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夜明け


 何とも言えない、気まずい空気になる。

 竜も自分のせいで、このような状況を作ってしまったことに気づいたのか、どぎまぎしている。

 

「あの、その、なんだ。 なかなか、我が兄弟以外と会話する機会はそうないのでな。 つい、はしゃいでしまった。 無礼を許してくれ」


 ……ますます印象が変わる。 これじゃ、あまりにも竜がかわいそうだ。

 すると、そんな空気を切り替えるように、玉藻が前に出た。


「そういえば、先程オリジンに戻る、と仰ってましたが……」


 玉藻がそう告げると、先程まで見せていた、威厳のある表情に戻った。


「異世界に行くには、必ずあの世界を通らなくてはならんからな。 我々選定者はその制約を受けないが……」


「だから、『蛇』もそこを通っている、と?」


「そうだ。 本来、オリジンには全ての異世界の通過点だ。 その為、そのそれ相応の、規律を守るための機関が存在する」


「……私もここから転移したのち、その組織に、ここの異変を報告するつもりでした」


「なら、話が早い。 言伝を頼まれてはくれぬか?」


「なんでしょう?」


「我もいずれ、久方ぶりに故郷に戻る、と伝えてくれ」


「承知しました」


 僕をよそに、会話がどんどん進行していく。

 いろいろ聞きたいが、重要な話だ。 そんな会話の邪魔なんてできない。

 知らない単語が沢山出てきた。 ……今、一度整理する必要があるな。


 とりあえず、分かっていることから始めよう。


 目の前にいる紅い竜は、きょうの昼に玉藻から聞いた選定者だ。 彼曰く、最近『蛇』と呼ばれる者が、この世界の変異させた黒幕らしい。

 『蛇』は、ここの様に世界を、人間を変異させ、世界規模で蟲毒を行っている、とのこと。

 蟲毒から生まれた化け物は、脅威的な再生力と、適応力を兼ね備える。

 これまでの経験から考えると、化け物に変異した人間が同種食いを行い、生き残った者が条件のようだ。


 ……何故そのようなことを行うのか、理由は分からない。

 少なくとも、こんなことをする時点で、『蛇』は狂っている。

 どういった経緯で、人間を変異させるのかは分からない。

 が、この世界全てを変えてしまった時点で、頭のねじが外れている。  

 ……玉藻もそこまで、驚いていないところを察するに、面識はないが存在自体は知っていたようだ。


 さて、次はオリジンという単語について。

 話を聞く限り、オリジンと呼ばれる世界があり、異世界転移する際に必ずそこを通らなければならないようだ。

 オリジン……直訳すれば、原点。 どんな構図で、異世界が成立しているのか分からないが、そこが特別、ということだけは理解できる。

 ……これは個人的推察だが、そこは海峡のような役割を果たしている、ということだろうか?

 そう考えれば、それの治安維持、もしくは統治している組織がいてもおかしくはない。 ……玉藻はそこに、この世界で起きた異変を、報告に行くらしい。

 

 ……と、こんな感じだろうか?


「それで、今後はどうなさるおつもりで?」


「無論、この世界の調査、消去だ。 ……転移させたい者たちは、もう転移させたのか?」


「え、ええ。 あとは、この子とこの近くの小屋にいる者で最後です」


「そうか。 ……そこのところは、主ら守護者に任せておる」


 竜の言葉に疑問を持った僕は、玉藻に視線を向ける。

 すると、同じタイミングで玉藻も僕を見た。


「まあいい。 ……さて、長話をし過ぎた。 そろそろ調査に向かうとしよう」


 そういうと、竜は翼を広げ、空を見る。 が、何かを思い出したかのように、僕らに視線を向けた。


「――――ああ、そういえば。 何かの縁だ、名乗っておこう。 我が名はヘルディオス。 お主らは、玉藻とレナード、だったな?」


「はい」


 玉藻が答える。


「玉藻よ。 先の言伝の件、頼むぞ。 それと……レナード」


「は、はいっ!!」


「先の戦い、見事であった。 まだ、未熟ではあるが、きっと素晴らしい魔術師になることだろう」


「あ、ありがとうございます!!」


「―――――では、さらばだ」


 そう言って、竜は翼に力を込め、大空に羽ばたく。

 そうして、あっという間に、ヘルディオスの姿は見えなくなった。


「まるで、嵐のようだったわね……」


 玉藻が呟く。全くだ。 だが……


「でも、いい経験をしました。 神様のような方と会話できたんですから」


 空を見上げ、言葉を漏らす。

 きっと。 命を殺した感触と同様に、今日の事は絶対に忘れないだろう。


 ――――――いつしか、空が明るくなっている。 もう夜は明けたようだ。


 その光景を見て、僕は確信した。


 やっと、終わったのだ、と。

 

 




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