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あわれ、ママ  作者: 山本ミチコ
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一、ずるさ

僕がどんなにママを愛しているか、ママは知らない。

僕のママは、顔左半分しかない。

僕にとってはね。


ママは、いつもパパとばっかり喋っている。

パパしか話の合う人がいないからだって。

僕の席はママの左だから、僕にはママの左顔しか見えない。

僕は、いつもママを見詰めている。

ママが料理している時も、ママが話している時も、ママが寝ている時も。

スマホでママの写真も撮ったよ。


僕の夢は、シバターみたいなユーチューバーになること。

僕には知識の引き出しもないし、これから連山みたいに沢山の修業が必要だ。

学校に行ったほうがいいよね…。

でも、ユーチューバーには、学歴の無い者も一杯いるんだ。

人気に学歴は関係ないよね。


ママの感情には起伏があって、最近では落ち込んでいることが多い。

僕のせいかもしれない。僕が学校に行かなくなったから。

ママは校長先生に怒られて児童相談所に相談に行かされた。

そんなの何の解決にもならないことぐらい初めから分かっていたって。

ママ自身が人生に意味を見出せないでいるから、僕には学校に行けって強くは言わないよ。

ママは大学まで行ったけど、それでも人生に意味を見出せなかった。

そんなもんなんだって。人生って。


本当はね。僕は、気付いてたんだ。

今の時代は、通信制高校や大学だってあるし、学歴はお金で買えるんだ。

ずるいことをしろってママが言ったわけじゃないけれど、そういうことなんだ。

長い間、社会を支えてきた価値観が崩壊してるんじゃない?


ママは、『努力は報われる』と言う。

でも、それは、ママが子ども向けの言い方をしているだけ。

ママ自身がそれを信じているかどうか分からないよ。

ママが、真面目に正直にという教えを受けて育ったから受け売りしているだけだと思うよ。

大人の世界には、それしか言いようがないっていうのがあるみたいなんだ。


ママは、言った。

「人生は、嘘っぱちよ。

本音で語り合える人がいて、仕事で成功できたら人生なんとかなると信じてたわ。

仕事も道徳も宗教も家族もママを救えなかった。

でも、救われる者もいるのよ。

ユウ君は、ママみたいになってはいけないわ。

ママは、病気なのよ。

ユウ君は、健康な結婚相手を見つけなさい」


明日、パソコン工房に組み立て式パソコンを買いに行くから早く寝よう。

僕の夢は、システムエンジニアのユーチューバーになること。

ちなみに僕のパパは、システムエンジニアなんだ。

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