第二部・第十六話(第41話) 新しい命――妹の誕生
領地に戻ってから数か月後のある日、屋敷中が慌ただしくざわめき始めた。
「お嬢様! 奥方様が……!」
私は廊下を駆け抜け、執務室から寝室へと飛び込んだ。
そこには母の苦しそうな声と、侍女たちの励ます声が響いていた。
「……大丈夫、必ず……」
父が私の肩に手を置き、深く頷いた。
やがて、産声が屋敷に響き渡る。
――おぎゃああああ!
その瞬間、胸の奥が熱くなった。
「……生まれたんだ」
侍女がタオルに包んだ小さな赤子を抱えて出てきた。
「お嬢様、妹君でございます」
その子はまだしわくちゃで、でもとても愛おしい存在だった。
私は震える手で彼女を受け取った。
「……小さい」
あの大きな世界樹を救った後でさえ、この小さな命の前では心が震える。
――俺、前世では一人っ子だった。
だから“妹”なんて存在、初めてだ。
父は涙を浮かべながら娘を見つめ、母は安堵の笑みを浮かべて眠りについた。
「新しい家族が増えたのだな……」
父の声が震えていた。
領民にもすぐに報せが届き、村人たちは酒を持ち寄って祝宴を始めた。
「辺境伯家に新しい命が!」
「聖女様に妹君とは、めでたい!」
領地全体が一つの家族のように喜びに包まれていた。
私は赤子を抱きながら、静かに呟いた。
「これからは、私がお姉ちゃんなんだね」
――俺の人生に“妹”なんて役割が加わるなんて。
しかも、この世界で。
不思議と、胸の奥が温かく満たされていった。
次回予告
第二部・第十七話(第42話)
「姉として――戸惑いと決意」
妹の世話に翻弄されるレティシア。聖女の威厳ゼロでおむつ替えや夜泣きに大奮闘!
だがその中で「守るべきもの」を改めて見つめ直すことになる――。




