印象
「――――――」
そんな僕を見て、竜は心なしか、表情を曇らせる。
……爬虫類が表情を見せるなんて、聞いたことも、見たこともない。 自分でもおかしいと思っている。 だが、この表情は多分そうだ。
しかし、何でそんな顔をするのだろう? 自分からそう言っていたはずなのに。
――――もしかして。 この竜は人から恐れられるのが不愉快なのか?
「……しかし、この世界も、か」
そんな思惑をかき消すように竜が呟く。
さっきよりも目を細め、辺りを見渡している。
そして、再び僕に視線を向けた。
「まるで、『蟲毒』だな。 そうは思わんか?」
「……『蟲毒』?」
聞きなれない単語だ。 思わず、首をかしげる。
すると、竜はきょとんと僕を見た。
「お主、知らんのか?」
「え、ええ」
すると、「最近の守護者はそれぐらいも分からんのか......」とぶつぶつ呟き始めた。
……ん? 守護者?
もしかして、僕を守護者だと勘違いしてるのか?
「あ、あの」
勘違いを正すべく、勇気を振り絞って声をかけてみる。
「む、なんだ?」
「ぼ、僕は守護者じゃないです。 この世界の守護者は――――――」
「おーい、レナード君~!!」
別にいる、そう言いかける。
すると、どこからか、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
グットタイミング。 この声は玉藻だ。
「もう、ここにいたのね。 ポータルの調整が終わったから……て、え!?」
どうやら、玉藻も竜の存在に気づいたらしい。 途中から変な声になっていた。
「む。 ……ああ、なるほど。 愚弟が『ここの守護者は狐の獣人だ』と言っていたが……我は勘違いしていたようだな。 お主がここの守護者か?」
「え、あ、はいっ」
……玉藻が聞いたことのない声で、返事をしている。
どうやら、流石に玉藻もこの竜に畏怖しているらしい。
「しかし……少し、早いんじゃありません? 予定では後一週間と聞いてましたが?」
「なに、予定が早まった。 ……しかし『蛇』め。 ここも蟲毒をやりおったな」
「……『ここも』というのは?」
「いや、最近各世界で、ここの様に人が変化する事態が起きている。 それは我々も重々承知している。 ふむ……一度、『オリジン』に戻った方が得策か。 いや、しかし……」
竜はまた、独り言を始めた。
……いい機会だ。 いろいろ玉藻に聞いてみよう。
「……あの、蟲毒ってなんですか?」
「古代中国の呪術よ。 瓶の中に毒虫や蛇を入れて、生き残った奴にはとんでもないバケモノになる、曰くつきの儀式。 ま、私は成功例を見たことが無いけど」
なるほど。
つまりは、この世界は巨大な瓶で、『蛇』と呼ばれる者がそれを仕掛けた、と。
それだったら、話が一致する。
義父の再生力、そして、適応力……どう考えても、そうとしか思えない。
理由は分からない。 けど、これを実施しようとした時点で、そいつは確実に狂っている。
まあ、その目論見は、僕が崩したのだが。
「……しかし、レナード君を探してたら、『選定者』様と一緒にいたとはね……何があったの?」
「……話せば長くなります」
僕はこれまでの事を話した。
化け物達を一掃したこと。
義父と戦ったこと。
戦いの途中で、義父がさらに変化したこと。
そして……義父を殺したこと。
全て話した。
「……で、帰る途中で『選定者』様と出くわした、と」
「まあ、そうなります。 正直、僕もびっくりです」
「私も驚いたわよ。 しかし……」
ふと。
……玉藻は竜に聞かれないよう、耳打ちする。
何か後ろめたい話がしたかったようで、僕はそれに応じた。
「……なんか聞いてた印象と違わない?」
やはり。
玉藻も同じことを考えていたようだ。
冷酷で、容赦のない性格と聞いていたが……そこまでひどく感じない。
どうして、と問い詰めたいが、言った本人も困惑している。
「ですよね。 ……何で玉藻さんの知り合いはそんなウソを――――――」
「ほう。 やはり、あの馬鹿者めが、何か吹き込んだな?」
低い声が周囲に響き渡る。
ピクリと、玉藻と一緒に顔を、竜の方へ向ける。
するとそこには、引きつった表情を浮かべる竜の顔があった。
「あ……」
「そう怯えるな。 別にお主達に怒りを覚えている訳ではない。 いらん事を吹き込んだ愚弟が悪いのだ」
その瞬間、小声だったが、確かに聞いた。
「……愚弟め。 今度会ったら、極刑だ」
目が本気だ。 きっと、普段から苦い思いをしているに違いない。




