第十六話 王都からの召集――神童令嬢、宮廷へ
王宮という巨大な政治の舞台で「神童令嬢レティシア」がどのように利用され、試されるかを描きます。
暗殺未遂の余波は、想像以上に大きかった。
「辺境伯令嬢は自らの笑顔で暗殺者を退けた」
……という妙に脚色された噂が王都にまで届き、俺の名は一気に広まった。
そして、ついに王から正式な召集状が届いたのだ。
> 「神童令嬢レティシアを王都へ召し出し、宮廷にて才を披露せよ」
父は眉をひそめ、母は涙ぐみ、家臣たちは動揺した。
俺は深く息を吐いた。
――逃げられない。今度は数字じゃなく、権力の渦の中で戦う番だ。
王都の宮廷。
磨き抜かれた大理石の床、壁を覆う豪奢なタペストリー。
だが美しさの裏には、刺すような視線が潜んでいた。
「噂の神童令嬢か……」
「辺境の小娘がどこまで通用するか」
「第一王子派か、それとも第二王子派か……」
臣下たちの視線には好奇と侮蔑、そして計算が入り混じっていた。
玉座に座る王は老齢ながら瞳は鋭く、声には威厳があった。
「レティシア。そなたの才覚は王都にまで轟いておる。
ゆえに問う――王国を救う知恵を持つというのは真か?」
俺は緊張で喉を鳴らしながらも、一歩進み出て言った。
「はい。数字と仕組みをもってすれば、戦も飢饉も回避できます」
大広間がざわめく。
だが、その声をかき消すように王は静かに頷いた。
「ならば証を立てよ。三日のうちに、王都の財政を立て直す策を示せ」
――出たよ。超短納期案件。
その後、宮廷内での俺への風当たりは強烈だった。
「辺境の田舎娘が口を出すなど笑止」
「第一王子殿下に媚びるための策だろう」
「いや、第二王子派が後ろ盾にしているに違いない」
どちらの派閥も、俺を“利用するか、潰すか”の対象としてしか見ていなかった。
廊下ですれ違った貴族令嬢が小声で言い捨てる。
「……王妃の座を狙う気?」
俺は即座に心の中で突っ込んだ。
――狙ってない! 内政だけしたいんだってば!
与えられた滞在用の部屋で、俺は机に向かって必死に書き続けた。
収支の推移、無駄な宮廷支出、軍事費と農村補助金のバランス……。
王国の財政は想像以上に危機的だった。
「これでは、あと三年も持たない……」
震える手でペンを置き、窓の外を見上げる。
――だが逆に言えば、立て直せれば俺の立場は揺るぎない。
この政争の中で生き残る唯一の手段は、結果を出すことだ。
静かな夜、俺は蝋燭の火を見つめながら誓った。
「剣も魔術も王族の威光もない。
俺の武器は、ただ数字と仕組み。
だが――それで王都すら動かしてみせる」
心臓はまだ震えている。
でもその震えは、恐怖だけじゃなく……奇妙な高揚感でもあった。
――異世界転生したおっさんが、宮廷政争で内政チートをかます。
やってやろうじゃないか。
次回予告
第十七話 神童令嬢の試練――王都財政を救え
三日の猶予で財政立て直しを命じられたレティシア。陰謀渦巻く宮廷で、数字と仕組みを武器に勝負を挑む。果たして「神童令嬢」の知恵は王と貴族たちを納得させられるのか――!?




