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第三部・第二十二話(第65話) 海の裁き

 海底都市の中心にある広場――そこは「海神の裁き」と呼ばれる場所だった。

 巨大な珊瑚で組まれた円形の壇があり、魚人族の王、長老、戦士、民が集まっている。

 私は調査隊と共に、その中央に立たされていた。


 「……呪具を破壊したのは確かにこの聖女だ」

 魚人族の学者が証言する。

 「だが、その存在は陸の民の手引きによるものではないか」


 会場がざわめいた。




 戦士たちは声を張り上げた。

 「陸の民を信用できるか! すぐにでも討つべきだ!」

 「彼女を処刑し、戦を始めろ!」


 対して一部の漁師や母親たちは必死に叫んだ。

 「待って! 聖女様がいなければ、呪具は破壊できなかった!」

 「子どもたちを守るために力を貸してくれたのに!」


 怒号と嘆願が交錯し、裁きの広場は混乱していった。




 玉座に座る王が槍を鳴らし、沈黙を強いた。

 「聖女レティシアよ」

 その瞳は深海のように暗い。

 「お前は陸の民でありながら、海を救おうとしていると言う。

  だが、証を示せ。お前に海を託す価値があるのか」


 広場全体の視線が、私に注がれた。





 私は一歩前に出て声を張った。

 「私たちが見つけた呪具は、陸でも海でも作れないものでした。

  つまり、第三の存在――真の黒幕がいる。

  私はそれを暴き、止めると誓います」


 沈黙が広場を覆う。

 私はさらに言葉を重ねた。

 「私が欲しいのは、戦ではありません。海と陸が共に生きる未来です。

  ……どうか、信じてください」




 長老の一人が静かに言った。

 「聖女の言葉に耳を貸すべきではないか。

  あの呪具は、我らの理解を超えていた」


 だが別の戦士は叫ぶ。

 「いや、罠かもしれん! 信じれば裏切られる!」


 会場は再び揺れ動き、王の決断を待つ空気になった。





 やがて王が立ち上がった。

 「……よかろう。全面戦争は保留とする。

  ただし、聖女よ。お前に猶予を与える。

  次の月が満ちるまでに黒幕の証を示せ。

  できねば……陸の民を敵と見なす」


 広場にざわめきが広がる。

 私は深く頭を下げ、答えた。

 「必ず真実を示します」





 広場を後にしながら、私は心の奥で拳を握った。

 ――与えられた猶予は一ヶ月。

 黒幕を暴かなければ、全面戦争は避けられない。


 精霊の声はまだ沈黙していた。

 だが私は信じていた。必ず彼らは応えてくれる、と。

次回予告


第三部・第二十三話(第66話)

「封じられた海域」

黒幕の手掛かりを追い、調査隊は禁忌とされる海域へ向かう。

そこに待つのは、精霊さえ拒む深淵だった――。

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