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「シャノン!!無事でよかった……本当に良かった」
フローラは数日ぶりに登校してきたシャノンに抱きつき涙した。
シャノンがエリザに雇われた男達に襲われかけたとトルネオから聞かされた時はショックで血の気が引き倒れそうになった。
未遂で終わったと聞いて安堵したけれど、親友をそんな目にあわせようとしたエリザと、大元の原因となったアレックにも強い怒りを覚えた。
「心配かけてごめんね。何事もなかったし私はすぐにでも登校したかったのだけれどお兄様とアレックが駄目だって行かせてくれなくて……」
「ううん、怖い目に遭ったのだもの。しっかり休むのは当然よ」
フローラは本当はすぐにでもシャノンの元に駆けつけたかったのだけれど、シャノンはマクリール公爵邸で療養しており、格上の公爵邸へ招待もなしに行くことはできなかった。
面会を申し出ても事件後の警戒の為か断られ歯痒い思いをさせられたのだった。
シャノンとフローラは午前の授業は欠席することにして、いつものカフェテラスへと場を移すことにした。
落ち着いて話す為にとやってきたいつもの席には既にジゼルが座っていた。
「え、待ってたの?」
「そりゃそうだろ。シャノンは今日登校するってトルネオ様から聞いてたし。どうせここに集合することになるだろうって思って」
「行動読まれてる。こわっ」
「お前達が分かり易すぎるだけだろ」
いつものフローラとジゼルとの会話をシャノンは嬉しく思いながら席に座る。
ジゼルが買ってきてくれた紅茶を飲みながら、シャノンは心配をかけたことを改めて謝り、事件について説明をした。
「―――……あっぶな、それ、ジンっていう人じゃなかったらシャノンはヤラれて他国に売られてたかも―――グフッ!」
「ちょっとはオブラートに包みなさいよ」
フローラはジゼルの横っ腹を肘で強めに小突き、ジゼルのあけすけな言い方を諌める。
「ううん、本当その通りなんで。自分の軽率な行動を深く反省してる」
ションボリするシャノンを見てフローラはやり切れない感情になった。
シャノンはずっと悪意や嫉妬、妬み嫉みといった女の醜悪な部分とは関わらず生きてきたのに、困っている人がいれば普通に手を差し伸べるのがシャノンという人間なのに、それを軽率な行動だと反省しなくてはならないなんて、フローラは悔しくて腹立たしかった。
シャノンは全く悪くないと、声を大にして本人を慰めたいけれど、今のシャノンにそれは言うべきではないと分かっていた。
シャノンはもう、あのアレック・マクリールの婚約者である以上、今までの綺麗な世界だけを見ているわけにはいかないのだから。
「……本当に無事で良かった」
「うん」
「これからは気をつけないとね」
「そうだね。色々、自覚しないとね」
そう言うシャノンは以前より大人びて見え、フローラはシャノンの中で何か覚悟を持っているように感じた。
「それにしても、まさかまた学校長の娘が犯人とはね」
ジゼルが呆れたと言わんばかりのため息をつく。
「一度目は学校長が随分娘を庇ったから比較的軽い処分になりそうだったのに、さすがに今回はもう学校長も庇えないだろうな」
「……そうね」
エリザの処罰が決まった事をシャノンはアレックから聞いている。
処分保留の謹慎中の身でありながらの再犯であることから、国で一番過酷な辺境の地にある修道院へ生涯監禁されることになったらしい。
異例とも言える速さでエリザが裁かれたのは、アレックがあらゆる権力を使って独断で行ったからだろうとシャノンはクリスから教えられた。
未遂に終わったとはいえ、エリザのしようとした事は許されることではないし、シャノンも今回ばかりはエリザを庇う気にはなれなかった。
エリザが雇った三人の処罰も重いものになりそうだったが、シャノンは彼らがそこまでの罰を受ける必要はないと感じていた。
平民が貴族を害することは重罪だが、彼らは貴族からの依頼は断れなかったのだろうし、とりわけジンに関しては助けてくれた恩があるとアレックに訴えた。
アレックは納得がいかないといった顔をしていたけれど、しぶしぶ了承し、ジンは無罪放免、他の二人は数カ月の無償労働という処遇になった。
こういう醜聞は貴族社会の好物で瞬く間に広まることをシャノンは知っている。
エリザ達の処遇はそのうち嫌でも皆が知るところになるだろうし、そのことを自分の口から二人に伝える必要はないと思い、シャノンは口をつぐんだ。




