね。

 そして種に戻れば、また小さな姿に戻れる。

 植物であるアルラウネだからこそできる芸当なのだ。


「成長した私の姿を、お見せしても、良いのですが、あなたの実力であれば、この姿のままで十分、ですね」


「ぐッ……植物ごときが、オレ様に向かって舐めた口を叩くんじゃねえええッ!」


 獣鬼マンタイガーは口を大きく開き、口内に魔力を凝縮させていきます。

 この技、前に獣王マルティコラス戦で見たことがあるね。


獣王の咆哮ヴァーンズィンスタートで、跡形もなく消し飛ばしてやるぜッ!!」


 強大なエネルギーが、私に向かって発射されようとしている。


 このテント内には、給仕(きゅうじ)をしていた獣耳族が倒れたまま。

 それこそ後方では、魔女っこが気絶したままです。


 だからこんなところで大技を出されたら、周りに被害が及んでしまう。

 それだけは、防がないと!


 獣鬼マンタイガーが、さらに口を開く。

 その口内めがけて、テッポウウリマシンガンを発射します。


「そんな小さな種ごとき、オレ様には効かぬッ!」


「小さな種? いいえ、違いますよ」


 獣鬼マンタイガーの口に、トゲトゲがついた巨大な種が着弾しました。

 ライオンも恐れる、大きな種が。


「グワッ、なんだ、これは……!?」


「それは、ライオンゴロシ、ですよ」


 獣鬼マンタイガーの大きな口に、次々とライオンゴロシが吸い込まれていきます。


 大食いな獣鬼マンタイガーさんは妖精や獣耳族が食べたいみたいだけど、その種で我慢してください。

 その代わり、私がプレゼントをしたそれを美味しくいただいてくださいね。

 獣鬼マンタイガーさんの最期の晩餐に、相応(ふさわ)しいお味がするはずですので。


 なにせそのライオンゴロシは、ただのライオンゴロシではないのだから。

次回、マンティコアゴロシの実です。

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― 新着の感想 ―
出た!死のカテーシー! アニメだったら処刑ソング(もしくはBGM)が流れてる!
魔王軍の情報伝達に問題がある 国境の森、黒い大地 炎龍様 責任者 ドリュアデスの森 変態鳥 死者 魔王城のメイド〜ドリュアデスの森 精霊姫 死者 アルラウネの森 獣王 死者 氷の巨人の城 姉龍 責任者…
最後に蜜を舐め舐め出来たんなら上等な最後と言える筈 まあ種が混じってるけど・・許容範囲内!
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