第二部・第十八話(第43話) 家族の絆――そして未来へ
ある日の午後。
私は妹を腕に抱き、窓辺に座っていた。
小さな体は軽く、温かい。
眠りについたかと思えば、急に目を覚まし、不思議そうに私を見上げる。
そして――ふっと、口元を緩めて笑った。
「……笑った……!」
胸が張り裂けそうになった。
大森林での奇跡も、世界樹の再生も、数字で導いた未来も――
そのすべてを超えて、この小さな笑顔が、何よりも尊いものに思えた。
父がその場に来て、赤子を見つめながら言った。
「新しい命は、私たちに未来を教えてくれるな」
母は穏やかな微笑みで続ける。
「あなたもこうして私たちに笑いかけたのよ。
あの時の気持ちを、今また思い出しているわ」
私は涙をこらえきれず、声を震わせた。
「……私、聖女だとか神童だとか、そう呼ばれてきましたけど。
でも今は……ただ“お姉ちゃん”でいられるのが嬉しいです」
――俺は前世、家族を持たずに生きた。
仕事と酒と趣味に溺れ、気づけば孤独だった。
だけど今は、こんなに温かい。
小さな命を抱いて、笑って、泣ける。
「……俺、いや、私は……この世界に生まれ直せてよかった」
心の奥で、前世の自分に別れを告げるように、涙が溢れた。
妹の小さな指が、私の指をぎゅっと握った。
その力は弱々しくても、確かに「生きたい」と伝えてくる。
「……ありがとう。私、必ず守るよ」
領地も、民も、家族も、そして妹も。
私はこの世界で、命を懸けて生きる。
涙を拭い、妹の頬にそっと口づけた。
「ようこそ、私たちの家族へ」
その夜。
家族全員が食卓を囲み、ささやかな祝宴を開いた。
笑い声と灯火に包まれた光景は、何よりもかけがえのない宝物だった。
――聖女である前に、一人の姉として。
私はこれからも、精一杯生きていく。
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次回は閑話が数話入りますですよ。
第三部・開幕――「新たなる挑戦」
辺境伯領の繁栄は加速する。
だが、それは王都の政争を呼び、やがて大陸全土を巻き込む動乱の火種となる。
聖女レティシア、次なる戦場は――「国家」そのものだった。




