第二章 最終話 世界よ! 俺に優しくしろ!
あれから2週間がたった。
俺は肋骨の骨折で一日入院しただけで解放された。
警察の方もさすがに今回ばかりは逮捕されると思ったがそれもなかった。
なぜなら……
こんがりと焼かれた穴戸は死んでいなかった。
穴戸は死んでも当たり前の火傷……どちらかというと炭に近い状態で救出された。
それでも生かされているのは現代の医学のおかげだろう。……ということにしておく。
俺シラネ。
意識もハッキリしており、穴戸の口からは過去の悪行がわんさか語られたらしい。
……手足は失ったがな。
数年後には殺人罪での死刑判決が下ることだろう。
これだけでも殺人罪ではなくなったが、さらに事態は俺に有利に動いた。
俺が自動車を殴ったのはハッキリと証拠として全世界に配信された。
世界中の誰もが俺が自動車を破壊したと知っている。
だが、俺が突進してくる自動車を殴ったことと、自動車が跳ね上がって爆発炎上したことの因果関係は証明されなかった。
科学的にありえない現象は存在しないのだ。
とりあえず専門家たちは、『俺の迫力にビビった穴戸が運転操作をあやまった』という結論を出した。
天罰の一撃はあくまで事故として扱われた。
なぜそんな無茶がまかり通ったのかは本当に説明が難しい。
俺は自宅のテレビをつけた。
髪型が不自然なアメリカの王様が映っている。
いつものしかめっ面はどこへやら、どこか機嫌がいい。
「ありがとうHIKARU! 神のご加護を!」
なぜか俺の名前が出てくる。
……本当に難しい話だ。
ウルフズベイン。
穴戸が幹部をやっていたサイトの名前だ。
会員数全世界に数万人。
クレジットカード番号や各種個人情報、サイバー犯罪代行、ドラッグ密売に人身売買売、殺人の請負までなんでもありのブラックマーケットだ。
一番人気は子どもの売買と、殺人動画の販売。
スナッフフィルム部門を統括する数多くいる幹部の一人が穴戸だったのだ。
悪魔と言うのもはばかられるレベルのクズ野郎どもの巣である。
つまりだ……警察は優秀だった。
もっと大きなものを追っていたのだ。
そう、あの日救急車が足りなかった理由。俺の護衛に割かれた警察官が少ない理由。
それは俺が死にかけていた裏でウルフズベイン関係先への家宅捜索が行われていたのだ。
場所はサーバーが設置された場所。
それも分散されたネットワークのため都内数カ所にも及ぶ。
警察の威信をかけた一大作戦だったのだ。
日本では珍しい銃撃戦が行われ、逮捕者数十人。
犯人側にかなりの数の死亡者が出た。
警察官にも大量の怪我人が出たのだ。
そりゃ救急車が足りないわ。
俺が病院に運び込まれた頃、アメリカやロシア、中国など世界各国でも一斉に関係先が警察の摘発を受けた。
わかっているだけで逮捕者数千人。
ちょっとやんちゃな国家がその場で処刑した人数は非公表だ。
キレた警官がガソリン投げこんで焼き殺したとか、丸腰の相手をその場で撃ち殺したとか、チラホラ話が漏れ聞こえている。
これはダークウェブ最大、いやネット史上最大の事件だった。
それを成敗したのが俺……ということになった。なぜか。
警察が焼き殺すよりはヒーローを作り出して丸投げした方がマシ。
小さな事件を俺の手柄にして、褒めまくる。
そして大きな事件を自分の手柄にすれば支持率大幅上昇!
という政治判断に違いない。
……皆川の嘘つき!
なにがはぐれ悪魔だ。
大帝国を築いた超大物組織の枝じゃねえか!
おっぱい揉ませてくれるまで許してやらないんだからね!
皆川も! 遠藤さんも! 警察の偉い人たちも!
みんな、みんな、嘘つきばかりだー!
うわあああああああんッ!
と、ぼやいても仕方がない。
なにせそのおかげであの無茶な理論がまかり通り、俺の首は皮一枚で繋がったのだ。
なにせ各国の首脳陣が俺への謝意を表明。
その尻馬に乗ってセレブと言われる連中まで俺をもてはやした。
ここまでされてなぜ俺は童貞なのだろうか?
不思議で仕方がない。
ここまで話が大きくなっては俺を逮捕することも、俺を非難することもできない。
世界を敵に回す根性のあるものは少ないだろう。
俺が警察でも全力で隠蔽する。
神様がどこまでを買収しているかは怖いので考えないことにする。
皆川は母親と暮らすことになった。
遠藤さんと皆川に血縁があったのか?
それはわからない。
俺が知るべきではない情報だろう。
だが二人は親子として暮らすことに決めたのだ。
皆川は情で動いていたのか……それとも罪悪感で動いていたのか……
俺としては優しさゆえに法をはみ出したと考えたい。
俺には別のカウンセラーがあてがわれることになった。
今度のカウンセラーは柔道三段。握力160キロらしい。
それボディガードですよね。
ここまでやっては遠藤さんが警察にいられるはずもない。
北条の関係先に就職予定だそうだ。
お幸せに。
さてHIKARUの話だ。
ほぼ都市伝説のような存在であるHIKARUは、俺が『死んだという設定にしてくれ』と、事務所に泣いて頼んだのに未だにしぶとく生存している。
『しっぽの生えた天使』とか言うな!
わけわからんわ!
とりあえず俺はしばらく美少女アイドルをやる羽目になりそうである。
バカなの! ねえバカなの!
俺がリビングで休んでいるとチャイムが鳴った。
美香だ。
俺は玄関を開ける。
そこには美香と吉村、北条に皆川がいた。
今日はお疲れ会なのだ。
「お兄ちゃん。お菓子買ってきたよ♪」
「おう、悪いな」
なにせ俺は肋骨を数カ所を骨折。
いまだに完治してない。
俺をクッションにした皆川は軽傷。
なんだろうかこの扱いの格差。
北条はソワソワしている。
玄関に上がると目を輝かせた。
「ものども! エロ本漁るぞー!」
「ら、らめえええええええええッ!」
「らじゃー♪」
美香が俺の部屋に走る。
北条もついて行く。
「吉村……俺はお前を信じている……」
吉村は微笑む。
それでこそいい女だ。
「みんなー! たぶん光太郎はPCに隠しフォルダ作って管理してるよー!」
「吉村ああああああああッ!」
裏切りやがった!
吉村も消える。
玄関には皆川と俺だけになった。
「悪いな皆川」
「いえ……」
なぜか皆川は顔が赤い。
なんだろう?
「あの……光太郎くん。ご迷惑をおかけしました」
「いいってことよ」
揉ませてくれたら全てを許そう!
なんてバカな台詞は口が裂けても言わない。
俺たちは見つめ合う。
なんとなくお互いに顔が近づいていく。
キス!? キスしちゃう!? とうとう俺ちゃん脱童貞への偉大な一歩を踏み出しちゃう!?
「あー! お兄ちゃんたちなにやってるの!」
美香の声に俺たちはビクッとした。
慌てて離れる。
俺はバランスを崩してすっころんだ。
その音を聞いた北条と吉村がやって来る。
「どうしたの!?」
「あ、お姉ちゃん、春香ちゃん! お兄ちゃんと晶ちゃんがね……」
らめ、言わないでー!
鬼のような形相になる三人。
嗚呼……マゾという名の下に……
この絶望的な状況を少し楽しんでいる自分が恨めしい。
皆川はもじもじとしている。
「ラブコメの波動を感じる……きー!」
美香が俺に飛びかかる。
できればこのまま平和な日常が続きますように……
できれば一刻も早く童貞を卒業できますように。
あとお前ら、少しは俺に優しくしろおおおおおおッ!
2章最終話です。
続きは……なにも考えてません……
とりあえず完結設定にしないでおきます。
なにも思いつかなかったら人知れず完結になるかもしれません。
修正はわりと軽微なのでサクッと……はい。
さらにナカ●ミビル版は……どうしよう?
今までありがとうございました!
新作は夏休み中には公開したいと思います。




