第二十八話 ロマンチックな夜景
尖塔のバルコニーからは、キャロライン村を一望できる見事な眺望が広がっていた。
僕はしばし高所恐怖症ということを忘れ、月明かりに照らされた美しい田園風景に目を奪われた。
「綺麗だ。本当に綺麗だ。こんなに美しい景色を見たのは本当に久しぶりで、それにもう二度とこんな景色を見ることはないと諦めていたから感動も一入だよ」
「そ、そうなのか? そ、それはよかった。よ、喜んでもらえて、な、なによりだ……」
ふとコニシに目を向けると、コニシは恐々といった様子でバルコニーの腰壁に手をかけ、鼻の下を伸ばすようにして慎重に顔を覗かせていた。
腰は完全に引け、膝はガクガクと笑うように震えていた。
「……ひょっとしてコニシも高い所が苦手なの?」
その様子に、僕はコニシも高所恐怖症なのだと気付く。
「そ、そうだ。高い所は苦手だ。腰がゾワゾワして実に不快だ。すまないが先に戻らせてもらうぞ」
そう言って強張る手を腰壁から離し、コニシは慎重に後ずさる。
だが、その瞬間───。
高所ならではの強い横風にコニシも、そして僕もさらされる。
「きゃぁ──────ッ!!」
コニシが悲鳴を上げる。咄嗟に僕はコニシを抱きかかえるように庇う。
「だ、大丈夫ッ!?」
僕は腕の中のコニシに声をかけた。
コニシは暗がりで驚かされた女の子のように腰が抜け、ブルブルと震えていた。
「レ、レイ……」
僕を見上げるコニシ。
その時、僕は───そしてコニシも自分達の顔の距離がとても近いことに気付く。
僕は動悸が弾けたように高まった。
それはコニシも同じで、僕たちはお互いにお互いの鼓動を一つになって身体で感じ合った。
コニシの顔がみるみる紅潮する。
「あ、あの、違うよ、コニシ。これは「吊り橋効果」といって、恐怖や不安で心拍数が上がった状態を、相手への恋愛感情と勘違いしてしまう心理現象で───」
僕は必死に説明したが、僕もコニシもますます顔が赤らみ、見つめ合う目と目を引き離すことができなかった。
※ ※ ※
「───ッ!? い、今、コニシちゃんの悲鳴が聞こえたようなッ……!?」
スラナはベッドに押し付けられ、重しをされるかのように布団を被せられていたが、上体を起こそうとする。
しかし、それはアズマ男爵に制された。
「気のせいだよ、スラナ。そんな悲鳴は聞こえたりしないさ。さあ、安心してスラナもお休み。それに絵本もたくさんもってきたぞ。これなんかどうだ? スラナがお気に入りだった「チーズのおうち」だぞ。主人公のネズミがチーズで立派なお家を作るが、友達に自慢したくて招待したら、瞬く間に食べつくされちゃう話だ。なぜかスラナは「やめてー! ぼくのおうちのドアだけはたべないでー!」と主人公のネズミが訴えるシーンが大好きで、コニシと一緒にその瞬間をワクワクしながら待っていただろう?」
そう言うとアズマ男爵は、さっそく絵本のページをめくり「むか~しむかし、あるところにいっぴきのネズミがおりました」と絵本の読み聞かせを始めた。
「あ、あの、おじ様。確かに私は子どもの頃、その絵本が大好きで、両親のいなかった私はおじ様とおば様に、そうして絵本を読み聞かせしていただくのが大好きでした。でももう私は子どもではありませんので……」
再びスラナは、そう訴えたが、今回もアズマ男爵の耳には届かなかった。
すると、コニシの母である聖女が、そっとアズマ男爵の腕に手をかける。
「あなた。今日は私が子守歌でスラナを寝かしつけます。だから絵本はまた今度に」
「な、なに? そうか……いや、しかし……」
アズマ男爵は残念がり、その様子は、自分がスラナに絵本の読み聞かせをしたいという思いがありありと現れていた。
「あなた、どうかお願い。最後にスラナに大切なお話をしたいの。どうか聖女だけの二人っきりにしてください」
コニシの母の訴えは強力で、アズマ男爵をハッとさせるのに十分だった。
アズマ男爵も妻との別れが近いことを悟っていたのだ。その妻の願いを聞き届けず、自分がスラナに絵本を読み聞かせしてあげたいという欲求を貫くことなどできない。
アズマ男爵は静かに絵本を閉じた。
コニシのお母さんも自分の「余命」を利用するのは卑怯だと思いつつ、どうしてもスラナと二人っきりで話をしたかったようです。
それ程までに、お母さんのお話は「大切」なようでした。
尖塔のレイとコニシも気になりますが(デュフフフ)お母さんのお話も気にしていただけますと幸いです。
( ᵕᴗᵕ )
果たしてどんなお話なのか?
皆さまのご期待にそえるよう頑張ります。
(๑•̀ㅂ•́)و✧




