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私たちのヴァルキューレ  作者: 紅葉崎もみじ
ヒーローでも、勇者でも・・・
27/27

27話 これから

 私は正義の味方じゃない。


 それは私自身が分かり切っている事実だ。


 だけど、










 私は放課後、一年生の教室が並ぶ校舎に足を運んだ。


 明らかに異質な私の存在に周りから奇怪な感情が伝わってくるが、それらをまとめて無視し一つの教室に入る。


 そして見る。


 彼女の日常を。




 彼女――――千歳は同学年の生徒に取り囲まれ悪意を向けられていた。


 千歳にひどい暴言を吐く女子。千歳の鞄を取り上げ中身を床にばらまく女子。


 それらに対して千歳は何の反応を返さない。


 そしてその中の一人が千歳の態度に苛立ちその髪を引っ張った。




 その時、その集団に声をかける人物たちが現れた。




 しかしそれは千歳の身を案じ、いじめに異を唱える善良な生徒たちではない。

 むしろ逆。


「あれ?百花ぁ。どうしたのこんなとこ来て」


 私たちの女子グループの中心メンバー、安達 彩子が私に話しかけてくる。


「もしかしてあんたもゲームしに来たの?」


 ゲーム。

 彩子たちは千歳へのいじめを表向きそう呼んでいた。


 いや、実際にゲーム感覚なのだろう。

 この人にとって人をおとしめる行為は・・・。


「なんだよぉ!やっぱりあんたもやりたかったんでしょ!でもビビッてできなかったんだぁ・・・そっかそっか」


 私のことを勝手に分かったように言う彩子。


 妙に間延びした口調が無性にこちらの癪に障る。

 これ以上そんな言葉は聞きたくない。


 私は何の返事も返さず千歳を取り囲んだ集団へ近づいてゆく。


 下級生たちはいきなり現れた私にいぶかし気な表情を見せていたが、私の上履きの色などから上級生だと理解しさらにいじめの主犯であるグループと親しく会話(私は話していないが)している場面を見てすぐに私も逆らってはいけない人物だと判断したようだ。


 そういう、人間係性から初対面の人でも自分よりも立場が上かそれとも下なのかを判断できる能力は女子特有なものだろう。

 それは社会に出てからでも通用するスキルであるし、こういう女子のグループに身を置くためには必須の能力だといえよう。


 現に私は、この女子たちのように人を見てきたのだから。


 でもそれも無意味なんだけどね。


 私は心中で自虐的に笑う。





 ――――なんせ私は、もうすぐあなた達よりも下の立場になっちゃうんだから。





 私が集団に近づくと人だかりが左右に割れる。


 人の壁がなくなり、私は今日初めて千歳と対面する。

 この前の戦闘から約半日ぶりだ。


 その顔はやはり表情が変わらない。

 それでも、その視線には私がここにいることに対するいくらかの驚きが宿っているような気がする。

 あくまで私がそう思っているだけだ。


 でも、もし私の子の行動が千歳の予想外なもので。

 ささやかながらに彼女を出し抜くことができているのなら、私にはささやかな達成感ができるのだが・・・。




 周りの集団が、私の立ち回りをかたずをのんで見ている。


 周りの下級生たちは見知らぬ上級生が、後方にいる彩子たちは見知った士 百花がこの少女にどんな危害を加えるのかを品定めしていた。


 その視線には、もし意にそぐわない行動を起こせばすぐさま糾弾するという警告が混ざっている気がする。



 実際彼女たちは私の行動でこの集団に私を含めてよいかどうかを決めるつもりだ。

 女子の集団というのは敵対するものが敵ではない。


 集団に従えないものが敵なのだ。












 だけど、おあいにく様。

 私はあんたたちガキに加わる気なんてさらさらないんだよ。







 少女に、千歳に手を差し伸べる。

 周りからざわついた気配を感じるが、そんなこと知ったことじゃない。



 私は、


 私は悪と戦う特撮ヒーローでも、世界を守る勇者でもない。




「千歳、一緒に帰ろう」




 それでも、困った特には手を差し伸べてあげられる。

 頼れる友人ぐらいにはなりたいと思った。


















「あなた、何をしているの・・・」

「いやあ、なんていうか」

「へらへらしている場合ではないでしょう・・・!」


 あの後、混乱し動けずいた周りを完全にほったらかしにし千歳の手を引いて逃げた。

 学校から程よく離れた道でようやく一息入れる。


「あんなことをして、あなた明日からどうなるか」

「まあまあ、今は逃げたんだから明日のことはいいじゃん」

「それは問題を先延ばしにしているだけでしょう!なんだってこんな無意味なことを・・・」


 無意味って・・・・そう言い切られてしまうと流石に悲しい。


「いいじゃん。わたしはやりたいことやったんだから満足だし」

「あなたの満足感の話をしているのではないわ。こんな行動に何の生産性も利益もないといっているのよ」

「べつにいいよ。私自身、もうあいつらの顔色窺って腰低くするのに嫌気がさしてたんだ」

「・・・・・」

「人の視線気にしてうじうじするのはもうやめたんだ。これからは好き勝手に生きることにしたんだ」


 私は引っ張った時からそのまま、千歳とつないだ手にほんの少し力を籠める。


「だから。私は自分の好きなこと・・・・・あんなあんな奴らの仲間じゃなくて千歳の友達をやることにした!」







 私の言葉を聞いても、やはり千歳の表情に変わりはなかった。

 でも私には千歳が今テレているのだとはっきりと分かる。



 なぜかって?

 単純だ。無表情の彼女の顔、その病的に白い肌がはっきりわかるほど真っ赤になっていたというだけ。


 誰にもその心情を分からせなかったであろう彼女。

 でも今だけは・・・・。

 誰だってその心情が丸わかりだった。


「ふ・・・・・不可解だわ。なんでそんな論理もなにもない行動を・・・・!これからどうなると」

「まあいいじゃん。これからのことはこれからってことで」

「だからそれは問題を先延ばしにしているだけで・・・・!」


 その通り。

 でも正直私は今の状況をそんなに悲観してはいなかった。


 むしろ今まで私を抑えつ行けていた枷をまとめて引きちぎったかのように気分はさえわたっていた。


 こんなこと少し前の自分じゃ考えられないだろうな・・・・。

 でもこの思考は昔の、幼少期の私と似通っている。


 なんだか、こういう考え方こそ一番私らしいと私自身から言われている気分だ。


「まあいいじゃん、いいじゃん!」

「いいじゃんって・・・・あなたねえ!」

「それよりこれからどうする?まだ放課後からそう時間たってないけど」

「・・・・・!」

「どっか寄り道する?」

「・・・・・・・無意味だわ、やっぱり」

「なんだよそれー」


 私は千歳の手を引いて歩き出す。


 彼女とはこれからも様々な経験を重ねるだろう。


 どれもが楽しいもの、うれしい経験ではないというわけではない。

 学校で、そして戦場で。

 だけど私はそれらすべてを受け入れて、共に歩んでいこうと思う。



 さしあたっては・・・・これからどこに寄り道をするかを考えるか。

















 私は分かっていなかった。

 千歳が言う、無意味という言葉の意味を。



 ――――――第一部、完

 とりあえず完結です。ここまで読んでくださった方々、大変ありがとうございます!

 今回初投稿ということで。私にも至らぬ点がいくつもあり、個人的に小説を読んでもらっている友人には地の文が無駄に長い。テンポが悪い。いじめの描写をもうちょっと細かくやれ等の指摘をいただき、やはり自分の文章の技術もまだまだ粗末だと実感いたしました。

 そして自分としても物語序盤の展開に手を加えたくなった折、一度この小説を最初から書き直すことにしました。

 一応物語の大まかな流れは同じではありますが友人からの指摘を元に描写や各種設定を変えるつもりであります。

 ある程度の文章が出来上がってから投稿する予定でありますので時間がしばし空くかもしれませんが、良ければそちらのほうもお読みください。


 それではここまでご清観ありがとうございました。

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