23 対クマパパ作戦開始
実はクマパパに対しては秘策があるの。
でも、その前にやることはやっておきましょうか。
お客様の楽しみの時間はまだまだ続きますよ。
お茶会が終わったから、ダンスの時間だね。
舞踏会の始まりです。
クマパパ、ダンスのお相手をお願いしてもよろしくて?
もちろんですお嬢さんというように、クマパパが前に進んでくる。
あら、クマパパは燕尾服を着てないけど、そんな服装で大丈夫かしら?
全裸だけど、いいのかな。
まあ私もイブニングドレスは持っていないんだよね。自前の蔓しか持ち合わせがないの。
それにこっちも半裸みたいなものだから、ある意味お似合いのペアかもね。
森の生き物にとっての夜会服は裸と相場が決まっているから、これで良しとしましょう。
全裸と半裸が織りなす森の舞踏会。
ちょっと変態っぽい気がするのは気のせいです。
クマと植物だから問題ないの。
クマパパがクマママを一瞥し、雄叫びを上げながら私の方へと近づいてくる。
奥様を放っておくほど、私と踊るのが楽しみだったのかしら。
他の女に夢中になっちゃうと奥様に白い目で見られますよ、クマパパ。
ほら、あそこで夫人が倒れながら白目をむいているじゃないですか。泡を出すほどお怒りですよ?
夫人のことよりも私とダンスをしたがっているクマパパは、私を凝視しながらよだれを垂らしていた。
そんなに熱い目線で見られると恥ずかしいのだけれど、仕方ないですね。
クマパパ、私と踊ってくださいませんか?
地中から毒の茨を出現させて、ダンスのお誘いをします。
マナー違反なのはわかるし男性からエスコートされなかったのは悲しいけど、クマパパも奥様の手前、誘いにくいよね。気を使ってあげた私に感謝してよね。
無数の茨でクマパパの両手どころか体中をホールドします。
茨の網でがっちりと体を支えるよ。
さあ、リズムに合わせてステップを踏みましょう。
私は歩けないから、代わりにクマパパが躍ってね。
熊とワルツを。
だけど、クマパパは私が踊れないことが不満だったみたい。
ホールドしていた私の茨を引きちぎったのだ。
私とのダンスを拒絶するように、体中の茨を引きはがしてく。
もしかして、ダンスを拒否られちゃった!?
ちょっと、わざわざこちらからお誘いしたダンスをお断りされるのはショックなんですけど……。
こんなことされたら元聖女であり公爵令嬢の私としては沽券に関わるの。
やはり、クマパパには奥様の後を追ってもらいましょう。
舞踏会は終わった。
遊びの時間もここまでだね。
さて、戦いのお時間です。
クマパパは茨を握っていたはずなのに、全く痛そうにしていないね。
むしろ、全身を茨の棘に刺されたはずなのに、無傷に見える。
そう、クマパパは今までの敵とは違った。
棘がね、刺さらないの。
クマパパの強靭で分厚い皮膚によって、棘が刺さらずに弾き飛ばされていたのだ。
茨攻撃は効かない。
それだけで、今までの魔物とは同列にできないことがわかる。
やっぱりクマパパは、私がこれまで対面したどの相手よりも強い。
最大の強敵である。
アナコンダことヴァーンシュランゲや戦大好きトラさんことクリークティーガー、そして夫人であるクマママですら茨の棘の毒の餌食となって簡単に倒れたのだ。
そうしてみんな、私の栄養になることを宣言して身を捧げてくれた。
それなのに、クマパパには茨が有効な手にはならない。
これまで常勝無敗だった必殺の攻撃が、無効化されたのだ。
さすがだよ。
クマパパには茨の棘が刺さらない。
私の必勝法が効かなかったのはクマパパがはじめてだよ。
やるね、クマパパ。
それでこそ私が認める森の主であり、最強のクマさんだよ。
正直、私の攻撃でクマパパにダメージを与えられないということは、それだけで降参したくなるような事実だ。
まさに絶望的。
また私はあのペロペロ地獄を味わうのだ。
たしかに普通に戦ったら、私はクマパパに勝つことはできない。
でもね、私はこの一ヵ月ただ森のモンスターを食べ放題していたわけじゃないんだよね。きちんとこの再戦のときのために、戦術を考えていたのだ。
よし。
やっぱり、作戦通りにいこうか。
私は対クマパパ用に取っておいたある物を、取り出すことにする。
外側がダメなら、内側から攻撃すれば良いだけだよ。
クマパパ、これがなんだかわかる?
リンゴだよ。
この世界ではリンガルなんて呼ばれているね。
赤くて水分たっぷりのリンゴはおいしいよね。
私から作ったリンゴなんだよ。
だからクマパパも気に入ってくれるかな。
植物生成は便利だよね。こうやっていつでも果物を栽培できちゃうんだから。
あらかじめ収穫してあったリンゴを私は蔓で取る。
それをクマパパに投げます。
クマパパさあ、もしかしてお腹空いているよね?
巣にこもって私の蜜玉から栄養を貰っていたなら、食事は最低限のもので済ましていたよね。だって蜜が甘くてしかたなかったから、他の食べ物なんて食べる気がしなくなるよね。
蜜玉を食べた少年も、私から去るときにもう他の食べ物なんていらないって言っていたの。クマパパも同じかな。
だから今のクマパパは空腹気味のはず。
そんな時にリンゴが飛んで来たら、つい食べちゃうよね。
クマパパがリンゴに食らいつく。
一口で咀嚼するクマパパ。
そのリンゴね、私の蜜も込められているリンゴなの。
だからおいしいのは保証するよ。
まだ食べたいのならお替りもあるから安心してね。
はい、あーんして!
リンゴを次々と投げる私。
それを待っていましたと全て食べるクマパパ。
けれども、リンゴを13個食べたところで動きが止まった。
飛んできたリンゴを無視して、口をぽかんと開きながら空を見上げだしたのだ。
あ、そろそろ効いて来たかな。
実はねクマパパ。
そのリンゴね、毒入りなの。
毒リンゴなんだよ。
植物生成でリンゴを成長するときに、ちょっと毒を混ぜれば美味しい毒リンゴの出来上がり。
それを食べた動物は倒れて、私が回収してパクリという戦法だったんだ。
でも、さすがはクマパパ。
小さめの魔物なら1個のリンゴで倒れてしまうようなものを13個も食べたのにまだ立っていられるなんて凄いや。
クマパパが私の方に視線を向ける。
目が据わっているね。もしかしたら怒っているのかな。
毒に気がついたのか。
さすがはクマパパ、賢いや。
さきほどの毒リンゴには私の蜜も混ぜてあった。
だから甘くて凄く美味しい果物になっているはずだ。
リンゴに含まれた蜜の味を思い出したクマパパはどう思ったかな。
早く私を自分のものにしたいと欲にかられただろうね。
毒で苦しいクマパパと蜜を食べたいクマパパ。
その両方の気持ちが、私へと向けられる。
クマパパが四足歩行で突進してきたのだ。
罠として地中に配備していた茨を動かし、茨の壁を作る。
でも、そんなのはクマパパには通用しなかった。
茨の盾を軽々と突破されてしまう。
さすがの茨の棘もクマパパの防御力の前ではあまり効果がなかった。
ほとんどの棘が刺さらないせいで、決定打にはならない。
さすがはクマパパ。
森の主というのは伊達じゃないね。
この方法で倒せなかったのはクマパパが初めてだよ。
毒花粉をクマパパ目掛けて発射する。
しかし、クマパパの突進する風圧によって霧消してしまった。
攻撃技は全て出し切った。
毒リンゴも与えた。
それでもクマパパは倒れない。
普通に戦っても、クマパパには勝てなかった。
私だって強くなったんだよ。
だからもう他に敵はいないとさえ思えるようになったのに、やっぱり森の主は凄いや。
また勝てなかったよ。
クマパパが目の前までやってきた。
体長が10メートル以上もあるとやっぱり迫力あるね。
毒が回って辛いはずなのに、それよりも蜜がとにかく欲しい。そんな表情をしているねクマパパ。
さぞかし気に入ってくれたんだ。
当然だよね、あれだけ私をもて遊んでくれたんだから。
クマパパが私を舐めようとする。
前回、クマパパに初めて舐められたときの光景が目に浮かんだ。
あの時、私はなにもできなかった。
そして今度もまた、無防備な私はクマパパの舌で舐められようとしている。
べっとりとした舌が、私の顔についた。
ぬちゃ。
気持ち悪い感触。
顔の蜜が舌に舐め取られるどうしようもない感覚。
あの日のように、また私は舌で舐められてしまったのだ。
絶望という感情と、屈辱という文字。
しかし今回は、それが私の頭には浮かんでなかった。
舐められるのは嫌。
二度とペロペロされたくない。
屈辱を味わいたくない。
でもね、それだけじゃ私の溜飲が下がらないの。
だからね、覚悟をした。
舐められるのを承知で、私はクマパパに対抗したい。
そのためにもクマパパを正面から見据える。
私を味わおうとクマパパの舌が必死に動く。
クマパパに顔を舐められ蹂躙されながら、代わりに私はニヤリと笑みを浮かべた。
私の蜜は美味しいよね。
あの時だって、あんなにペロペロしてきたんだから。
それならね、もう舐めても良いよ、クマパパ。
ここまで来たら、もう私は舐められることを止めない。
さあ、クマパパ。
やるならやりなさい。
クマパパが来た時から準備しておいたんだよ。
いつもと違った最高級の蜜をクマパパにプレゼントしてあげる。
秘策として調合して作り上げた、特別製の甘い蜜を。
天にも昇れるくらい美味しいはずだよ。
だって、この蜜にはね、毒が混ぜ込んであるんだから。
作っちゃったの、毒の蜜を。
毒入りの蜜もお気に召してくれるかな。
うふふ。
だからね、クマパパ。
──これで、さようならだよ。
本日も一日二回更新となります。
次回、パブロフの熊です。







