ポメラニアン 生意気令嬢にお仕置きをする
「ーーーコハナさん如き貧乏人に魔法学校なんて、100年はやいですわ!」
日曜学校が開かれている教会から聞こえてきたのは、高飛車な少女の声だった。
何だ、教会の中で何か言い争ってる?
しかもコハナのことで?
いくら犬の聴覚が優れているからといって、建物内の会話が全部聞こえるわけじゃない。
俺は周囲を確認すると、資材置き場から出た。
教会の裏手には、関係者用の木製の扉がある。
木製の扉は建て付けが悪いみたいで、隙間ができている。
ここからなら、中の会話を全部聞き取ることができるだろう。
俺は木製扉の前に座って、聞き耳を立てた。
「いいですこと!?250年の伝統を誇る王立魔法学校には、大陸全土から優秀な魔術師の卵が集まってきますの。才能も!血統も!優秀な人材が。例えばわたくしのようなーーー」
「うんうん!魔術素養の試験で、コハナちゃんは1番。ミルメルちゃんは2番だもんね。二人ともすごいよ」
「サラッと順位をバラさないでくださる!先生!!!」
「ひぅ!ご、ごめんなさいいぃ」
魔術素養?
この世界にも魔術があるのか?
そして、その試験でコハナは1番だったと。
うんうん、さすがは俺の命の恩人。
「とにかく!コハナさんのような貧乏人のガリ勉に、格式高い魔法学校は相応しくない!ということですわ。」
「わ、わたしは、ただ試験を受けてみただけで、魔法学校に行くとは・・・」
「フン。嘘はつくものではありませんわ。試験を受けると決まってから、あなた、花売りの仕事の合間に、熱心に勉強してたではありませんの」
「それは・・・」
コハナが言い澱む。
声しか聞こえないけど、それが図星だということがはっきりと伝わってくる。
そうか。コハナは魔法学校に入りたいのか。
「まあ、魔法学校には奨学金制度もありますけど。コハナさん程度の才能では、奨学生だって到底無理ですわ」
「そんなことないよ!魔術素養の試験でコハナちゃんは846点、ミルメルちゃんは720点だもん。コハナちゃんなら奨学生になれるよ!」
「サラッと点数をバラさないでくださる!先生!!!」
「ひぅ!ご、ごめんなさいいぃ」
この先生は大丈夫なのか・・・?
っていうか、コハナは846点も取ったのか。
圧倒的じゃないか、我がコハナは。
1000点満点だとしたら、普通にすごくないか?
っていうか、さっきからこのミルメルっていう子は、何でコハナにこんなに突っかかるんだ?
どれどれ。
俺は木製の扉を全身で押す。
わずかな隙間ができ、そこから教室の先生、生徒たちが見える。
ミルメルって子はーーーあの中央で踏ん反り返ってる子か。
コハナと同じ11〜12歳くらいの女の子。
ウェーブのかかった金髪を、左右にまとめてお団子にしてる。
胸元の大胆にあいた服にコルセット、バレリーナのような短めのチュチュからはスラリとした足が伸びている。
それに何より。
この子、おっぱい大きいな。
推定Cカップ。
11〜12歳にしてはかなり発育が良い方だ。
スラリ伸びた脚も艶やかで肉付きが良い。かといって太ってるわけではない。スタイルが良いと形容した方がしっくりくる。
うん。かなり好みだ。
コハナとは違った意味の美少女と言って良いだろう。
大人しくしていれば、深窓の令嬢、あるいは育ちの良いお嬢様として、男性からは注目の的だろう。
大人しくしていれば、だが。
今もミルメルは、その発育の良い胸を強調するかのように踏ん反り返って、優越感たっぷりの笑顔をコハナに向けている。
「そうですわ。わたくし、とても良いことを思いつきましたわ!」
自分の思いつきに陶酔するようにうっとりとした表情になると、ミルメルはとんでもないことを口走った
「コハナさん。わたくしの前に跪いて・・・足にキスをするんですわ」
「ええっ!?」
「はあっ!?」
コハナだけではなく、俺まで思わず叫んでしまった。
っていうか、この子何言ってんの?
「わたくしに忠誠を誓って、我がオーフィリア家の助けが欲しいと懇願するんですの。そうしたら、魔法学校の入学金を支援して差し上げてもよろしいですわ」
日曜学校の子ども達がざわつく。
先生も目を丸くして固まってる。
さすがにそれは・・・無いだろ。
いくら悪ふざけとはいえ、言っていいことと悪いことがある。
騒然となった雰囲気を全く気にすることなく、ミルメル嬢は演説を続ける。
「どうかしらコハナさん?とても良い提案だと思いませんかしら」
「そ、それは・・・」
「あらあら、できませんの?跪いて足にキスをするだけですわよ。・・・それとも、コハナさんの魔法学校に対する思いは、その程度ということかしら」
もう見ていられない。
いっそ乱入して、あのミルメルとかいう子に噛み付いてやろうかーーー
そう思った時、コハナはあっけらかんと応える。
「あ、跪いてキスは全然できるんですけど」
「できるんですの!?」
「できるんかい!!」
思わずミルメルとハモってしまう。
「はい。花売りだけじゃ生活できなくて、物乞いとか、ゴミ漁りとか、汚いことたくさんしましたから。大抵のことはできます!」
屈託無い笑顔でそういうコハナ。
なんだろう、目から水が止まんねえよ・・・
「で、できるんなら、今すぐやればいいじゃないですの!そうすれば、魔法学校の試験だって受けられーーー」
「でも・・・ミルメルさんに助けてもらうわけにはいかないです」
どこか寂しそうな声でコハナは言う。
「わたしとミルメルさんはクラスメイトだけど、ミルメルさんのお家にお金を出してもらう理由はありませんし・・・」
「ーーーーーーっ」
それはつまり、赤の他人に支援をしてもらうわけにはいかないという、コハナなりの遠慮だったのだが。
気のせいか?
ミルメルの顔が一瞬、悲しみに歪んだように見えたのは。
「フ、フン!貧乏人が何を意地はってますの?さっさと私の足にキスをすればいいんですわ!」
「・・・ごめんなさい。でも、大丈夫です。わたしもっと勉強して、いつか奨学生として魔法学校に受かってみせますから!」
両手をグッと握って、満面の笑顔でそう宣言するコハナ。
これは、なんとしても金を稼がないといけない理由ができたな。
コハナに魔法学校の入学試験を受けさせる。
俺の中での決意が、また新たになった気がした。
それはそうと。
ミルメル嬢は自分の思い通りに事が運ばないことに、悔しさで地団駄を踏んでいる。
俺の命の恩人、コハナを散々馬鹿にしてくれたことだし、あの傲慢娘には、ちょっとお仕置きが必要だな。
そう思うと俺は、全身を使って思い切り木製の扉に体当たりをした。
バァン!
扉が勢いよく開く。
日曜学校の子どもたちの、先生の注目が一斉にこちらに注がれる。
「わぁ。ワンちゃんだ!」
「な、なんですの!?なんでこんなところに犬が・・・」
「ポ、ポメさん!?」
トコトコと、短い4本足を動かして教会の中を歩くポメラニアン。
好奇の視線を送る子供達の前を通り過ぎ、俺はミルメルの前まで来ると、立ち止まった。
「な、なんですの?犬畜生風情が、わたくしに何の用ーーー」
えーっと。
さっき俺が獲得したスキルの中に「魅了」とかいうやつがあったはずだ。
RPGなんかだと定番のスキルで、「魅了」された側は「魅了」した側の命令を何でもきくようになってしまう、みたいな効果だったはずだ。
やり方は。えーっと、こんな感じか?
俺はミルメルの青い瞳をジッと見つめてーーー
小さく首をかしげると、キュウウゥンと鳴いた。
「はうッ!?」
ミルメルに衝撃が走る。
全身が痺れるような甘い感情に蕩かされ、次の瞬間には
「あ、あああぁぁぁ!可愛い!かわいらしいですわっ!!!」
両頬を赤らめ、うっとりとした様子で俺に近づくミルメル。
「な、何なんですのこの生き物・・・わたくしなんだか、なんだか胸が苦しくて・・・」
「ミ、ミルメルちゃん?」
先生もドン引くくらいに息を荒くし、目にハートを浮かべたミルメルは、跪いて俺を抱き上げると、ギュウウウと抱きしめた。
「あぁっ!ワンちゃん、ワンちゃん。わたくしのワンちゃん。もう離しませんわあぁ」
ミルメルの発育の良いおっぱいが、プニプニと俺の顔に押し付けられる。
絹のような肌触りと、マシュマロのような弾力。この世のものとは思えない柔らかさが、俺を包み込む。
これが・・・おっぱい!
人生初のおっぱいである!!!
成し遂げた・・・俺は成し遂げたんだ。神様ありがとう。生きてて良かった!死んだけど。
おっと。
おっぱいの感触をもっと楽しんでいたいが、本来の目的を忘れてはならない。
これはミルメルへのお仕置きなのだ。
俺は両腕からスルリと抜けると、しゃがんでるミルメルの正面に立つ。
ここからだと、丸見えだな。
何がって。
パンツだよパンツ。
改めてじっくりと観察する。
ミルメルのパンツは、前面にレースがあしらわれた、ちょっと大人びたものだった。
俺は後ろ足に力を込めると。
思いっきり前の方ーーーミルメルのスカートの中に向けてダイブした。
ズボッ
「ひぃゃあああぁぁぁ!?」
素っ頓狂な声を上げるミルメル。
「やっ!な、何しますの、そ、そこはっ、ダメ、ですわ!」
侵入を拒否するように、太ももで俺の頭を締め付けてくるミルメル。
でも俺は構わずに、ミルメルのおパンツに鼻を押し当てていく。
クンクン。
「ひぁっ!?こ、この犬、よくも高貴なわたくしの・・・あぁっ、でも、可愛いですわっ!」
ふむ。
パンツマエストロの俺から言わせるに。
ミルメルのおパンツは、高貴で華やかな大人の香りの中に隠れる甘酸っぱい少女本音、と言ったところか。
もう少しじっくりと、鼻先で転がすように嗅いでみる。
クンクンクンクン。
「だめ・・・そんなに鼻先を動かされると、くすぐったい・・・あっ。あれ?」
『1459の経験値を獲得しました』
『ポメさんのレベルが5から7へとアップしました』
『スキル:敏捷がレベル3から4へとアップしました』
『スキル:嗅覚がレベル3から5へとアップしました』
『ユニークスキル:魅了がレベル2から3へとアップしました』
『新たなスキルの可能性が解放されました。スキルツリーを確認してください』
お、やっぱり、女の子のパンツのにおいを嗅ぐとレベルが上がるのか。
クンクン。
「あれっ?あれっ?なんですの、あっ、なんか、お、おまたが、熱くなって・・・」
ということは、女の子のパンツのにおいを嗅ぎまくれば、ガンガンレベルアップしていけるのでは?
クンクン。
「んっ、ふうッ、や、やだ、頭が痺れてふわふわして・・・なんですの?なんですの、これぇ」
でも、仮に同じ女の子のパンツばかり嗅いだらどうなるんだ?経験値は入るのか?
クンクン。
「おまたがジンジンしてぇっ、ふぁッ!わたくし、もう、だめッ、だめですわッ」
仮説に過ぎないが、同じ女の子のパンツだと、入る経験値が目減りしていくのではないだろうか。
だとしたら、なるべく多くの種類の女の子のパンツを嗅がなければならない、ということになる。
クンクン。
「だめだめだめッ!ーーーーーーーーーーッ!!!」
よし、これもコハナを救うためだ。
これからもバンバン、女の子のパンツに顔を埋めて、経験値をかせがなくちゃな!
ん?何か騒がしいな。
俺の顔を挟む太ももがビクッ、ビクッと痙攣してる。
目の前のパンツは汗?で湿って上気している。
スカートから這い出て、ふと見上げると同時に。
ドサリ、とミルメルが尻餅をついた。
その顔は真っ赤で、恍惚とした表情を浮かべている。
青い瞳は焦点が定まってない。
なになに?俺がちょっと考え事してる間に何かあったの?
周りを見回すと、ほとんどの子供達がキョトンとこちらを見ている。
が、数人の女の子、コハナ、そして先生は、顔を赤らめて目を逸らしている。
目の前のミルメルと目が合う。
ボンヤリとした目は徐々に焦点があってきて、俺を捉えると、まん丸に目が見開かれる。
少女の顔が、羞恥で真っ赤に染まり、泣き出しそうに歪むと。
「いやあああぁぁぁ!!!」
信号無視で突っ込んでくるトラックのごとく、ミルメルは猛スピードで教会から飛び出して行った。
よくわからないけど。
クラスメイトの前で恥ずかしい姿を晒したのが、よっぽどこたえたようだ。
これにてお仕置き完了!
めでたしめでたし。
満足いくお仕置きができたことで、俺は浮かれていた。
だから、気づかなかったのだ。
嫉妬溢れる目で俺を睨みつける、コハナの視線に。




