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第四部・第五話(第75話) 紅眼の親友

 神殿での一件のあと、宿の屋上で涼を取っていた。

 砂漠の夜は冷え込み、昼間の灼熱が嘘のように澄んだ空気に包まれる。

 頭上には満天の星。


 「ふぅ……やっと人目を気にしなくて済む」

 横に腰を下ろしたルビヤが、長い脚を投げ出して肩で息をついた。


 私は笑って頷く。

 「今日のこと、気にしすぎないで。あの瞳は呪いなんかじゃない」

 「……アンタに言われると、不思議と信じちゃうんだよね」




 ルビヤはごろんと横になり、私の膝に頭を乗せてきた。

 「ちょ、ちょっと!」

 「いいじゃない、女同士でしょ?」


 真っ直ぐに見上げてくる紅の瞳。

 その潤んだ輝きに、不覚にも心臓が跳ねる。

 (俺、中身はおっさんだぞ!? 女の子にこんな距離感こられたら……色々とやばい!)




 ふと風が吹き、彼女の上衣がはだけた。

 砂漠の民らしく引き締まった腹筋、そして胸元の谷間が――星明かりに照らされてくっきり。


 「……お、おぉぅ」思わず声が漏れる。


 ルビヤはにやりと笑い、わざと体を伸ばす。

 「どう? 筋肉ばっかで色気ないでしょ」

 「そ、そんなことない! むしろ、綺麗で……」


 しまった。口が勝手に動いた。

 ルビヤの顔が一気に赤くなる。

 「……アンタ、ずるいこと言うね」





 しばらく沈黙。

 やがてルビヤは小さく囁いた。

 「私ね、ずっと一人だった。誰もこの目を見ようとしなかったし、友達なんていなかった」


 膝に置かれた頭が、かすかに震えている。


 「でもアンタは違った。私の目を綺麗だって言ってくれた。……だから、もう離したくない」


 紅の瞳が潤み、真剣に私を射抜く。





 胸の奥が熱くなった。

 (俺はただの元おっさん。でも、この子の孤独を救えるなら……女親友であり続けたい)


 私は彼女の髪を撫でて、微笑んだ。

 「私も、ルビヤの隣にいたい。親友として、ね」


 「……“親友”ねぇ。ふふっ、ま、いいか」

 ルビヤは頬を染めながら笑い、ぎゅっと私の腰に腕を回した。





 夜風が吹き抜ける中、私たちは肩を寄せ合ったまま、黙って星を見上げていた。

 紅い瞳は、もう孤独の色ではなく――星と同じ、未来を照らす光になっていた。

次回予告


第76話「星図の断片」

砂漠遺跡の小調査で、秘宝の在り処を示す“星図片”を発見。

紅い瞳がその真価を発揮し始める――。

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