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「気にしてないって言ってくれ」
俺は左手で紅茶を飲みながら。右手で頭の輪っかをずらして日本語でジャスミンに返事をした。ジャスミンがうなずき、ミーリアのほうをむく。
「Bは気にしてないと言ってます」
ジャスミンの通訳で、ミーリアもレイリアも笑顔になった。なんとなく気恥ずかしい。あんまり考えないようにしながら俺は紅茶を飲み干した。
「それで、Bが獣人類だということはわかった。ただ、だからと言って、ナイトゴーレムをたおせたとも思えない。あれは、ドラゴンの息吹だけではなく、近距離で蹴られても壊れないように製造されてるはずだ」
ミーリアが話をつづけた。確かにな。鉄の塊を殴ってるみたいな気分だったし。車のボンネットくらいなら変形させられるんだが、あれはびくともしなかった。
「教えてほしい。どうやってたおしたのだ?」
「ナイトゴーレムの、目の部分を塞いで、一瞬の隙を突いて、持っていた大剣をとりあげ、それで斬りたおしました」
俺に通訳せず、そのままジャスミンが説明した。ミーリアが眉をひそめる。
「あの大剣をとりあげた、だ?」
「ありえない。あの大剣は、普通の騎士が使う剣の50倍の重量があるはずだ」
ミーリアとレイリアが言うのを見て、ローズが顔をあげた。
「私も見てたわ。Bは、あの大剣を振りまわして、ナイトゴーレムを斬ったのよ」
「本当か?」
今度はミーリアが俺のほうをむいて訊いてきた。
「本当にナイトゴーレムの剣を振りまわして、ナイトゴーレムを斬ったのか? だって」
ジャスミンが通訳してきたから俺はうなずいた。ひきつづき、ジャスミンが通訳し、説明も補足する。
「とにかく、Bはナイトゴーレムを斬りたおしました。いまは補修してプログラミングしなおし、私たちの村を守る、普通のゴーレムとして稼働しています。それから、ナイトゴーレムが暴走した証拠として、奪いとった大剣を、私たちはこの町まで馬車で運んできました。午前中に、ナイトゴーレムを製造する工場に持って行って、責任者のアーバイルに見せています。アーバイルも、大剣がある以上、ナイトゴーレムが暴走して私たちの村に入りこんだという話を信用しました」
「馬鹿な!」
ここで叫んだのはレイリアだった。眉をひそめながら立ち上がる。
「ナイトゴーレムはドラゴンから私たちを守ってくれる超兵器のはずだ。それが暴走してエルフたちを襲うなど――お爺様が、そんな欠陥品をつくるはずがない!」




