逆転の中華
◇◇◇
同時刻――。
都内にあるマンションの一室――。
ここはオカマ社長として冷凍食品業界でも有名な『飯田権蔵』の事務所の1つで2LDKのマンションだ。
権蔵は都内でいくつか部屋を借りてそこを事務所としており、夜の時間は時折、社員のドライバーの仮眠室にもなっていた。
今日は夜間作業はなく、事務所には社長の娘である『飯田芽以』1人がいて……。
「ああ……もう! また失敗! な、何で上手くいかないのよ……」
広めのキッチンで頭を抱えていた。
テーブルには中華料理を基盤とした品々が所狭しと並べられていた。
エビチリ、麻婆豆腐、チャーハン、バンバンジー、よだれ鳥、その他もろもろ……軽く5人前ほどはある。
見た目は豪華で、食器類も気合を入れているので、どこかのホテルで出てきそうレベルだ。
「はぁ……食べれない程ではないけど……味はスーパーのお弁当レベルなのよね……とてもじゃないけど、あの人に胸を張って出せないわよね……はぁ、この料理はとりあえず冷凍して、親父の弁当にしよう……ああ、当分中華ね……」
芽衣はため息をつきながら、お皿から用意したタッパーに料理を詰めていく。その際に今日食べるだけは別にしていく
「はぁ……翔さんに早く振舞いたいな……」
そんなことを考えていると先日の翔の家での出来事が頭に過る。あろうことか深夜に家に乗り込んで、無理やり泊まり込んだ記憶が……。
「~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
顔が赤くなり、あまりの自分の馬鹿さ加減に頭が痛くなる。穴があったら、入って数日間は誰とも話さない、暗闇の世界にいたかった。
「はぁぁぁぁぁぁ、私は何で翔さんのこととなると、こうもう月の女神にも中指を立てるぐらいの反抗期になるのかしら……い、いや、でも、翔さんの好みに合わせた結果なんだから多少は仕方ないんだけど、でも、でも、あそこまで、きつく言う必要なんてどう考えてもないし。ああ、翔さんを前にすると、頭が真っ白になるから! ああでもでも、結婚してもキャラ作らないと喋れないとか、ありえないでしょ……はぁぁぁぁ」
また深いため息をする芽以。完全に恋する乙女だ。
芽衣のこの恋は『2年前』から始まっている……それから空回り続けていたのだが、芽以は今のままでいいと思っていた。
漠然と、いつか、この想いを翔に伝えて、やがて結ばれたいと願っていた。
しかし――。
「ま、まさか、いろいろすっとばして結婚するなんて。どんな神に依り代にされればそんな奇跡が起こせるの? しょ、翔さん、女っけなかったじゃん……ま、まさかここでラグナロクが起こるなんて想像もつかなかった……しかも相手は超美少女と……も、もう、結婚してるんだから無理かもしれないけど……そう簡単には諦められない」
芽衣の想いは強い。
はい、そうですか、とは諦められない。
(……翔さんもあの結婚には納得してなかったぽいし……なら、まだ私にもチャンスがある筈。なら……!)
だからこそ、芽以は――。
「まずは料理! 本格的な中華の満漢全席で翔さんの胃袋をハンドクローする! そして、ちょっと気になる女の子ぐらいに格上げされるぐらいには」
料理を取り組み始めた……そして、社長の食事は当分中華漬けになるのだった。




