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24 パブロフの熊


 クマパパに顔を舐められました。


 そう、蜜を舐め取られたのだ。



 私の口から溢れる蜜をたっぷりと堪能するクマパパ。

 嬉しくて仕方がないといった表情をしているね。


 おいしくいただいてくれて何よりだよ。

 私はクマの舌に舐められるこの感触は何度味わっても嫌だけど。


 だけどクマパパの様子がおかしい。

 突然、泡を吹きだして暴れ出したのだ。


 そうだよね。

 苦しいよね。


 わかるよ。

 だってその蜜、毒入りだから。


 毒蜜なの。


 毒の花粉だって出せて毒リンゴだって作れるんだから、毒の蜜だって生成できるよね。


 それで色々と研究していたら、毒蜜ができちゃったの。

 しかも茨の毒以上の強い毒。それを体の内側で摂取すると、いったいどうなっちゃうんだろうね。

 

 クマパパが自分の喉をかきむしる。

 それでも、口からは滝のように大量のよだれがしたたり落ちていた。


 苦しいという気持ち以上に、蜜が欲しいらしい。


 この蜜を舐めたら、もっと舐めずにはいられないような体に変えられてしまったのだろう。


 そんな風に誰から調教させられちゃったんだろうね。

 しょうがないお父さんだね。



 肉を切らせて骨を断つ。

 蜜を舐めさせなければならないから苦肉の策だけど、その効果は絶大。

 蜜中毒者には効果抜群だよ。


 甘い蜜のなかに毒が混じっていても、味覚としては甘いということしか残らないくらい蕩ける蜜となっているはず。


 仮に蜜が毒だとわかっていても、舐めるのが止められない。

 だって、そこに蜜があるから。



 そうやって、蜜狂い少年は私の蜜を求め続けていた。


 だから私の顔を何時間も舐め続けたクマパパも、もう蜜中毒者だよね。


 私があげたあの蜜玉、美味しかったから一ヵ月も巣に引きこもっていたんだよね。

 また蜜が欲しいよね。


 だから舐めさせてあげるよ。

 この毒入りの蜜を。




 でもね、毒の蜜よりももっと良いものがあるの。

 だからクマパパにはご褒美としてそれをあげましょう。


 ダンスは断られちゃったけど、舞踏会に来てくれたお礼くらいはしないとね。

 主催者としての矜持くらいは持っているの。


 私がこの一ヵ月の間に密かに作っていた、クマパパへの最高のプレゼント。

 普通の蜜よりも、これが本当は欲しかったんだよね。


 クマパパはハァハァとよだれを地面へと落とす。


 それを横目に、私はとっておきのものを体内から吐き出した。

 口から吐き出したそれを両手でキャッチする。



 これはね、蜜玉だよ。


 でも、ただの蜜玉じゃないの。


 特別製の蜜玉。

 とはいっても回復魔法は込めてはいないよ。

 入っているのはもちろん毒。それも猛毒。


 私はこの蜜玉を一ヵ月前から準備して作っていた。

 いつか必ず訪れるクマパパとの再戦に向けての最終兵器として使えるように。


 この蜜玉は、毒に毒を重ねて猛毒にしたものを一ヵ月以上濃縮させた特注の毒蜜玉。


 その効力は絶大なものになるはずだね。



 はい、どうぞ。

 お食べくださいな。


 毒蜜玉を蔓で掴んで、クマパパの顔の前に差し出します。



 クマパパが蜜玉を見つめている。

 甘い蜜の香りがしておいしそうだよね。


 前に食べたときもこれ、美味しかったよね。

 天国にでも登れるくらい、甘かったよね。


 また堪能したいよね、蜜玉。


 こら、クマパパ。

 泡を吹きながらよだれを垂らすなんてお行儀が悪いよ。


 それとももしかしてクマパパ、蜜に毒を入れられたからこれも怪しんでいる? 


 怪しむなら勝手にしてください。

 でもね、怪しんでいたらもう二度と私の蜜を味わうことはできないんだから。



 クマパパの舌がゆっくりと蔓に近づいてくる。

 

 もう目からも口からも血を出しているけど、それでも蜜玉を食べることを止められないんだね。

 わかったよクマパパ。


 さあ、お食べなさい。

 これが最後の晩餐となるんだから。



 でもね、覚えておいてよ。

 これも全部、クマパパが私をペロペロしたから悪いんだよ。


 私はクマパパに舐められまくったことを許すつもりはない。


 それでも、これで雪辱を果たすことができるだろう。

 

 私を舐めたから私は怒った。

 私を舐めたからクマパパは毒に身体をむしばまれる。


 私を舐めたことが原因でその命を二重の意味で散らすのだ。

 もう屈辱を味わうこともない。


 だから敵とはいえ、最後くらいは塩を送っても良いよね。

 優しく美しいフラワーを目指しているからね、私。


 敵であるクマパパには塩ではなく蜜玉をあげましょう。

 最高の隠し味が入っている、宝石のようなこの毒の塊を。



 クマパパは我慢できないと、私の毒蜜玉に蔓ごとかぶりつく。

 

 そうして、幸せそうな表情をしたまま、地面へと倒れていった。


 大量の泡を吹いて、白目になっている。

 でも、どこか幸福を味わっているような愉快な顔。



 クマパパ、今までこの森の主として頑張ってくれてありがとうね。

 お疲れ様です。


 これでも私は優しいから。なにせ前世では聖女だったからね。

 苦しまないようにクマパパが大好きだった私の蜜で殺してあげるよ。


 甘い蜜の味を楽しみながら、安らかにお眠りください。


 おやすみなさい、クマパパ。



 ──そうしてクマパパは沈黙した。




明日も二回更新を予定しております。

ブックークや下記の★★★★★などで応援してくださると執筆の励みになるのでとても嬉しいです。


次回、森の主の座です。

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― 新着の感想 ―
これはジャンキーの末路ですね。 まさか聖女様が麻薬生産者になるとは、世も末ですね。 目指せ、裏世界の支配者! 魔王も蜜<クスリ>漬けにすれば世界平和です!
[一言] 恐ろしい主人公だ…
[一言] 魔物になってからだと思うけど、実はその前から貴族としてこのくらいのことを国でシレッとやらかしてても不思議じゃないですなぁ…その場合後輩の言い分が事実になってしまうけども。
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