番外編 美香ちゃんとウサギさん 3(完)
その後、私たちは二時間練習をし、帰り支度をする。
「美香ちゃん。光太郎と帰らなくていいの?」
「うん、友だちと学校のウサギを見てくる」
いつもは義兄と帰っているが、今日は用があるのだ。
私は春香ちゃんと別れて小学校に向かう。
外はすっかり暗くなっていた。
小学校に戻ると由香里ちゃんと乃愛ちゃんがいた。
あらま、早い。
「ずいぶん早かったんだね」
私を見て由香里ちゃんがにっこり笑った。
「うん、ウサギが気になっちゃってさあ。乃愛もそうだよな?」
「違うから! 私はテストだったから早かったの!」
「テストで早かったって、途中で抜けてきたんだろ。心配なくせに」
「むー! 由香里、なんなの!」
なんとなくわかってきた。
乃愛ちゃんは……ツンデレだ。
わかりにくいがツンデレなのだ。
そうか! だから微妙にイラッとさせられていたのか!
義兄がいなくてよかった。義兄ならからかって遊ぶところだろう。
「少し見るだけですから」
そそくさと私はウサギ小屋に行く。
まだ学校には電気が灯っている。
今の先生は忙しい。夜遅くまで誰かはいるだろう。
私たちはウサギ小屋の前に行く。
外側のロックを外して、中の小屋を……網が破られている!
「クロちゃん! ブチ子ちゃん!」
だがウサギはどこにもいない。
「美香ちゃん、先生呼んでくる!」
えっとホラー映画の鉄則、分れたら死ぬ。
「みんなで行こう!」
私はそう言うと、みんなで職員室に向かう。
昇降口は閉じてるので裏口から侵入。
そのまま職員室に……。
ガラガラガラ!
「先生! ウサギが……」
安永先生がいた。ただし……縛られて。
手足を梱包用のテープでグルグル巻きにされていた。
口にもテープ。
よく見ると、用務員のおじさんも縛られている。
「先生! どうしたんですか!」
私は机の上からハサミを取ると、テープを切る。
口のテープを一気に剥がす。
この間も由香里ちゃんも乃愛ちゃんも固まったままだ。
危険慣れしてる自分が嫌だ。
「て、寺島さん! な、なんで!」
「いいから! 警察呼んでください!」
その瞬間だった、ガシャンと窓ガラスが割れる音がした。
「ひいッ!」
安永先生が頭を抱える。
ええい! 役に立たない!
私は用務員のおじさんの拘束を解く。
そしてスマートホンで警察を呼ぶ。
「もしもし……警察ですか……」
だけど間に合わなかった。
次の瞬間、ガラガラと職員室の扉が開く。
入ってきたのは男だった。
だらしのない格好でその手には包丁が光っていた。
「クッソッ! なんだあの野郎! いきなり窓ガラスを破って入って来やがった! って、なんだお前ら!」
「「きゃあああああああああああッ!」」
とうとう限界が来てしまった。
由香里ちゃんと乃愛ちゃんが一斉に叫ぶ。
だめ! 犯人を刺激しちゃ……。
私は走ると男を突き飛ばした。
男はバランスを崩してよろけた。
だめだ! 体重が足りない。
でも時間は稼いだ。私は二人の手を取ると先生のところまで逃げる。
そして椅子をつかむと前に構える。
「この、くそがきがあああああああああッ!」
男が叫んで突進してくる。
えい! 椅子発射!
私は椅子を放り投げる。
椅子は男に命中、怯んで足を止めた。よし、私偉い!
「先生! 刺股! 刺股出して!」
「えっと、廊下に……」
ええい! 使えない!
私は机の上のものを次々に投げつける。
ええい、もうちょっと重量のあるものはないか!
あった! 私は電気スタンドを投げつける。
「ぐッ! てめえ、ざけんな!」
犯人は一直線に私に向かって走ってくる。
ああ、これは終わった。美香ちゃんの来世にご期待ください。
ところがその時だった。
ガシャーンと職員室のドアが吹っ飛んだ。
「てめえコラ! 俺の義妹に何してくれてんだ!」
職員室のドアを蹴り破ったのは、世界最強の中学生。私の義兄にして相棒。相良光太郎だった。
「くそおおおおおおおおッ! てめえ何なんだよ! さっきもガラス破って入って来やがって!」
男は包丁を振り回す。
あ、死んだ。私は思った。
誰がって? 犯人が。
義兄は先の事件で悪魔に歯が立たなかったことを悔しがっている。
だから刃物への対策に関して、本当に真面目に学んでいる。
義兄は男の懐に入った。
斬撃が義兄を襲う。
だが義兄は笑っていた。
いや違う、あの顔は激怒しているときの顔だ。ブチ切れすぎて逆に笑っていたのだ。
義兄は全ての斬撃を手で流してしまう。
特殊部隊の人かと思う動きだ。
「クソッ!」
男が義兄に突きを放った。
義兄はサイドにまわりながら男の顔面に裏拳を入れる。
「がぶッ!」
男が悲鳴を上げる。
ゴツリといい音がした。鼻を折ったのだろう。相変わらずえげつない。正義のヒーローの使う技ではない。
そのまま流れで手首をつかむと手首を折りたたんで、放り投げた。
かなり変形だけど小手返しだ。
まるで演武会でのデモンストレーションのように男が飛んだ。
頭から床に落ちる。
そのまま手を持ち替えて、関節を極める。
だけど私は知っていた。男は頭を打って気絶していたのだ。
すでにKOした相手を押さえ込んで関節技を仕掛けている。
敵には容赦しない。それが義兄なのだ。
「お義兄ちゃん……どうして?」
「吉村に聞いたんだよ。ウサギを見に行ったって。外で吉村が警察を呼んでるはずだ。あーあ、明日はお説教か……」
またネットニュースに顔が載るだろう。
義兄は警察のお得意さんなのだ。
「感謝状は出ると思いますよ」
「でも窓ガラス割っちゃったからなあ……」
とほほっと言いながら関節を極める手に力を入れる。
あーあ、あれは怒っている。パキパキと音がしているもの。
「ごめんなさい。お義兄ちゃん」
「いいってことよ。これもかわいい義妹のためってやつよ」
パトカーのサイレンが聞こえてくる。
ようやく一息ついた。
怖がっていた二人はというと……。
「「光太郎さん……かっこいい……」」
ダメだこりゃ。二人とも恋愛脳なのである。
先生はというと。
「かっこいい……」
もっとダメだった。中学生にときめくな! この恋愛脳ども!
こうして事件は終わったのである。
でもウサギはどこに?
◇◇◇
クロちゃんとブチ子ちゃんはすぐに見つかった。
小屋はただ壊されていただけで、二匹は校庭で草を食べていたのだ。
犯人は小学校に嫌な思い出があって、犯行に及んだらしい。
ウサギをさらったのではなく、近くにあるものを壊していたのだ。
義兄はいつものように警察に呼ばれて、一通り注意を受けたのち解放された。
今回は被害が少なかったので感謝状が出るらしい。
犯人は鼻をへし折られ、手首と肘を捻挫していた。
また一つ義兄の伝説が刻まれたのである。
私はというと……。
「美香ちゃん。迎えに来たよー」
いつものように二人が迎えに来る。
義兄も途中まで一緒に行く。
私にもようやく友人ができたらしい。
「あの光太郎さん。好きな人っているんですか?」
乃愛ちゃんの声が甲高い。
友人……なのだろうか?
由香里ちゃんも恋する乙女の目をしている。
だけど強敵がいるのだ。
「光太郎!」
春香ちゃんが合流する。
美人の出現に二人の目が丸くなり、金魚のように口をパクパクさせた。
「ちょっと美香ちゃん! あの人誰!」
乃愛ちゃんが私の袖をつかむ。
「誰あのすっごい美少女!」
由香里ちゃんも袖をつかむ。
「春香ちゃんです。たぶん、お義兄ちゃんの彼女に一番近い人」
私は春香ちゃんに聞こえないように言った。
春香ちゃんは、この話題だけはムキになって否定するので面倒なのだ。
「聞いてない! 聞いてないよ! どうやって追い落とすか……」
乃愛ちゃんが爪を噛む。怖いのですが。
「あのね、乃愛ちゃん。春香ちゃんがあきらめても、次はあの北条美沙緒ちゃんがライバルだから」
「美香ちゃんのお兄ちゃんって、どれだけモテるのよ!」
「由香里ちゃん、本人は非モテだと思ってるから……」
もう! 面倒くさい!
お義兄ちゃんのバカー!
今夜お義兄ちゃんのアイス絶対に食べてやるんだから!
でもなんでこんなに腹が立つのだろう? 不思議だ。
ステータスが見えるようになった俺は君を絶対に救い出す! ~俺と天使の事件捜査ファイル~
徳間書店様から明日発売です!




