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第三部・第三話(第46話) 人狼族の武術大会

 獣人共和国の伝統行事――武術大会の日。

 闘技場は朝から熱気に包まれていた。

 犬耳の戦士が吠え、猫人族の剣士が爪を立て、鳥人族が軽やかに空を舞う。


 「お姉さま! 今日は特等席ですよ」

 妹が案内してくれた席は、なんと最前列の貴賓席だった。


 「やばい……熱気すごい! まるでコミケの開場直後みたいだ!」

 「例えがおかしいです!」




 観客席がざわめいた。

 「人狼族のライガだ!」

 「共和国最強の戦士だぞ!」


 黒銀の髪に狼の耳、鋭い金の瞳。

 武器を構えた瞬間、空気が一変する。


 私は思わず身を乗り出した。

 「うわぁ……かっこいい!」


 妹がむっと眉を寄せた。

 「お姉さま、少しは自覚してください」

 「え、親友が頑張ってるんだから応援するのは当然でしょ!」


 ――そう、私は本気でそう思っていた。





 試合が始まると、私は声を張り上げた。

 「ライガー! 頑張れー! 友情パワーで勝つんだー!」


 観客たちがざわつく。

 「ゆ、友情……?」

 「親友……?」


 ライガは敵を一瞬でなぎ倒し、こちらを振り向いて笑った。

 ……その笑顔は明らかに「君に褒めてほしい」という意味だった。


 しかし私は両手を掲げて叫んだ。

 「やった! さすが俺たちの親友ライガ!」


 ――場が一瞬で凍りついた。





 妹は顔を覆い、深いため息をついた。

 「……お姉さまはどうしていつもそうなんですか」

 「え? なにが?」

 「本人は“親友”扱いに心臓が爆発しそうなんですよ!」

 「いやいや、ライガは絶対そんなタイプじゃないって」


 舞台上のライガは、確かに耳を赤くしていた。

 それを私は「戦いで体温が上がったんだな」としか思っていなかった。





 決勝戦、ライガは圧倒的な力で相手を倒し、優勝を果たした。

 闘技場は歓声に包まれる。


 彼は観客席にいる私を真っ直ぐに見つめ、拳を胸に当てて宣言した。

 「この勝利を――聖女レティシアに捧ぐ!」


 「わーい! ありがとー! 友情最高!」

 私は両手を振って応えた。


 ……会場中から一斉に「えぇぇぇ!?」という声が上がったのは言うまでもない。





 帰り道、妹は腕を組んでぶつぶつ言っていた。

 「もう、私がしっかり見張ってないと……」

 「なにが?」

 「なんでもありません!」


 私は彼女の拗ね顔を見て、ただ「可愛いなぁ」とデレデレしていた。





 その夜、港町の片隅で、漁師たちが小声で話していた。

 「また魚の群れが消えた……」

 「海の底で、誰かが糸を引いている」


 だが、祭りのような熱気に包まれた私は、それに気づくことはなかった。

次回予告


第三部・第四話(第47話)

「猫人族の市場で買い物ドタバタ」

市場で繰り広げられる買い物劇! ぼったくり寸前のレティシアを救うのは……?

その裏で、魚人族の影は静かに広がっていた。

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