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第三部・第二十三話(第66話) 封じられた海域

 魚人族の王から猶予を与えられて数日後。

 共同調査隊は、地図にも載らない「封じられた海域」へ向かっていた。

 古来より近づくことを禁じられた場所――そこに黒幕の手掛かりがあると伝えられていた。


 波は異様に静まり、風も止まっている。

 「……音がない」

 鳥人族の斥候が羽を震わせる。

 私は胸の奥に冷たい圧迫を感じていた。

 ――精霊の気配が、一切ない。





 舟を止め、全員が海中に潜る。

 そこは他の海域とは違っていた。

 海藻は白く枯れ、岩は黒く腐食し、魚の影すら見えない。


 「……まるで死んだ海だ」

 ライガの声は低く沈んだ。


 蜥蜴人族の鍛冶師が岩肌を調べ、眉をひそめる。

 「何かに侵食されている。自然の腐食ではない」





 やがて、海底に巨大な遺跡が姿を現した。

 石柱は折れ、壁面には見たことのない文字が刻まれている。

 その中央には黒い祭壇が鎮座し、周囲にはまたしても呪具が並んでいた。


 「……ここが、黒幕の拠点?」

 私は喉を鳴らした。


 鳥人族の斥候が祭壇に近づこうとした瞬間――。

 水が震え、低い呻きが響いた。





 祭壇の周囲から黒い影が立ち昇り、調査隊を包み込んだ。

 死んだ魚の声のような囁きが耳に流れ込む。


 「……血を……もっと……捧げよ……」


 ライガが剣を抜く。

 「退け!」

 魚人族の戦士が槍を振るい、影を払いのける。


 だが影はすぐに形を変え、まるで手のように伸びてきた。

 私は必死に精霊へ呼びかけた。

 「お願い……応えて!」


 だが――やはり沈黙。

 まるで、この場所そのものが精霊を拒んでいるかのようだった。




 そのとき。

 セレナから預かった小さな護符が、胸元で微かに光を放った。

 弱々しいが、その光だけが黒い影をわずかに押し返す。


 「……まだ、希望はある」

 私は護符を握りしめ、仲間に叫んだ。

 「退け! 今はこれ以上進めない!」


 調査隊は必死に遺跡を後にした。





 岩礁に戻った私は、胸元の護符を見つめた。

 セレナが言っていた言葉が甦る。

 ――「お姉さまは、必ず答えを見つけられます」


 黒幕は確かに、この海に存在している。

 次に向き合うとき、覚悟が必要だ。

次回予告


第三部・第二十四話(第67話)

「崩れる均衡」

禁忌の海域から戻った調査隊。

だがその間に陸と海の小競り合いは激化し、全面戦争の均衡が崩れ始めていた――。

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