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辺境伯令嬢は内政チートで世界を変える ~そして聖女は大陸を笑顔で包み込む~  作者: 赤井咏紗
第二部 聖女レティシアと世界樹の試練
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第二部・第八話(第33話) 精霊との対話――聖女の資格

 夜の森は深い静寂に包まれていた。

 私は長老たちの導きで、世界樹の根元へと足を運んでいた。


 巨大な根は地を這い、幾千もの脈を持つように脈動している。

 その奥には、淡い光を放つ泉があった。

 「……ここは、精霊と語らう聖域」


 囁くような声とともに、長老たちは後ずさり、私一人を泉の前に残した。





 泉の水面に光が広がり、無数の粒子が舞い上がる。

 それはやがて人の姿を形作り、透き通る声が響いた。


 「――人の子よ。そなたが“聖女”かを見極めよう」


 無数の精霊たちの声が重なり合い、森全体に響き渡る。

 「問おう。聖女とは何か。奇跡を起こす者か、信仰を集める者か」





 私は震える唇で答えようとした。

 しかし胸の奥で、もう一人の声が囁く。


 ――(俺はずっと、数字と仕組みで何とかなると思っていた。

  前世の知識があれば、この世界でも余裕だって……そう思ってた)


 その考えは、この森で完全に打ち砕かれた。

 信仰も、感情も、理屈だけでは動かない。

 「俺は……恥ずかしい。ずっと、自分だけが賢いと思っていた。

  けど本当は、ただの人間で……必死に生きてるだけなんだ」


 心臓が痛むように高鳴る。





 私は顔を上げ、泉の精霊たちを真っ直ぐに見つめた。

 「聖女とは……奇跡を起こす存在でも、信仰を集める象徴でもないと思います。

  “いま”を生きる人々と共に立ち、苦しむ者と共に抗う者です」


 声は震えていたが、確かに自分の言葉だった。


 「私は神童ではなく、万能でもありません。

  でも、この命が燃え尽きるまで……精一杯、この世界を生きます」





 泉の光が一層強く輝いた。

 水面に浮かぶ精霊たちは、静かに微笑むように形を変える。


 「偽りはない。そなたは人でありながら、人を越えようとする者」

 「奇跡は知識ではなく、決意から生まれる」


 光が私の胸に流れ込み、温かな熱が体を満たした。

 世界樹の亀裂がわずかに閉じ、葉に緑が戻っていく。


 「……これは、私が選んだ道」

 ――俺が、俺として生きる道だ。





 気がつけば、泉の前には誰もいなかった。

 ただ、風が優しく吹き、葉擦れの音が私の誓いを肯定しているように思えた。


 「私は、聖女レティシア。

  前世の俺ではなく、この世界で生きる私として――必ず世界樹を救う」


 声が夜空に溶け、星々がひときわ強く瞬いた。

次回予告


第二部・第九話(第34話)

「世界樹の再生――にぱぁスマイルの奇跡」


精霊に認められたレティシア。だが魔導卿ヴェルゼンは最後の妨害に動き、世界樹を完全に堕とそうとする。

仲間たちが支える中、聖女の象徴として放たれるのは――必殺「にぱぁスマイル」。

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